第948話、出頭するシェード
超長距離転移+アドヴェンチャー号ごとの転移に成功した。普通に転移魔法を使うのと要領は同じだから、思考をちょっと工夫すれば問題なさそうだ。
一応、ヴィオレッタ、ヴェルデのSSメイドに、船内の確認をさせて何かなくなっていたり異常がないか目視確認させる。機体搭載している
「長距離転移! 船ごと!」
アーリィーがアドヴェンチャー号を操縦しながら、興奮した声を出した。
「ボクはいつになったら君から驚かされないようになるのかな……。自信がないよ」
「悪いな、アーリィー。俺は人を驚かすのが趣味みたいなものだから、俺と付き合っている以上、一生驚いてもらう」
「退屈はしないよね、それ」
鼻歌でも歌い出すように楽しげなアーリィーだった。
アドヴェンチャー号は、砂地へと緩やかに降下する。リーレたちのワンダラー号が着陸しているそばに、船体を下ろそうとしているのだ。
俺はその間、アドヴェンチャー号の瞬間転移についての問い合わせについて、通信機にて返信する。
観測ポッドの情報から、アリエス浮遊島のディアマンテに話が飛んで、確認の連絡がきたのだ。他に、リーレたちの支援を担当する第一護衛戦隊からもだ。
アドヴェンチャー号は無事降下。SSメイドたちも船内に異常なしと報告してきたので、後を任せて、俺とアーリィーは下に降りた。
ワンダラー号随伴のSS兵――スークが俺たちを待っていて、リーレたちのいる場所へ案内してくれた。
「穴か……」
「穴だね」
「穴っすね」
俺が、砂地にデンと空いた大穴を見つめ、アーリィーが同意し、スークも頷いた。
「上からみたら、割と目立つよな」
「でも、まわりの地形が微妙に丘陵だったり、傾斜もあって、地上を歩いていると見えないね」
穴の大きさは、直径百メートル以上はありそうだ。でかい穴だ、本当。
近くにまで寄って、下を覗き込む。あ、浮遊魔法を俺とアーリィーにかけておく。覗き込んで落ちても大丈夫なようにね。地面が崩れて転落ってこともあるかもしれない。
「ひぇ……」
アーリィーが地面に手をついて、そこから見下ろす。
「この穴の壁、金属だね」
明らかに人工物だ。深さは数百メートル以上か。キャスリング地下基地の穴も深さは八百メートルあるが、穴の直径がそれより小さいので、底がよく見えない。太陽光が届かない深部だが、リーレたちだろう。光源が複数見えた。
俺は念話に呼びかけた。
『ベルさん、こっちは穴のところまできた。今どこだい?』
『その穴の底だ』
暗闇に浮かぶ光源のひとつが、くるくると回った。手に持ったカンテラとか懐中電灯を振り回して合図しているように。
『下に行くには、どこか道があるかい?』
『いんや、くそ長いロープでもなけりゃ、浮遊魔法で降りてくるのを薦めるね』
『ちなみに、底はどうなってる?』
『何もねえよ。上から降ってきた砂がたまってるくらいかな。いまアレティ嬢ちゃんが、点検用ドアを探して解除中だってよ』
『点検用ドア?』
『何でも、ここはデカイ大砲らしい。アキオだがアギオだかの大陸殲滅砲とかいう、物騒な武器だってよ』
大陸殲滅砲……だと? 俺は、アレティが教えてくれたアポリト島と八つの浮遊島のことを思い出す。そのうちのひとつの浮遊島に確か巨大な砲があった……。じゃあ、ここがそれか。
この大穴が大砲の砲口か。それまでただの穴だったのに、改めて見ると奇妙な感覚に苛まれる。
「どうしたの?」
アーリィーが俺を見上げる。何でもない、と俺は首を横に振った。
ここから恐るべき破壊をもたらす一撃が放たれていた――想像でも寒気がしてきた。町ひとつを簡単に吹き飛ばせる威力があったのではないか。……嫌な想像である。
そこへ、ベルさんの念話が聞こえた。
『ジン、入り口が開いた。中に入れるぜ』
・ ・ ・
ディグラートル大帝国本国帝都カパタール。その統合海軍司令本部の置かれたグランラドガー城に、西方方面軍司令官だったマクティーラ・シェード将軍はいた。
第一空中艦隊の旗艦だったディアマンテ級巡洋戦艦『オニクス』を本国に連れ帰ったシェードは、海軍長官であるアノルジの部屋に呼ばれたのだ。
「この度は、新編海軍の司令長官就任、おめでとうございます」
新編海軍――つい先日、大帝国では海軍と空軍が統合された。結果、今では『海軍』と呼称される。
「……おれにおべっかを使っても何もないぞ」
丸顔に冴えない顔つきの初老の海軍長官は、着席したまま書類から目を離さなかった。
「ま、貴様でなくとも、顔を合わせる奴は皆、そう言うわな」
適当に座れ、とアノルジ長官は、シェードにソファーに着席するよう示した。
「仕事が山のように増えてな。海のことだけ面倒を見ていればよかったのに、空中艦隊も全部おれに面倒を見ろという」
アノルジは皮肉げに口元を歪め、ようやくシェードへと視線を向けた。
「空軍司令長官だったエアガルは、ズィーゲン上空で戦死した。……ああ、これは貴様のほうが詳しいんだったな」
ヴェリラルド王国侵攻作戦『春』において、新生第一空中艦隊は壊滅した。『オニクス』に乗り、自ら陣頭指揮をとった空軍のパイル・エアガルは死んだ。
大帝国三軍の一角が墜ち、その結果が海軍と空軍の統合となったのは間違いない。
「馬鹿な奴だったよ。よっぽど貴様に『オニクス』を預けるのが嫌だったのだろうよ。……それで戦死とか、洒落にもならん」
アノルジは、わずかに怒りをにじませて壁を睨んだ。
シェードは脳裏に、アノルジとエアガルは同期だったことを思い出す。故人への悪態は控えるべきだと思うが、赤の他人ではなく友人としての憤りのこもったものと、シェードは解釈した。
「貴様は『オニクス』を連れ帰った。よくやった」
アノルジは控えめに褒めた。
「レポートは読ませてもらった。あの困難な状況でよく生き残ったものだ」
ヴェリラルド王国には、戦艦が十三隻も存在した。シェードは魔法文明艦もなしで、その戦場を突っ切り、損傷した『オニクス』を無事に離脱させた。
「ですが、ヴェリラルド王国侵攻のための一連の作戦は、悉く失敗いたしました」
春夏秋冬、すべての作戦が打ち砕かれ、あまつさえシェーヴィル領のマキシモ大軍港と西方方面軍司令部を失った。
西方方面軍司令官であるシェードにとって、責任者として処刑されても仕方のない敗戦だった。
特に大帝国貴族たちにとっては、出自の不明な成り上がりであるシェードの処罰を期待する声も大きいだろう。
「貴様は難しい立場にいた。だがエアガルが、初めから第一空中艦隊の指揮権も含めて委ねていたら、もう少しマシな戦いになっていたと思う」
その時は恐らく、死んでいたのは俺だろう――シェードは口には出さなかった。アノルジは続ける。
「あの時、エアガルを救助しようとした貴様の行動……あれが貴様の首を繋いだ。あれがなければ、本国でも同情する者はいなかっただろうよ」
しかし――と、アノルジはシェードを冷淡に見つめた。
「貴様がどうあれ、西方方面軍が壊滅した事実は動かない。マクティーラ・シェード将軍、貴様の西方方面軍司令官の任は解かれる」
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