第918話、八八八艦隊
それは突如現れたわけではなく、潜んでいた。
後退するウィリディス第一艦隊の先にあった魔法雲――魔力を反射して探知を防ぐ潜伏魔法――を解除して、姿を現したのは二つの艦隊だった。
一つはウィリディス軍のグレーカラーの艦隊。そしてもう一つは青の艦隊色であるブルーの魔力塗装がされた艦隊だ。
第一艦隊旗艦『ディアマンテ』の艦橋。新たに現れた艦隊に驚くジャルジー。無理もない。現れた艦隊にはそれぞれ数隻の――ディアマンテに匹敵する巨大戦艦が含まれていたからだ。
ディアマンテが報告する。
「司令、第二艦隊第一群、第二群、それぞれ戦闘準備、完了」
「よし、こちらも反転。第一群の後方につく。第二艦隊は、敵艦隊への攻撃を開始!」
命令は発した。
第二艦隊第一群――大型戦艦2、航空戦艦2、重駆逐艦16が三つの単縦陣にて敵艦隊へ向かっていく。
また、第二群――戦艦8、重駆逐艦16が三列の単横陣に展開する。
ジャルジーは目を見開いたまま言った。
「兄貴、あの戦艦『ディアマンテ』より大きくないか?」
おそらく第一群の先陣を切る二大戦艦のことを言っているのだろう。
「ディアマンテ級改、改め大和級大型戦艦『大和』と『武蔵』だよ」
八八八艦隊計画において建造され、アリエス軍港島にて待機していた戦艦だ。
ベースとなった巡洋戦艦を純粋な戦艦に改設計。主砲をテラ・フィデリティアが実用化しているプラズマカノンのうち、上から三番目のサイズである18インチ=45.7センチ三連装で六基搭載。それに併せて装甲を強化。ウィリディス艦艇で最大の攻撃力、防御力を持たせて作られた。
名前についてはノルテ海の戦艦に『扶桑』と『山城』で日本艦を使ったので、それならと同じく旧海軍戦艦から頂戴した。……名前こそ、大和級で、若干外観を寄せたが、ディアマンテ級に似ている。
なお大和級に後続する二隻の航空戦艦は『伊勢』『日向』と、こちらも旧海軍戦艦から流用した。
廉価兵器建造計画で、扶桑型を建造した際の悪ノリで、多数の艦載機を運用できる戦艦を、ということになり、元の世界の伊勢型航空戦艦に倣って作られた。
35.6センチ連装プラズマカノンを八基十六門を艦首側の上下左右に二基ずつ集め、後部は艦載機用格納庫と運用スペースとしている。
一方、第二群を形成する青い戦艦群は、廉価兵器建造計画にて考案された簡易構造戦艦を元にした八八八艦隊艦だ。ある程度、数を揃えることを前提に作られたこの8隻は、かつての近代戦艦の魁になぞらえ、ドレッドノート級とつけた。
ネームシップがイギリス戦艦名なので、この8隻はすべてイギリス戦艦から名前をとっている。主砲は35.6センチプラズマカノンを三連装にまとめ、大和級と同じ主砲配置で六基十八門としている。
第一群の先頭を進む戦艦『大和』が艦首に背負い式に装備する45.7センチ三連装主砲二基を動かし、照準をつける。
標的と定めたのは、敵ヘビークルーザーの一隻だ。
豪砲一閃。最大火力のプラズマ弾が天を切り裂き、敵クルーザーの正面防御シールドを貫通、その艦体を空き缶を押しつぶすが如くひしゃげさせた。機関を吹き飛ばしたか、次の瞬間、太陽と見まがう爆発がクルーザーだったものを飲み込み、消滅させた。
「……!」
たった一撃で、アンバル級が苦戦した敵ヘビークルーザーを粉砕した。これが戦艦の大口径砲の威力だ!
それを目の当たりにして、俺は自然と顔がほころんでいる。さすが18インチ砲だ。
『大和』が次の標的を定める中、二番艦の『武蔵』も主砲を振りかざしてそれに続く。
第二艦隊第一群が距離を縮める中、第二群の8隻――ドレッドノート級戦艦が横陣からの艦首側、14インチ三連装砲を連続して発砲した。
大和級には劣るものの、それでもディアマンテ級に匹敵する14インチ砲だ。ヘビークルーザーの装甲をもってしても耐えられるものではなく、狙われた艦から次々に撃沈されていく。
形成は明らかに逆転した。戦艦の大火力が敵クルーザーおよび、フリゲートを容易く四散させていく。
さらに第一群の戦艦群を護衛する重駆逐艦――神風級16隻が、解き放たれた猟犬の如く、突撃を開始した。
神風級重駆逐艦は、八八八艦隊計画の主力駆逐艦である。
初代シャドウ・フリート壊滅によるアンバル・ショック後の艦艇として、重武装が施されており、防御シールド付きの小型艦を駆逐できる火力を有する。
全長108メートルの艦体に、12.7センチ三連装プラズマカノン三基九門、艦首ミサイル発射管四門、さらに四連装ミサイル発射管四基の重駆逐艦である。
40隻が建造され、うち32隻が、第一駆逐戦隊、第二駆逐戦隊に配備された。すべて名前に『風』がついているのが特徴であり、突撃を開始したのは第二駆逐戦隊だ。
第二駆逐戦隊は、四個駆逐隊――四隻編成で一個駆逐隊――からなり、第五から第八までの駆逐隊が、三連装砲を撃ちまくりながら、敵艦隊のフリゲートに襲いかかった。
吹雪級が単装砲であるのに対して、神風級は三連装砲。一門あたりの威力が同等であるなら、単純に威力は三倍となる。
もっとも、それにともなうエネルギー容量も三倍消費となるわけだが、神風級の砲塔のエネルギー容量も三倍に強化されているため、吹雪級と同等の射撃回数が可能だ。
……実際のところ、吹雪級が前期軽型プラズマカノンに対し、神風級は後期出力強化型のため、攻撃力の差はもっとあったりする。
第二駆逐戦隊を迎撃する敵ブリゲートの魔法防御シールドを、神風級の主砲は撃ち抜いていく。伊達に重駆逐艦ではない。
とはいえ、神風級もまったく無傷とはいかず、シールドを破られ被弾する艦が相次ぐ。フリゲートと駆逐艦が入り乱れての混戦が展開される。
その間も大和級の第一群が距離を詰め、ドレッドノート級戦艦の第二群は、第一群の突入を支援。大帝国艦隊の数を減らしていった。
そしてついに、帝国艦隊旗艦『オニクス』が転舵、離脱行動にかかった。
・ ・ ・
「こんなはずでは……!」
グラバー参謀長の呟くような声が、エアガルの耳に届く。
立ち尽くす参謀長を尻目に、空軍元帥はこみ上げてくる怒り、そして罵声を必死に飲み込んでいた。
奥歯を噛みしめ、戦況モニターに表示されているヴェリラルド王国艦隊、それと援軍と思われる青い艦隊を睨む。
こんなはずではなかった――それはエアガルも同じ思いだった。眼前の勝利が消え、たちまち劣勢に陥ってしまった。
まるで山脈に積もった雪が大雪崩を起こして迫ってくるようだ。打つ手が浮かばない。
ディアマンテ級に匹敵するだろう戦艦が13隻。こちらは1隻しかないのに、その戦力差は
ヘビークルーザー群はたちまち蹴散らされてしまった。
もはや撤退しかない。命令は直ちに実行に移され、戦艦『オニクス』は回頭した。まだフリゲート群が敵小型艦を足止めできているうちに離脱しなくては、おしまいだ。
生きて戻ることさえできれば、再起できる。ディグラートル皇帝はエアガルに言った。『船ならまだまだ沢山あるから、使い潰してもよい』と。
「これで終わりではないぞ……!」
怒りに染まった形相で吐き捨てるエアガル元帥。だがその時、シップコアが警告を発した。
『敵戦艦、本艦を捕捉した模様! 警告! 衝撃に備えよ』
接近中の大型戦艦――『大和』、『武蔵』の18インチ砲が『オニクス』を捉えた。その強烈な光弾が防御シールドを貫通し、そのうちの一発が艦橋の強化窓を光で満たした。
それが、エアガル元帥の見た最後の光となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます