第942話、リユースしよう
ゲルリャ遺跡の地図でわかった八つの光点。
その場所は、アポリト島の分離した浮遊島である。大帝国がこれらに眠る兵器を手に入れようと動いているのは、すでにわかっている。
だから、まだ確保されていない遺跡を彼らより先に押さえ、その兵器を破壊ないし、運び出すのだ。
「運び出す?」
ベルさんの問いに、俺は肩をすくめた。
「連合国に、それらの兵器を流してやろうと思ってね」
たとえば、魔法文明のクルーザーやフリゲート、量産型の魔人機などなど。
「いま、俺たちウィリディスは、連合国から多数の兵器の受注を受けている」
テラ・フィディリティア式の建造、生産設備は、それらに応える能力はある。
「だが、それらの素材となる魔力の消費量が凄まじい。プチ世界樹や色んな場所で余剰魔力吸収装置を設置しているが、それでも限界がある」
「なるほど。そこで遺跡の兵器を、連合国に貸与してやると」
「少なくとも、大帝国が使っているものと同性能だ。戦術と数次第でどうにかできるレベルだよ」
性能に劣っているから負けました、ということにはならないだろう。もっとも練度という問題はあるが。
「人員は? 大帝国はダークエルフを量産して、それに充てているんだろう?」
「そこが痛い問題だな。ただ、艦艇に関しては、魔法文明兵器もかなり自動化を進めていてね。重巡で四十人、フリゲートで二十人くらいで動かせるそうだ」
「そうなのか?」
「彼らより前の時代の技術も取り入れた結果だよ」
「機械文明か?」
「それと、アンバンサーの技術な」
エルフを魔力供給用電池にするとか、そのあたりの魔力を吸い取ってエネルギーにする技術とかは、アンバンサーの系譜だろう。
「魔法文明艦艇には、シップコアやゴーレムコアに似たような制御システムが組み込まれているんだ。少人数で動かせるのもそれが理由」
なお、その制御システムは『制御の精霊』とか言われているらしいが、何で出来ているかというと、ダークエルフの脳を専用機械に据えるらしい。
「前にも聞いたことがあるな、それ」
「亜人の脳を使って、魔力レーダーを作ろうってやつだろう? つまりは、そう。アンバンサーと魔法文明時代の技術の断片から組み上げていたってことさ。が、ここにきて、大帝国は遺跡から、より完全なものを入手できるようなっている」
「ふむ……。だがそれは――」
「ああ、こちらでは作れないし、作らない」
俺は真顔で言った。
「幸い、こっちはゴーレムコアがある。艦艇用にすでに実戦運用しているから問題はないだろう。手に入れた魔法文明艦艇の精霊を、ゴーレムに換装して、それから連合国とか、協力国に輸出する」
奪った船をバラまくなんて、大帝国さんもさぞ悔しいだろうねぇ。寝と……いや、何でもない。
「そのためにも、大帝国より先に押さえないとな」
逆に先に奪われてたら、敵戦力を増大させるだけだからな。しかし――
「やっぱりあの皇帝をどうにかしたいな……」
「どうにかって、あの野郎は不死身かもしれんだろう。殺せるのか?」
「方法があるならぜひ知りたいね」
結構、物騒な話をしている。前回、戦った時は深手を与えたが、すぐに自然治癒して、平然と行事に参加したり、ノイ・アーベントのフードコートで食事に現れた。
暗殺したところで大帝国は潰れないと、これまでは直接狙うのは控えていたが、その方針も転換するべきと思い始めている。
「少なくとも、あの皇帝がいなくなれば、大帝国は弱体化する」
「お前の狙っていた連合国による帝国崩壊――その時間稼ぎにもなるな」
連合国をせっついて進撃させるにも、武器の供給や訓練に時間がかかるのだ。俺は考えを披露する。
「俺の持っている転移の杖を使って、あの皇帝をどこかへ吹っ飛ばそうと思っている。運がよければ、そのまま消滅させられる」
「が、普通に考えると、あの野郎は転移魔法が使えるから、おそらく戻ってくるだろうな。同様に異空間に放り込むって手も使えん」
「ああ、奴に転移魔法がある限り、どこかに監禁ってのも無理だ。……だが、魔法が使えなかったらどうだ?」
「……」
ベルさんは黙り込んだ。俺を見つめ、そして言った。
「……ひょっとして、アレティ嬢ちゃんの」
「そう、魔力消失空間の部屋を作って、そこに閉じ込めることができれば、転移も不可能になる、と思わないか?」
「ふむ、今のところ、一番それっぽい案だな」
「だろう? ということで、今、回収した魔力消失装置の解析と、製作できないか検討中。今のまま使うには、誰か魔力を供給する人間が必要になるからね」
さすがに皇帝陛下を閉じ込めている間、その人もカプセル内とかはさせられない。
俺とベルさんは軍港ドックへと足を踏み入れる。
そこでは連合国に輸出する大型巡洋艦――巡洋戦艦とも言う――と、重巡洋艦が、テラ・フィディリティア式の魔力建造で組み上げられていた。……相変わらず、人の姿がない!
「せっかく作った艦だが、配備先は変わるかもしれないな」
作業を見守る俺の隣でベルさんが腕を組んだ。
「アポリトから分離した浮遊島の軍備か」
「アレティに聞いたら、艦艇は戦艦と空母、重巡とフリゲート、輸送船が主らしい。そうなると、注文の品でこちらが用意するのは、艦載機運用能力のある航空巡洋艦くらいになるかもしれないな」
まあ、結局は手に入れてからの話になるが。そうでなければ取らぬ狸の皮算用だ。
「まずは、遺跡争奪戦を制しないといけない。場所がわかっている世界樹遺跡には回収部隊を派遣して、正確な所在がわかっていない場所は探索部隊を出す」
ひとつ海の底にあると思われる遺跡がある。万能巡洋艦『ヴァンガード』や潜水艦部隊を使うことになるだろう。深海調査となると、水圧に耐えられるかなぁ……。
「なあ、ジン」
ベルさんが珍しく深刻な顔をしている。
「その遺跡のある世界樹だが、一カ所気がかりがあるんだが……」
「エルフの里、だろう? 俺もだよ、ベルさん」
そう、頭の痛いことにね。
世界樹と言えばエルフの里。最近、ディグラートル経由で得た情報では、エルフは魔法文明時代の創造物。その文明にとって家畜や奴隷も同然の存在だったという。
しかし、現在のエルフでその事実を知っている者は果たしているのか? 俺個人とエルフの里のエルフとの関係は非常に良好で、その女王とも懇意にしているが……話していいものかどうか。
それに、世界樹の地下にある構造体には、古代魔法文明時代の施設や兵器があるだろう。大帝国がそれを放置するとは思えない。
必ず大軍を率いて攻め込むだろう。あの辺りに展開しているウィリディス勢力である青の艦隊の戦力増強も必須だが。
「俺もエルフたちとどう接したものかわからんよ」
「これまで通り、昔のことは知らぬで通すのが無難だとは思うが……」
ベルさんも憂慮する。種族的問題に、外部勢力の侵攻が確定している場所。そしてその理由――
何故、大帝国が攻めてくるのか。里に彼らが狙う何かがあるから……。いずれ真相に突き当たるのではないか。その真実がエルフ社会を揺さぶることになるのは間違いない。
そうなる前に、やはり女王には話を通しておくべきではないか?
「ま、少なくとも、今すぐではないな」
ベルさんは静かに、そう言った。
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