第901話、海中の刺客
さっそく、潜水艦に乗ることになった俺である。
クロコディール級潜水艦は、全長62メートル、基準排水量920トン。テラ・フィデリティアの魔力噴進式機関を搭載し、水上を15ノット、水中を19.1ノットで航行する。
見た目は、極普通の軍事潜水艦だ。そこまで大きいわけでもなく平凡。ただスクリューがなく、とても静かな船である。
武装は、艦首甲板に格納式の76ミリプラズマカノンを一門。同格納式の20ミリ光線機銃を二門。45センチ魚雷発射管を艦首に四門、艦尾に一門、魚雷総数は二十本搭載している。
基本運用は偵察と通商破壊。格納式とはいえプラズマカノンを搭載しているのは、魚雷をケチって、敵商船を水上で撃破するため。
今の世界レベルでは、浮上した潜水艦に有効な攻撃を仕掛ける手段がほとんどないからできる攻撃ではある。
逆に向こうが撃ち返してくるなら、危なくて浮上砲撃なんてできないけどね。
シェイプシフタークルーと、コピーコアの運用する潜水艦において、俺とベルさんはただ見守り、指揮に専念する以外にすることがない。
展開しているヴァール級ゴーレム潜水艦部隊と合流し、潜望鏡深度にて進むクロコディール級潜水艦。俺はその潜望鏡を覗き込んで、海上の様子を確認する。
海面に筒状の望遠鏡だけだして、船体は海の中。ただこれ、海面が綺麗だと真上から潜水艦のシルエットが見えちゃうんだよね。まあ、上を船が通りかからない限り、船上からは潜望鏡しか見えないだろうけど。
「……よしよし、情報通りだ。帝国海軍の艦艇だ」
「オレにも見せろよ」
「猫姿で、潜望鏡が見えるのか?」
俺がベルさんの体を支えて、潜望鏡の位置に合わせてやる。前足で取っ手を掴み、覗き込む黒猫。……アーリィーがいたら、写真撮っただろうなこれ。
「フムフムフーム。アレが、レシプロ機関で動く船か?」
「ああ、帆がないからわかりやすいだろう?」
一応マストはあるけど、風を受ける帆が存在しない。ただ煙突があって、そこからモクモクと煙がたなびいている。天候がよかったから遠くからでもよく見えた。
……まあ、偵察機から報告があったこともあるけど、それだけでもないんだ。大艦隊の中の目的の艦艇を見つけられた理由は。
「聴音手、どうだ?」
『は、敵艦は盛んにソナーで海中を探っております』
シェイプシフター聴音手がヘッドホンをしたまま答えた。
窓がない潜水艦にあって周囲の物を探る方法でポピュラーなものといえば、音である。海中の音、その反射などから地形やものを探りながら、海の中を行く。
そしてそれは水上を行く船にとっても同じで、海の中がどうなっているか探るために、音を発して様子を探るのである。
もっとも、帝国海軍がソナーで探っているのは、潜水艦ではなく、海中生物である。
彼らの頭の中に潜水艦が存在するかは知らないが、この世界の海には大型の海の魔獣などがいて、船を襲うことがしばしばある。
中世風な世界とはいえ、明確な敵が存在している以上、俺のいた世界の同世代より、そのあたりは進んでいると言える。まあ、まだかなり原始的な初歩的なものではあるのだが。
「あちらさんが、盛んに音を出してくれるから、こちらはそれを頼りに近付けばいい」
「でもよ、ジン。こっちの位置バレないか?」
「ふふん、テラ・フィデリティアの技術をなめないでほしいな、ベルさん。優れたコンピューターによる解析もできない原始的ソナーでは、この艦を見つけることはできないよ」
古代機械文明、万歳。ディアマンテらの協力がなければ、軍事用潜水艦は俺でも作れなかった。……民間用の潜水艇なら頑張れば作れたと思うけどね。
ベルさんが「もういいぞ」と言ったので、俺は改めて潜望鏡を覗く。
「さて、敵さんの水上航行速度はこちらより遅い。目標は、敵航空母艦。射点に移動。取り舵、10」
『取り舵10、
SS操舵手が艦を制御する。敵艦隊との距離を縮めつつ、絶好の攻撃位置へと『クロコディール』は向かう。
「魚雷戦、用意。一番から四番、誘導魚雷、装填」
艦首の魚雷発射管に、テラ・フィデリティア製誘導魚雷が押し込まれる。搭載した攻撃用コアが細かな調整をやってくれるので、俺みたいな素人でも指示するだけで勝手にやってくれる。
艦は潜望鏡深度のまま、海中より標的――全長150メートルほどの航空ボッドを十機ほどを搭載する小型空母に狙いを定める。
空母としては小さいが、戦闘帆船に比べると二倍以上でかい船なんだよな。周囲との対比で見れば、戦闘帆船が駆逐艦で、巡洋艦が戦艦、小型空母が大型の空母に見えてしまう。
「あれが航空攻撃にも、潜水艦にとっても邪魔なんだよな……」
「ん? 何だ?」
「航空ボッドさ。たぶん、あれ、海中攻撃用の爆雷とか積んでたりするんだろうぜ」
元の世界でも対潜戦術とか、それらの専門雑誌や本で読んだ程度の知識だけど、ああいう航空ボッドは、潜水艦狩りに有用だと思うんだ。
海中警戒に常に飛ばしておけばいいのに、それをやらないのはソナーが敵を見つけてから発進させる、ってマニュアルなんだろうな。
航空ボッド自体、誕生から一年も経っていないから、異世界人からの知識を得たとしても試行錯誤の最中かもしれない。
『司令、各艦、攻撃位置に着きました』
搭載コアによる直接通信により、ヴァール級ゴーレム潜水艦がそれぞれ配置についたとの報告がきた。
「それでは、連中をビックリさせてやろう。魚雷、一番から四番、発射!」
クロコディール級の艦首発射管より、45センチ魚雷が次々に放たれる。俺からは見えないが、ヴァール級潜水艦も、それぞれ艦首四門の発射管から魚雷を発射しただろう。
本当なら攻撃したらさっさと潜望鏡を降ろして深く潜るのだが、俺はその瞬間が訪れるのを静かに見守った。
そして!
平ぺったい小型空母の側面に巨大な水柱が上がった。
『魚雷、命中音!』
聴音手も報告したが、俺もこの目でそれを確認した。
・ ・ ・
ウィリディス潜水艦隊の雷撃により、敵巡洋艦3、小型空母3を撃沈。巡洋艦1、飛竜母艦1が大破し、航行不能に追いやった。
炎上する飛竜母艦からは、炎に包まれた飛竜がのたうち回り、海中に没する光景が見えたという。
ウィリディス潜水艦隊は潜行し、敵の目をかわす。その直前に、雷撃による攻撃成功を打電。
この報告は、ノルテ海艦隊、そしてフルーフ島司令部にて受信された。
空母が沈み、航空ボッドや飛竜による行動が不可能になった大帝国第一ならびに第三艦隊。そこへ、ノルテ海艦隊の航空隊『飛隼』隊が飛来した。
TA-3シーファング艦上攻撃機と、TH-3シーホーク艦上汎用ヘリが合計二個飛行中隊、21機が猛禽の如く、帝国水上艦隊に襲いかかった。
シーファングは飛行機でありながら、ローターのないヘリコプターのような胴体を持っている。折りたたみ式の主翼はウェポンウイングと呼ばれ、ミサイル類を懸架するが、翼内にもミサイルを内蔵している。浮遊石と魔力ジェットによる機動のため、翼は飛行用というよりは武器用となっている。
海賊狩りで戦闘経験を積んだ飛隼隊の搭乗員たちは、帝国軍の戦闘帆船に小型誘導弾を叩き込む。大した装甲のない戦闘帆船は、その木造の船体を吹き飛ばされ次々と破壊されていった。
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