第933話、ドゥエル・シリーズ


 ザイドゥル・グリーヴは大帝国の騎士だった。


 帝国軍人一の剣の使い手と称えられた彼は、ストイックかつ任務に忠実。少々堅物ではあるが、理想の兵士と言われた。


 そんな彼が、ドゥエル・シュヴェーアトの操縦者に選ばれたのは、彼が剣士であるのと共に内に秘めた魔力の才能もあったからだ。


 魔神機は、操縦者に大きな魔力を求める。それがなければ、機体に魔力を吸い取られ、操縦者が駄目になってしまう。


 剣一筋で生きてきたザイドゥル・グリーヴにとって、魔力の才能と言われてもピンとこなかったが、魔術関連に従事していれば、おそらくその方面でも帝国有数の使い手になれただろうと言われた。


 軍の命令だから、魔神機の操縦を学んだ。しかし帝国が大陸統一の遠征軍を派遣する中、たとえ魔神機を扱えても敵がいないのではないか、とザイドゥルは悩んでいた。

 彼は根っからの剣士であり、強い敵との死合いを望んでいたのだ。


 ――だが、中々どうして……。


 シュヴェーアトのコクピットから、ファウストの戦況を観戦していたザイドゥルは、その能面のようだといわれた顔から、無意識のうちに口元を緩ませていた。


 現れた敵の黒い人型兵器。あれも見事な大剣使い。ぜひ戦いたい――魔神機を使った任務に気乗りがしなかった堅物騎士の闘志に火がついた瞬間だった。


 ドゥエル・シュヴェーアトは背部のジャンプブースターを噴かして、一気に戦場へと駆けた。


 大帝国の所有する魔神機/魔人機の中では、飛行能力のないドゥエルシリーズだが、ザイドゥル自身の魔力を機体に注ぎ込むことで、その速度は単純な飛行と遜色ないレベルに加速する。


「レオス! その黒い機体、私が相手をするッ!」


 ドゥエル・ファウストの操縦者に呼びかけ、ザイドゥルはシュヴェーアトの超硬振動剣を抜き、敵黒騎士へと突撃した。


 横合いから魔弾が飛来したが無視した。



  ・  ・  ・



 マギアキャノンが弾かれた。


 俺はアヴァルク・カスタムの両肩シールドキャノンを、戦場へ近づいたシュヴェーアト目がけて撃ち込んだ。


 だが結果は、防御障壁に無効化された。


「ガン無視かよ!」

『主、出力マシマシで、もう一発撃ち込んでやろう!』


 ディーシーさんもおかんむり。しかしこちらの攻撃を無視したシュヴェーアトは、ひたすらベルさんのブラックナイトへと突進を続けた。


 ちょっかい出したのに、こっちは眼中にないようだ。


「ベルさん!」

『二対一かよ!』


 魔力通信機から聞こえる大魔王様の声。しかし杞憂きゆうだった。


 ファウストのほうが入れ替わるように後退したからだ。選手交代ってか。それとも活動時間の限界が近づいているのだろうか?


 魔神機は、パイロットの魔力を消費するらしい。マッドハンターの中隊を相手にして、さらにその前にも拠点襲撃もしているから、さすがに疲労しているはずだ。


 とか思っていたら、ドゥエル・ファウストは俺のアヴァルク・カスタムへと向かってきた。


『せっかくザイドゥルがやる気になったのだ。邪魔者は排除させてもらう!』


 ファウストのパイロットだろう声が、外部スピーカーから発せられた。邪魔者ってのは俺だよなぁ。


 それにしても、あれだけベルさんと戦っていながら、無傷というのも相当だが、その相手をあっさりシュヴェーアトに譲ってくるとか、切り替えも早い。


『主!』


 ディーシーが両肩シールドから遠隔攻撃端末――ビットを射出。ダンジョンコアの防衛本能に従い、六基のビットはそれぞれ独自の機動をとり、電撃弾を放った。


 ドゥエル・ファウストは、急制動と同時に瞬時に回避を行う。その速さは、ロボット兵器とは思えないほどだ。


『セア・シリーズと同じ魔法戦型か!?』


 ファウストのパイロットがそう吐き捨てた。ビットのことを言っているのか? 俺はアヴァルク・カスタムの手に仕込まれている魔法放射器を、ファウストに向け魔弾を撃ち込んだ。


 ビットの攻撃、そして魔弾がドゥエル・ファウストに殺到するが、回避と防御障壁が、それらを全てシャットアウトした。


「ちっ、やっぱ抜けないか……!」

『避けきれんか! だが、相手が魔法型なら踏み込むまで!』


 ドゥエル・ファウストは、アヴァルク・カスタムへ肉薄した。多少の被弾も障壁で無効化できるなら、もはや回避するまでもないのだ。


 俺は、両腰のソニックブレードを抜いて、迎え撃つ。ファウストの拳が炎をまとう。


『炎拳!』


 目にも留まらぬ炎の拳によるジャブ。だがこちらも魔法障壁を展開。止めてしまえば見える見えないは関係ない!


『風蹴!』


 ドゥエル・ファウストの回し蹴り。しかし炎の拳に続き、蹴りも障壁が受け止める。


「せいっ!」


 そこへソニックブレードによる斬撃を叩き込む。だがドゥエル・ファウストのパイロットは危機を察知したか、後退に移っていた。

 故にこちらの斬撃は、ファウストの胴体装甲をかすめるに留まった。……いい反応するじゃないか!


『こいつは……魔神機に匹敵するというのか!?』


 一旦距離をとったドゥエル・ファウスト。だが考える間など与えないとばかりに、ディーシーが制御するビットが電撃弾を撃つ。


 しかしドゥエル・ファウストは、バックラー付きの腕を巧みに動かして魔弾を全部弾いてしまった。達人は銃弾をも避けるってやつか。このパイロット、相当できる!


『ならば、こちらも奥義をもって応じよう! ファントムアンガーの戦士よ!』


 ドゥエル・ファウストの三つの目が光った。その瞬間、膨大な魔力が機体から溢れ、その装甲を白く染め上げた。

 ……え、ひょっとして、スーパーモードとかそれ系?


『ぬおおぉぉぉっ!』


 刹那、ファウストが飛んだ。瞬きの間に瞬間移動のごとき肉薄。右手のクローにバチリと電撃が走る。


『雷轟!』


 回避――は間に合わない。脚部スラスターで瞬間後退しつつ、障壁を多重展開!

 ファウストの爪が障壁に弾かれた。が、いまの一発で一番外側の障壁に亀裂が入った。


『爆連撃!』


 ドゥエル・ファウストの両の拳が見えない速度で叩き込まれ、障壁が砕けた。複数張った防御が、連続の打撃に破壊されていく。


『うおおっ! これで貫く! 螺旋らせん拳!』


 クローが基部ごと猛烈回転。さながらドリルだ。その回転が俺を襲い、前に出した右腕ごと、アヴァルク・カスタムの胴体をえぐった。

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