第931話、魔神機


 アドヴェンチャー号の乗り心地は実に快適だった。

 戦闘機ではないし、それらに比べると船体は大きいが、俺の操る操縦桿に従い、機敏に動いた。旋回、ロールに宙返り――


「ジン、少しはしゃぎ過ぎじゃない?」


 アーリィーが指摘したが……やっぱり、はしゃいでるかな、俺。


「テストは必要だろ?」


 一通り飛ばした後、俺はポータルを使って、折れた世界樹のある遺跡へ飛ぶ。……青い転移リングをくぐる直前、ふと思う。


 転移だけなら、俺が目的地を想像すればできるのだが、その際、乗っている船も一緒に転移できないかと考えた。


 もしできるなら、ポータルを使わずに転移できる。昔は、一人転移をやっていたが、複数人で移動する機会が増えて、ポータルを使うようになった。


 ディグラートル皇帝が一人転移をやるのを見て、それを思い出したわけだが……。乗り物ごと転移は、まず一人で試そう。俺だけ転移して機体が転移しなかったら、大事故だからね。

 いや、アーリィーや他に操縦者がいれば、やってもいいか。俺だけ転移したとしても、操縦者がいるから墜落したりはしないし。


 ……などと考えながらポータルを通過。遺跡警戒隊――大帝国の遺跡制圧部隊を迎撃する部隊の間を抜け、折れた世界樹に到着。その開口部より、地下構造体へと下りる。


 遺跡内部は、シェイプシフター調査隊が、引き続き調査を行っている。調査隊が持ち込んだ照明機材のおかげで、以前、ワンダラー号で来た時より、移動しやすかった。


「さて、それじゃ魔神機とやらを拝みに行くとするか」


 俺たちは、ヴィオレッタ、ヴェルデに船を任せて、さっそく現場へと移動する。カーゴスペースに載せてきた浮遊バイクを使う。都市のように広い地下構造体である。こうした乗り物は必要だ。


「ねえ、ジン」


 ちゃっかり、俺の浮遊バイクの後ろに乗っているアーリィーが聞いてきた。


「魔神機のコクピットってどうなっているのかな?」

「どう、とは?」

「操縦者の魔力が必要って聞いたんだけど、上位の魔人機と同じかな? 操縦者の魔力が枯渇したら、動けなくなるのかな、やっぱり」

「……あー、そうなるのかな」


 魔人機の比じゃないパワーの反面、使う魔力の量も半端ないのか。なるほど長時間乗っていたら、魔力切れで意識を失ったりするのかもしれない。

 一定基準の魔力があれば、それだけで動いたりはしないのかな? もし前者だったら、実は短時間しか戦闘できない代物ってことになるか。


 しかしどれくらい魔力を持っていかれるかわからないが、アーリィーみたいに魔力の泉持ちの体質だったら、魔力切れは起きないか。


「そのあたり、試してみないとわからないな」


 うちは魔神機を保有していないからな。一応、そのために、ウィリディスでも魔力に秀でた面々を連れてきた。シェイプシフターズでは動かせないから、しょうがないね。


 現地の調査隊のシェイプシフター兵が俺たちを出迎えた。調査隊は依然として構造体を調査しているが、すでに魔神機二機の周辺を確保し、回収準備にかかっているという。


『あちらです、閣下』


 シェイプシフター兵は、やや斜めに傾いている大部屋、その奥にあるモノを指し示した。


 白と黒。人型ロボット兵器が二機。あれが魔神機なのだろう。


 白いほうは足が床に埋まって、座っているような格好。黒いほうは、すでにシェイプシフター搭乗の簡易魔人機『ファイター』に支えられて、壁を背に直立していた。


 高さは六メートルくらい。大帝国のリダラに似たフォルムをしている。帝国のリダラ型がモデルにした魔神機なんだろうな。


 魔人機と基本的なところは変わらないようだ。魔力適性者が高くないと動かせないとか、より操縦者が限定される仕様のようだが。


「これが、魔法文明時代の……」


 ダークエルフのラスィアが、その黒い魔神機を見上げれば、妹分であるユナが、その無感動な目を機体に向ける。


「魔人機のオリジナル、というのが興味深い」

「騎士みたいですわね」


 SSメイド服のサキリスが、ポツリとコメント。アーリィーも頷いた。


「うん、騎士をそのまま大きくしたような印象だね。そういえば王国の遺跡で見つけた白い魔人機とどこか似ているね」


 それぞれが感想を言い合っている女子たち。俺はベルさんを見た。


「どう思う?」

「見た目だけなら、オレのブラックナイトのほうが格好いい」

「……変なところで張り合ってんな」

「純然たる事実ってやつだよ」


 ベルさんはニヤリとした。


「こいつ、勝手に自己再生してるんだろう? 悪魔にでも作らせたのかねぇ、これ」

「悪魔……」


 そういえば、九頭谷のところの赤毛悪魔ちゃんが、デーモンドールとやらから魔人機みたいなものを作っていたな。偵察機の記憶映像を見たが、なるほど魔神機ってあんな感じなのかもしれないな。


「あの子らは正規のマシンを作ったわけじゃないが、あのレベルかそれ以上の性能があるとしたら、ヤバイな……」


 改めて、白と黒の魔神機を眺める。そこへ、魔力通信機がガリガリと音を立てた。……俺への呼び出しだ。


『閣下、連合国戦線より通報。大帝国の魔神機が出現、現在、交戦中です』


 シェイプシフター通信士からの報告。――現れたか。


「どうだい、ベルさん。動いている魔神機を相手に勝てると思うかい?」

「さあな、やってみなくちゃわからんだろう」


 ベルさんが意地の悪い笑みを浮かべた。


「ひとつ、試してやろうじゃないか」



  ・  ・  ・



 アーリィーたちにこの場を任せ、俺とベルさんは連合国戦線にいるファントムアンガー部隊に転移して合流。

 そこで俺専用のアヴァルク・カスタムを用意。ベルさんもブラックナイトを召喚し、戦地へ飛んだ。


 魔神機の襲撃に備え、待機していたファントムアンガー艦隊から、すでにマッドハンターの第一中隊が出撃している。


 異世界で人型兵器を扱い、プロ中のプロであるマッドハンターだが……大丈夫かな?


 俺は不安をおぼえる。何せ、魔神機がどんなものか未知数だからね。そして到着までの間、空中観測機からの情報がリアルタイムで中継されたが――


「……何だ、こいつは」


 敵機――紅いその機体は、SS諜報部の報告でドゥエル・ファウストと分かっているが、そいつの動きがとても速かった。


 中身がグラディエーターであるアヴァルクが、ドゥエルに瞬時に飛び込まれる、刹那、爪付きの拳がたたき込まれ、アヴァルクは四肢を残して胴体だけ後ろへ吹っ飛ばされた。


 あまりの早業。アヴァルクは二本の足だけ残して、胴体、遅れて手、頭が地面に落ちた。


『こいつは強そうだ』


 ベルさんの声が魔力通信機から聞こえた。


 いや、強すぎだろうよ。何だこの動き! 瞬きの間に、距離を詰め、パンチやキックを繰り出す。ロボットというより鍛えられた格闘家のように滑らかだ。


 たちまちアヴァルクは数をすり減らし、俺たちが駆けつけた時には、マッドハンターのアヴァルクHMカスタムのみになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る