第941話、どうやら俺はパパだったらしい
世の中、理解できないことはままある。この世界にきて、確かに複数の異性と肉体関係を持ったことは認めよう。
しかし子供に関しては作らないように立ち回ってきたつもりだし、それは婚約したアーリィーについてもそう。戦争が終わるまでは我慢しようってお互いに話し合って、お触りまでで済ませている。
にも関わらず、俺を『お父さん』という呼ぶ少女。しかも年齢は十五から十七くらいと思われる。この世界に二年と少々で、そんな歳の娘がいるはずがない!
「えーと、ちょっと落ち着こう! 誰がお父さんだって!?」
「お父さん! お父さん!」
少女は、そう言いながら俺を抱きしめて離さない。いや、違うからね! 俺、君のパパじゃないから!
「ジン……」
ほらー、アーリィーもサキリスも何とも言えない顔をしてるー!
「お父さんって……?」
「いや、この子がそう言ってるだけで俺は――」
「ご主人様、彼女の言葉がわかるんですか?」
「……え?」
「え?」
言葉がわかる……とは? そういえば、彼女は古代魔法文明関係の人間と推測され、ウン前年ウン万年前の人間と言葉が、すんなり通じるというのは、おかしいか。……あ、ベルさん!
俺は、相棒を見る。魔力念話に切り替えて。
『ベルさん、ひょっとしなくても、共通言語化した?』
『おう。その娘が寝ている間に、言語共有したから、魔法文明時代の言葉も喋れるし、文字も読み書きできるようになってるぞ』
しれっと、ベルさんはおっしゃった。
彼は大悪魔である。悪魔とは人をはじめ、言語を有する種族と会話する術を持っている。初めての言語も、それを理解している者と会えば、その思考から読み取ることができるのだ。
悪魔召喚などで呼び出した悪魔が、人間と会話できるのもそういう力のおかげだ。悪魔を呼び出したが言葉が通じないという話、ほとんど聞いたことないでしょ?
俺とベルさんは契約関係にあり、ベルさんが共有した言語は、俺も扱えるようになる。
つまり、俺は自然とこの娘と会話したが、アーリィーやサキリスには、突然俺が知らない言語で会話しているように見えた、ということだ。
『ベルさん、アーリィーたちにもわかるようにできる?』
『娘のほうを、合わせたほうが面倒がないだろう』
つまり、この銀髪少女のほうが、現代語を話せるようになれば、他の面々にいちいち翻訳する必要がないということだ。
ベルさんが、俺に抱きついて泣いている少女の頭、その後ろに触れる。数秒の後、終わったぞとベルさんが言った。ありがとう、ベルさん。
「じゃあ、お話しようか。……あー、よしよし、もう大丈夫だからね、泣かないで」
俺の胸で泣いている少女。その背中を優しく撫でてやる。
「お父さん、生きていた……。本当に……」
絶対、誰かと間違えていませんかね。そりゃ娘がいたなら、こんな可愛い子に育ってほしいけどね。
「君はとても長い時間を眠っていた。まずは自分の名前が言えるかな?」
「……うん。わたしは、アレティ。……大丈夫、覚えてるよ、お父さん」
「アレティ。じゃあ、俺の名前はわかるかな?」
君の言うお父さんの名前を聞かせてくれ。
「ジン……。ジン――」
周囲が息を呑んだ。俺自身、面を食らった。俺の名前、マジで知ってるの? ……アーリィー、そんな目で見ないで。年齢を考えて。俺じゃないからね!
アレティと名乗った少女は、そこで頭を押さえる。
「……駄目、思い出せない。お父さんのフルネーム……思い出せない!」
「あぁ、落ち着いて、アレティ」
動揺する彼女の肩に手を置く。
「さっきも言ったが、君は何千年、ひょっとしたら何万年の
「何千……何万……? それじゃ、戦争は?」
アレティが俺の顔を見た。戦争――というのは魔法文明時代の天上人と地上人の争いのことだろうか。
「天上人の文明は滅びた。それは確かだ」
答え合わせをしよう――俺は、アレティから詳しく話を聞くことにした。
・ ・ ・
アレティという少女の話は、まあ驚愕の連続だった。俺たちが話を聞き終わった後、会議室にてダスカ氏、ディアマンテ、スフェラも加えて情報検証に当たる。
正直、何から話したものかわからんが。
「まず、魔法文明時代に『ジン
その人物は、アレティの他、数名の魔術人形と呼ばれる人工的人間の保護者をしていたという。俺を『お父さん』と呼ぶのはそのせいらしく、実際に血の繋がりはない。
「アレティは、次世代の魔神機パイロット候補生というやつで、それも先天的才能に頼る魔神機を人工的に与えた力で動かせるように、という研究の一環で生み出されたようだ」
最初はそうやって作られたアレティだが、やがてジン某と出会う。当時、闇の勢力という化け物の軍勢と天上人は戦っていたが、ジン某は前線に立って戦ったらしい。
そして激化する戦いの中、ジン某は生死不明となったという。アレティは少々記憶を失くしている部分があってわからないのだが、天上人の支配する大浮遊要塞島『アポリト』の攻略戦に参加した。例の魔力消失空間を発生させる装置の動力となり、以後、彼女は眠りについたため、後のことは不明。
正直、途中すっぽ抜けている部分があるせいで、辻褄が合ってないというか、よくわからないことになっているが……。ウン千年も眠り続ければそうもなるか。
それはそれとして、ダスカ氏の質問がくる。
「アポリトとは……?」
「超巨大浮遊島――天上人の空飛ぶ城。まあ、そんなところだ」
彼女の証言からスケッチしたものをデスクの上に広げる。
中心に城のような超巨大構造物のある浮遊島と、それを取り囲む八つの島。その島には一本ずつ世界樹が立っている。
「八つの島に八つの世界樹!? これはもしかして――」
「そう、世界に散っている八つの光点。そして世界樹は、このアポリト島の分離したものだってこと」
「驚愕の事実です!」
ダスカ氏は興奮を露わにした。彼は古代文明の研究家だから無理もない。
「まあ、魔法文明が滅びて、島がバラバラになってるところから見ても、アポリト攻略戦とやらは反乱者側の勝利に終わったんだろうね」
とりあえず、彼女と魔法文明時代の関係はそんなところだ。
細かなところは今後、さらに掘り下げることになるだろう。あまりにスリープ期間が長過ぎて、所々思い出せなかったりする部分はある。
闇の勢力が何なのか、反乱者たちがどう絡んでいたのか等など。……が、取り立ててアレティに今すぐ何かしてもらわねければいけない案件はない。
ディアマンテが発言した。
「それで、彼女の今後の扱いは如何いたしますか?」
「こちらの保護下に置く。というより、彼女は俺のそばにいたがっていてね」
ジン某とは別人のはずなんだけど、親愛の情というのか、俺の役に立ちたがっている。……そんなに俺と似ているのかね、ジン某氏と。
「当面は、魔神機や魔法文明の機械や道具に関しての解説をお願いしようと思っている。今後、大帝国より先に遺跡を確保するため行動するが、その内部構造やシステムについて、アレティはガイドとして打ってつけだ」
もちろん、体調が許せば、だけど。目覚めたばかりというのもあるから、そのあたりは慎重にみていかねばなるまい。
「彼女の情報が確かなら、大帝国も狙っているそれらの遺跡には、かなりの規模の兵器が眠っている可能性が高い。そしてスフェラ――」
俺は、SS諜報部のシェイプシフター魔女を見た。
「アレティの話から、これまで諜報部が集めた情報と合わせて考えると、大帝国は一つか二つの世界樹遺跡をすでに押さえている。そうなると、前回のヴェリラルド王国侵攻作戦ではいなかったが、敵は複数の戦艦をすでに保有している可能性大だ。再度の情報検討と、さらなる収集を頼む」
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