第932話、赤い戦神
アヴァルクHMカスタムは、マッドハンター用にチューンされた改造魔人機だ。
彼の得意とする武器、ロングレンジマギアライフルをメインに、腕部バックラーには近接用ブレードを仕込み、両肩に小型誘導弾ポッド、背部バックパックには折りたたみ式マギアランチャーを搭載する。バックパックと、脚部の補助スラスターで地上を滑るように高速移動する。
この世界に召喚される前、人型ロボット兵器を駆使した彼の集大成だ。
対大帝国陸軍との戦いには、ファントムアンガー、シャドウフリートの魔人機隊隊長として初期から参戦。これまで多くの大帝国のゴーレムや戦車、魔人機を撃破してきた。
だが、今回対峙した魔神機ドゥエル・ファウストは、それまで相手してきた大帝国機とは別次元の存在だった。
マッドのマギアライフルを、ドゥエル・ファウストはまるで銃弾が見えているよう回避する。そして地を蹴ると、ほぼ一瞬で距離を詰める。
振るわれる拳。だがマッドもアヴァルクHMを急後退させて、その射程に踏み込ませない。
常に敵の加速の距離を瞬時に見抜き、距離を離しているように見える。
『やるな、ファントムアンガーの指揮官機!』
痺れを切らしたのか、ドゥエル・ファウストの操縦者だろう、若い男の声が外部拡声器から響いた。
『だが、このファウストが拳だけだと思うな!』
腕が動き、その拳に淡い光が宿る。
――魔法か?
マッドハンターはマギアライフルを放つ。しかしその一弾は、ドゥエル・ファウストの防御障壁に防がれる。
『魔弾拳! 多重激烈波ッ!!』
次の瞬間、ドゥエル・ファウストが両の拳を連続で突き出した。拳の形をした魔弾が、無数に放たれる!
「くっ……!」
マッドはアヴァルクHMを右へ急速回避させる。だがその間にも視界の中で、ドゥエル・ファウストが拳を放ちながら突っ込んでくるのを見逃さない。
肩部マイクロミサイルポッド、発射! アヴァルクHMが対装甲兵器用小型誘導弾をばらまく。ミサイルは、ファウストの魔弾と相打ち、次々と爆発。
その爆炎を縫ってドゥエル・ファウストは、アヴァルクHMへ肉薄した。が、マッドもバックウェポンのマギアランチャーを展開。至近距離から最大威力の一撃を見舞った。
必中の距離。肉薄したが故に躱せないはずだった。
だがドゥエル・ファウストは両腕を胴体前でクロスさせ、防御姿勢のまま健在だった。防御障壁を貫通はしたが、威力が殺され、腕のクロー付きシールドで防がれたのだ。
マッドはその瞬間、マギアランチャーのボタンを再度押しつつ、機体を後退させている。
しかしドゥエル・ファウストは、その場で跳躍し、マギアランチャーのエネルギー弾を回避した。
『その間合い、見切ったっ!』
ドゥエル・ファウストが飛び蹴りを見舞う。足先に魔法の光のオーラ。威力が増大した蹴りはしかし、アヴァルクHMの直前で地面に激突、岩を砕いた。
――避けた……!
マッドハンターが下がりつつライフルを向けた時、ドゥエル・ファウストが拳の魔弾を撃ち、アヴァルクHMのマギアライフルを打ち砕いた。
『見切った、そう言ったはずだっ!』
ファウストの魔弾が、アヴァルクHMの肩、脚を穿つ。しかし肝心の胴体はバックラー付きの腕によって防がれ、パイロットを守る。
『いい腕だ。殺すには惜しい!』
ドゥエル・ファウストの操縦者が称賛の声をあげた。勝負あった、とファウストが拳に魔弾を収束させたまさにその時――
大出力の魔法弾がドゥエル・ファウストを襲い、機体は後退を強いられた。
『増援か!?』
はたして駆けつけたのは、二機の魔人機だった。
・ ・ ・
とんだ化け物だな。俺は、マッドのHMカスタムを大破させたドゥエル・ファウストに舌をまく。
ベルさんのブラックナイトが両肩部位のマギアキャノン射撃姿勢から、大剣を使った近接戦闘へと移行する。
俺のアヴァルク・カスタムは、ブラックナイトのやや後方から回り込んで、まずマッドハンター機へと近づく。
「マッド、無事か?」
『ジンか。ああ、機体はやられたが、俺は問題ない』
機体はかなり損傷していたが、マッドの声は冷静そのものだった。もっと動揺していてもおかしくないのだが、そこは歴戦の傭兵。感情をコントロールする術は卓越したものがあるようだ。
「自力で、離脱できそうか?」
『大丈夫だ、問題ない』
後退からの離脱行動に移るマッドハンター機。……言葉通り、大丈夫そうだな。
俺は戦闘へと視線を戻す。
ベルさんのブラックナイトがドゥエル・ファウストと交戦している。
まるで人間そのものといった軽快な動きをするドゥエル・ファウストだが、ブラックナイトも負けていない。
魔人機に乗っていても卓越した剣技を見せるベルさん。その大剣の間合いに、ドゥエル・ファウストは踏み込めず不利なようだった。
「……こりゃヘタに手が出せないな」
『いいのか主よ?』
コクピットに接続しているDCロッドこと、ディーシーが声を発した。
「達人同士の戦いに介入するのは難しいんだよ」
『テリトリーやビット展開もできるぞ?』
「備えよう。……ま、ベルさんだし、たぶん必要ないだろうけど」
『ううむ、我の見せ場はなしか』
どこかガッカリしたようなディーシー。
確かにここのところ彼女は表立って出番はなかったが、俺以上に物作りに没頭しているのを知っている。ウィリディスで芸術家活動のほか、兵器や装備開発などを気ままにやっているのだ。
『おっと、主よ。どうやらお客さんのようだ。魔神機らしき反応がもう一機。こちらに接近しているぞ』
「魔神機がもう一機……!」
やれやれツイてないねこりゃ。
現れたのはドゥエル・ファウストによく似た機体。帝国がドゥエルシリーズと呼んでいるタイプのひとつだろう。
ファウストより角が大きく、どこか侍の甲冑を思わす胴体の意匠。そしてブラックナイトとタメをはる大剣を持った魔神機。
『スフェラからの魔神機情報を照合――』
ディーシーが報告した。
『あれは、ドゥエル・シュヴェーアトだ』
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