第919話、ウィリディス新鋭空母
敵艦隊唯一の戦艦である『オニクス』の艦橋の上半分が吹き飛ぶのを、俺は『ディアマンテ』から見ていた。
敵旗艦に攻撃を掛けたのは大和級の二隻。さすが46センチ砲(実際は45.7センチ)。戦艦の防御シールドを貫通しやがった。
「兄貴、あの艦橋――」
司令官席のジャルジーが口を開いた。
「たぶん、敵将は……」
「ああ、戦死した可能性も出てきたな」
すでに大帝国艦隊空中艦隊は壊滅へ向かっている。ウィリディス第二艦隊の猛撃に、ヘビークルーザーは全滅し、フリゲートの数も減少の一途を辿っていた。
そこで指揮官を失ったとあれば、全面崩壊は加速するだろう。
「勝ったのか、我々は」
驚きの混じった調子のジャルジー。まだ戦闘継続中だ。大帝国さんに勝ち目はほどんとないだろうが、まだ終了したわけではない。軽はずみなことは言えない。
その時、ディアマンテの戦況モニターに新たな動きが見えた。
「閣下、敵残存艦より、航空機が一斉に発進」
いまさらか。俺は眉間にしわが寄ったのを感じた。旗艦がまだ生きているのか、あるいは艦隊の代理指揮官の指示か。
ウィリディスの重駆逐艦と砲戦をしながら動き回る魔法文明フリゲートから、戦闘機が数機射出される。
展開が早い。一隻あたりの数は少ないが、交戦の最中にも関わらず、あっという間に数十機になった。
「第一群の航空戦艦に直掩機を緊急展開させろ。それと、アーリィーに戦闘機を寄こすように伝達」
俺の指示を、ディアマンテはただちに実行した。
前進する第二艦隊第一群、『大和』『武蔵』に続く二隻の航空戦艦『伊勢』『日向』より、TF-1ファルケ戦闘機がスクランブル発進。
この二隻の戦艦の後部は、ウィリディス製空母のような航空機格納庫を有する。飛行甲板と格納庫の側面発進口から、戦闘機が一気に飛び出す。
その展開力は、魔法文明艦に負けていない。まして小型のファルケ戦闘機は数も多く搭載できるため、『伊勢』『日向』二隻だけでも、かなりの戦闘機を出撃させることができる。
さらに、艦隊から離れた場所に展開しているアーリィー率いる空母機動部隊――第三艦隊からも、戦闘機隊が駆けつける。
よくよく戦況モニターを眺めていれば、何もないはずの場所から急に戦闘機が湧いて出てきたように見えただろう。
俺たち第一艦隊からさほど離れていない場所に、魔法によるステルスで潜んでいたポータル艦が二隻。
これは第三艦隊の旗艦に付属するパーツ艦であり、第三艦隊空母のポータル艇のポータルと繋がっている。
つまり、瞬間移動するが如く、遠く離れた空母艦隊から、俺たちのもとへ艦載機が転移してきているのだ。後方の第三艦隊から航空隊が到着するのに何分、何十分も待つことなく、すぐにエアカバーをしてもらえることを意味する。
魔術師と魔法をなめるなよ。
第三艦隊の戦闘機隊が、すぐに戦場の空に到着。艦隊の中を入り乱れる敵戦闘機とたちまちのうちに空中戦が始まる。
黄金色の魔法文明戦闘機と、ウィリディス軍のファルケ、トロヴァオン、ドラケン各種戦闘機が、光弾をきらめかせ、相手を捉え、赤い炎の華を咲かせる。
航空戦に対して手は打った。後は大帝国の残存艦の始末だ。俺は艦長席から、敵旗艦へと視線を向けた。
・ ・ ・
ウィリディス空母機動部隊こと第三艦隊は、アーリィーの指揮のもと展開していた。
八八八艦隊構想は主力の戦艦八隻×2組、と空母八隻が主軸となる。
その空母八隻は、旗艦級装甲空母一隻、大型空母三隻、汎用空母三隻、そして『ドーントレス』を加えたものとして計画されていた。
旗艦級装甲空母――アーガス級装甲空母は、全長300メートル超えのウィリディス艦艇最長となる。
同時期に建造された大型空母(イントレピッド級)をベースに防御性能を強化。艦載機運用能力を向上させ、小型戦闘機のみを積むなら、200機以上を運用可能としている。
特筆すべきは、艦載機によるポータル移動を担うステルス・ポータル艦二隻、ポータル艇六隻を接続・運用する機能を持っていることである。
今回、第一艦隊の交戦する戦場近くに『アーガス』所属のステルス・ポータル艦が展開していて、急な航空支援にも対応したのである。
艦隊旗艦『アーガス』の艦橋に、アーリィーはいた。第三艦隊は、戦闘に巻き込まれないよう、最前線よりかなり離れた場所にいる。偵察機の中継による魔力通信のやり取りで戦況を把握していた。
「……決まったね」
司令官席につくアーリィーは呟いた。
『アーガス』のシップコアにして、第三艦隊旗艦コアを務める『アダマース』は、制御端末から顔を上げた。
「はい、殿下。我が戦闘機隊は、制空権を確保しつつあります。第一艦隊、第二艦隊は敵艦隊を駆逐しつつあります」
アダマースは、ディアマンテ型シップコアのコピーだ。擬人化したその姿は短髪のディアマンテといった姿で、その銀色の髪が短めだがキャリアウーマンのような凛々しさがあった。
アーリィーは頷く。
「艦隊戦が始まった時は、ヒヤヒヤしたけれど」
第一艦隊と大帝国艦隊空中艦隊、その数の差、1対5。仮に性能に差がなければ、普通は負ける。
魔法文明艦艇の魔法砲が、機械文明艦艇のプラズマカノンより若干劣るのはわかっていたとはいえ、やはりというべきか数の差は、第一艦隊の艦を半減させた。
第二艦隊を待機させていたとはいえ、見ているこっちは生きた心地がしなかった。
「終わってみれば、予定どおりだったね」
「トキトモ閣下の先見性の賜物ですね」
アダマースはそこで小さく首をかしげた。
「しかし、何故、閣下は第一艦隊のみで当たったのでしょうか?」
「敵の隠れた増援に備えて、って説明だったよね」
「そうなのですが……。よろしいでしょうか?」
うん、とアーリィーは、アダマースの意見を促した。
「初めから第一、第二艦隊で当たっても問題なかったのでは、と愚考いたします。我が第三艦隊が予備兵力として待機していたのですから、増援が出てきても対応はできました」
「それもひとつの意見ではあるね」
アーリィーは認めた。
「たぶん、アダマースの指摘どおりに完勝もできたかもね。ただ、あの人、勝敗以外にも色々試したいことをやっているんだと思う」
たとえば、実際の魔法文明艦艇の武器や性能、そして戦術。初めから全力で戦艦群による砲撃で圧倒することもできただろう。が、それをやると敵の性能把握のための情報が少なくなっていたに違いない。
「なるほど、実戦データの収集ですね」
「数字で見るのと、実際に体験したことは違うからね」
アーリィー自身、去年までは学生だった。ジンと知り合って色々見たり体験したことで、その重要性は理解できた。彼女がウィリディス軍全体を見回しても、上位実力者の中に含まれるほど腕や知識が向上させられたのも、こうした実戦経験あればこそである。
「後は、ジャルジー公爵の経験のためもあるんじゃないかな……」
急遽、第一艦隊旗艦に同乗することになった、未来の王のため。ただ圧倒するだけではなく、劣勢な状況下や、状況における対処を実演しているのだと、アーリィーは思った。
その時、偵察機の中継による第一艦隊『ディアマンテ』とのリンクが表示する戦況モニターに変化があった。
「報告、戦場に急接近する艦隊あり!」
まさか、ここで敵の増援か。アーリィーのヒスイ色の目が鋭くなる。アダマースが振り返った。
「殿下、主力艦隊に接近中の艦隊は、シェード艦隊です!」
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