第943話、リサイクル作戦
大帝国打倒。そのために連合国のケツを蹴飛ばして、連中にも働いてもらう。
装備の近代化、兵器を渡してやっているが、慣熟するまで待っていられない。とっとと動き出してもらい、さらなる戦力を貸してやるため、魔法文明時代の世界樹遺跡へ乗り込む。
大帝国もまた、魔法文明時代の遺産で戦力増強を図っているから、先にそれらを奪えればまさしく一石二鳥と言える。
「――というわけで、迅速かつ、手際よくやっていこうと思う」
俺は、アリエス浮遊島の作戦室に主な面々を集めて説明した。
今回は、遺跡絡みなので、すでにいくつか世界樹ありの遺跡を巡っている、リーレ&
「ここにいるアレティが、遺跡内部への入り方を知っている。今まで入る方法がわからなくて探索できなかった地下構造体こと遺跡も、場所が確定しているものには入ることができるようになったわけだ」
俺の傍らに立つ銀髪少女が会釈すれば、他の面々も頷きで返した。
「世界樹遺跡は八つだ」
折れた世界樹の遺跡。
エルフの里にある地下遺跡。
大帝国近くにある地下鉱山遺跡。
北の氷大陸地下の世界樹。
大陸南方砂漠の古代都市の地下。
「――ここまでは場所はわかっている。まだ正確に確認できていないのは三カ所」
大陸東方と西方に一カ所ずつ。さらに大陸東方、連合国より南の大洋の一カ所だ。
「東方と西方は、おおよその場所はわかっているが、その入り口は調査中。世界樹が外に立っていれば目印になるんだが……」
「まあ、地下だろうな。他んところと同様」
ベルさんが言えば、橿原も同意するように首肯した。
「そして最後、海の中に落ちたと思われるやつだが……位置はつかめたが、そこまでたどり着けていないという状況だ」
「海の底なんだよね?」
アーリィーが、ディアマンテに視線を向けた。
「はい、試しに潜らせた偵察ポッドは、海中生物に破壊されました」
外洋は危険がいっぱい。さらに深い海には、どんな海の魔物がいるのだろうか。
「さて、スフェラ率いるSS諜報部によれば、大帝国領近くの地下遺跡は、すてに彼らが占領している」
大帝国連中は、俺たちの部隊と交戦した折れた世界樹遺跡には増援を派遣しつつ、北の氷大陸、大陸西方と東方の遺跡に調査隊を派遣している。
「折れた世界樹の遺跡には、めぼしいものは残っていない。ここはしばらく放置しても問題ないだろう。だが北の氷大陸ほか、大帝国が調査中の遺跡は先回りする必要がある」
そこで――
「三つを同時にやっていこうと思う。一応、各遺跡に部隊を派遣するが、それとは別に俺、ベルさん、そしてリーレと橿原組の三つのグループを編成する」
俺のグループは北の氷大陸。ベルさんのグループは、大陸南方砂漠の古代都市。そしてリーレ&橿原組は、正確な場所がわかっていない大陸東方の遺跡、その入り口探し。
「このグループ分けの意図は?」
リーレから質問が飛んだ。
「位置のわかっている場所は、兵器を回収するのが目的だからね。サイズを気にせずポータルを作れるのは、俺とベルさんだけだから」
遺跡から魔法文明兵器を運び出すが、艦艇サイズもとなると、その場でポータルを作る必要になるだろう。
「で、まだ場所が特定されていない遺跡を君らに任せるのは、まずアクセスできるポイントを見つけてもらうためだ。この中じゃ、リーレたちが一番、遺跡探しの経験があるからな」
ゴホン、とダスカ氏が、わざとらしく咳払いした。古代文明研究家の彼を差し置いて、一番とか言ったのが、お気に召さなかったようだ。リーレは皮肉げに初老の魔術師を見た。
「先生もこっちへ来るかい?」
苦笑して肩をすくめるダスカ氏。俺は続けた。
「グループは三つに分けるが、遺跡内を知っているのはアレティだけということ。あと、今リーレに預けているカード……あぁそれ、何でも浮遊島の重要区画へアクセスするためのキーカードらしい」
リーレがゲルリャ遺跡で回収して以来、持ち歩いているカードを出した。アレティのおかげで、ようやく何なのかわかった。
「そのキーカードは手元に一枚しかない。というわけで、ポータルでその都度、移動することになると思う」
「だったら、このカード、そっちへ預けておこうか? どうせあたしら持っていてもしばらく出番ないだろうし」
リーレが申し出た。……それもそうか。俺はリーレからキーカードを受け取る。
「必要な時は呼ぶよ」
「そうしてくれ」
俺は遺跡に乗り込む回収部隊、その編成についてディアマンテと相談したものを皆に知らせる。俺はアドヴェンチャー号、ベルさんは第二遊撃隊、リーレたちはワンダラー号で現地へ。ついた先でポータルを開いて後続部隊を展開、それぞれ作業にかかる。
「では、準備でき次第、それぞれ行動開始」
・ ・ ・
アリエス浮遊島軍港。アドヴェンチャー号に乗り込もうと歩く俺とアーリィーのもとに、エリザベート・クレマユーがやってきた。
「ジン様! アーリィー様!」
「やあ、エリー」
俺が手を上げると、彼女は、素早く駆け寄ってきた。
「またお出かけでしょうか?」
「うん、魔法文明時代の遺跡から、帝国より先に遺産を回収してくる」
そう言うと、彼女はとても行きたそうな顔をした。
「それで、エリー。課題は終わったかい?」
課題――それはウィリディス製の兵器に触れて、それに関する知識を得ること。
「航空機関連は、始めたばかりなのですが、魔法車、魔法バイク、魔人機の基本課程は終わりました」
エリーはニッコリと答えた。
「サキリス先輩のご指導の賜物です」
最近、何気にメイド服を来ている姿が多いらしいエリーである。同じくメイドを務めるサキリスは、ウィリディス兵器の操縦も含めて先輩教育係ぶりを発揮しているようである。
「早く、私もジン様たちのお役に立ちたく存じます」
実に謙虚、そして殊勝な心掛けである。こういうエリーしか知らないアーリィーなどからしたら、初めて俺が彼女に会った時のわがまま令嬢ぶりなど想像だにできないだろうな。
「ありがとう、エリー。で、せっかくなんだけど、ひとつ課題が増えた」
「何でございましょう?」
「サキリスから聞いているかもしれないが、魔法文明の魔神機関係の話って聞いてるか?」
「はい、存じております。……実は、私も魔神機に乗せてもらったのですが、10分が限界でした」
へえ、割と頑張れたじゃないか。ユナは5分くらいが限界だって話なのに。案外、素質あるんじゃないかな。
「なら、話が早い。セア・フルトゥナ――Aランク魔人機のほうなんだけど、アレは魔術師なら問題なく動かせるはずだ。で、それの操縦をマスターしてもらいたいんだ。他の課題は後回しにしていいから」
「喜んで。……しかしジン様、何故、魔人機を?」
「これから魔法文明兵器を回収してくるんだが、連合国に向けて魔人機を回そうと思っているんだ。で、彼らにそれを披露する前に、連合国出身の君が操縦できるところを見せたほうが、受け入れやすいと思ってね」
「! なるほど! さすがです、ジン様!」
う、うん? 何がさすがなのかは知らないが、何やら食いつきがよいぞ。
俺は、エリーに
目指すは、北の氷大陸。
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