第949話、シェード遊撃隊


 グランラドガー城の海軍司令本部。空軍と統合された海軍の最高責任者であるアノルジ元帥は、シェードに告げた。


「西方方面軍は、まあ、しばらくは再建だな。拠点も含めて、今後の戦略の見直しが必要だ」

「はっ……」

「幸いというべきか、東方方面も侵攻作戦を行える状況ではない。本来、西方方面侵攻で手に入れるはずだった資源も、そこまで急がなくてよくなった」


 東西両方面軍が再建というのは、本来あってはならない大惨事である。古代文明の兵器を得て、無敵だった大帝国軍はまさかの敗戦を繰り返している。


「そこで貴様の処分だが――」


 アノルジは、指をくいくいと動かして、シェードを呼ぶと封筒を渡した。


「西方方面軍の司令官は解任だが、貴様をクビにするほど大帝国も人材には恵まれていない。楽をさせるつもりはないので、働いてもらうぞ」

「はっ!」


 シェードは姿勢を正し、踵を鳴らした。アノルジは封筒の中身を確認しろと仕草で示した。検めるシェード。


「独立遊撃隊……通称、『シェード戦隊』?」

「仮の名前だ。何か適当な名前があったら教えてくれ」


 アノルジは、そう言うとベルを慣らして、従者を呼ぶと飲み物を注文した。その間に、シェードは書類に目を通す。


 独立した遊撃隊として活動し、大帝国に敵対する勢力――反乱者艦隊を含む――を排除。


 現在のところ遊撃隊の戦力はインスィー級戦艦(魔法文明戦艦)四隻、コサンタ級ヘビークルーザー(魔法文明重巡)六隻、ミラール級フリゲート(魔法文明フリゲート)十八隻、コンカス級空母(魔法文明空母)一隻、その他補助艦数隻。そして――


「特型バトルクルーザー……?」

「ああ、古代文明の、色々な技術をゴチャ混ぜにして作った、魔法軍のビックリ巡洋戦艦だよ」


 アノルジは、従者が運んできた紅茶で唇を湿らせると、近くにある書類を手に取った。


「あの魔法軍の狂える魔術師殿は知っているな?」

「ジャナッハ魔法軍長官ですか?」


 ヴェリラルド王国侵攻作戦において、シェード艦隊が積んでいった魔法装置の多くが魔法軍の製品である。魔術師ジャナッハとは、好き嫌いは別として少々付き合いがあった。


「そう。あの御仁が、機械文明、魔法文明、そしてアンバンサーとかいう得体の知れない技術も取り込んで作ったオリジナル……いやスペシャルなのだそうだ」

「……」

「本当なら、『オニクス』を貴様にくれてやりたかったんだがな。あれは修理が必要だから、しばらくは、ドクター・ジャナッハのスペシャルで我慢してくれ」


 ――武装、38センチ単装プラズマカノン1門、22.8センチ三連装魔法砲16基48門、浮遊魚弾頭魚雷発射管8門、ほか。


 変な組み合わせだと、シェードは感じた。


 戦艦の主砲としてはディアマンテ級よりワンサイズ上の38センチ砲。だが一門のみ。

 コサンタ級重巡の主砲を三連装化したものを多数載せていて、しかも浮遊魚弾頭という初めて聞く兵装を装備している。


 側面から見れば、魔法文明戦艦に似ているシルエットだが、正面から見ると十字架のようでもある。そして多数の三連装魔法砲は、その横の張り出し部分に並べられていて、前方方向への砲撃能力が凄まじく高そうだった。


 他にも緊急ブーストユニット、結界水晶式防御障壁などを搭載、攻防ともに隙がない性能に仕上がっている。


 ただ独自の試作装備もあって、本格配備に向けての実験的要素も見受けられた。使い方によっては面白いこともできそうだが、精度についてはテストが必要と注意書きがあった。


「人材面も優秀な奴を揃えた。まあ、多少扱い難いと、他では持て余した奴もいるんだがな。貴様なら扱えよう」

「はっ」


 これら艦艇のほか、魔法文明兵器である航空機や魔神機、魔人機も配備される。数についてはともかく、現在の大帝国でも強力な戦闘部隊と断言できる。


「それで、任務の――あぁ、その前にひとつ別件なんだがな、貴様、個人副官の魔術師がいたな?」

「はい。……それが何か?」


 セラス――シェードに付き従う女性魔術師のことだ。非常に優れた魔術師であり、これまでシェードを助けてきた特別な女性だ。


「貴様、その副官に魔神機適性試験を受けさせていないだろう? 大帝国に所属する魔術師は全員が受けることになっているやつだ」


 当然知っているよな、とアノルジは目を鋭くさせた。


 所属部隊問わず、魔術師や魔法騎士に適性試験を受けさせるのは全軍に通知されている。

 西方方面軍司令官だったシェードも、その命令は各部隊に知らせたが……副官のセラスには業務が忙しいからと受けさせてこなかった。


「魔神機に空きがある。試験を受けさせろ」


 大帝国が遺跡から発掘した魔神機だが、それを操縦できる者は特別な魔法適性が必要で、高名な魔術師だから動くというわけではない。


 そんなわけで軍の魔術関係職の者をすべて検査、テストすることで操縦者を探しているのだ。親衛隊のサフィール将軍も、その試験によって適性を認められ、魔神機を与えられている。


 シェードは「わかりました」と答えた。その返事を確認し、アノルジは本題に戻った。


「貴様の戦隊の任務は、大帝国の敵の排除だ。まずは手始めに目障りな反乱者艦隊を掃除してもらいたい」


 黒い艦隊。大帝国の軍事拠点や研究所を襲撃する神出鬼没の空中艦隊。先日も、マキシモ大軍港を叩いたのが、この連中だったと報告を受けている。


「あの連中がどこに現れるかわからないために、帝都から戦艦部隊を動かすことができなかった」


 アノルジは苦い表情になった。


「結界水晶の配備が済んだとはいえ、皇帝陛下の庭先を襲撃されるなどとはあってはならないことだからな」

「その通りです、閣下」

「あの反乱者の艦隊が存在しなければ、エアガルも戦艦部隊を引き連れていくことができただろうに」


 戦艦は『オニクス』のみ。残りはクルーザーとフリゲートのみということもなかっただろう。

 反乱者艦隊(シャドウフリート)の襲撃を警戒して、帝都にインスィー級戦艦群を伏せさせておくこともなかったに違いない。


「それはさておき、今、陛下は古代文明遺跡の調査と発掘を重視されている。各方面軍も再建中だが、だからこそ、今、邪魔者を排除しておかなくてはならない。……貴様の任務は重大だ」


 アノルジが真っ直ぐ見れば、シェードはソファーから立ち上がり敬礼で応えた。


「はっ、必ずや帝国と皇帝陛下に反逆する者を排してご覧にいれます」

「結構。……期待している」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る