第916話、第二次ズィーゲン領空会戦


 かつて、大帝国の第五空中艦隊が散華したズィーゲン平原。その上空に、再び大帝国の新鋭、第一空中艦隊が侵入した。


 迎え撃つ俺たち、ウィリディス第一艦隊は旗艦『ディアマンテ』を先頭に、巡洋艦群、シズネ級ミサイル艇が続く単縦陣と、吹雪型駆逐艦とシズネ級の単縦陣の二列で航行していた。


 偵察機による敵情報告が、ディアマンテ艦橋に響く。


『敵、巡洋戦艦1、重巡12、護衛艦多数――高速接近中』

「敵艦隊もこちらを探知しているのだろう」


 艦長席に座る俺は、戦況モニターへ視線を向ける。大帝国艦隊は、我が前衛艦隊の五倍の戦力である。


「ジン、航空隊は?」


 俺の後ろ上方の司令官席のジャルジーが聞いてきた。打撃艦隊こと、俺たち前衛とは別に、アーリィーが指揮する空母機動艦隊が存在する。


「こちらの防空援護以外は待機だ。敵さんもこちらの航空隊を警戒している」


 それまで散々連中の空中艦隊を打ちのめしてきた航空隊である。艦艇数がこちらが少ない以上、航空隊を差し向けて戦力差を埋めようとする、というのは敵さんも考えるだろう。


「向こうが先手を打ってきたら?」

「アーリィーには戦闘機隊を展開させている。向こうが戦闘機を差し向けてきたら、戦闘機で対抗する」


 艦上攻撃機と艦上爆撃機は、戦果拡大か、よほどのピンチの時まで温存だ。

 艦隊コア、ディアマンテが振り返る。


「敵艦隊、ウォール陣形に展開。間もなく肉眼でも確認できる距離となります」

「……つくづく『壁』がお好きなんだな帝国は」


 俺は苦笑する。


 大帝国艦隊は、旗艦であるディアマンテ級を中心に、重巡洋艦を4隻ずつ周囲に展開。100隻の快速フリゲートを10隻ずつのグループに分け、垂直に列を形成して展開させた。

 まさに壁と呼ぶにふさわしい。


「敵艦の武装の配置から察するに、正面方向への攻撃力が高いからな」


 魔法文明艦艇は、その砲配置が艦首側に集中している。


 一方で、『ディアマンテ』やアンバル級などの機械文明艦艇は、側面を向いている時が一番主砲の火力を集中しやすい。艦首だけでなく、艦尾側にも主砲を配置しているからだ。


 双方の艦隊は、正面から距離を詰めていく。帝国の艦隊がすでに最大火力を発揮できる陣形である点から考えても、このままこちらが突進すれば、逆丁字戦法を決められている格好になる。


「面舵30。敵側面に迂回すると見せて、同航戦に持ち込む。砲雷撃戦、用意」

『おもかーじ』


 巡洋戦艦『ディアマンテ』が右方向へ針路を変更。後続するアンバル級軽巡洋艦も親ガモに続く子ガモのように従う。


 同航する吹雪級駆逐艦、シズネ級も、ディアマンテ艦列をトレースするように続く。


「敵艦隊、一斉回頭。取り舵」


 同航戦に付き合うつもりらしい。まあ、魔法文明フリゲートは正面火力が最大ではあるが、その砲配置は後ろが撃てないだけで、側面までは最大火力で応戦できる。主砲が上下に一基ずつしかないせいだけど。


『ディアマンテ』の35.6センチ連装プラズマカノンが左舷方向へ指向する。艦首の上下に二基ずつ、艦尾に上下に一基ずつの計六基十二門が、敵旗艦――ディアマンテと同型ながら黒い塗装がされている『オニクス』へ砲門を向けた。


 アンバル級の15.2センチ連装プラズマカノン、吹雪級、シズネ級の12.7センチプラズマカノンも、それぞれの目標へと狙いを定める。


 時同じく敵旗艦『オニクス』も、こちらに35.6センチ連装プラズマカノンを旋回。敵クルーザー、フリゲートもその魔法砲をくるりと回転させた。


 あちらさんもやる気満々。数で大差をつけているから強気なのだろう。


「シールド強度は強めに。敵さんの主砲は効くぞ」

「司令、射撃準備、完了しました」


 ディアマンテの報告。俺は後ろのジャルジーを仰ぎ見る。公爵閣下は頷いた。

 俺はディアマンテに視線を戻した。


「全艦、撃ち方始め!」


 次の瞬間『ディアマンテ』の主砲が青いビームを放った。アンバル級以下、大小23隻のプラズマカノンが発砲。帝国の空中艦隊へと伸びる。


 敵旗艦『オニクス』に『ディアマンテ』の35.6センチ砲が命中した。正確には、防御シールドに当たり弾かれた。


 敵フリゲートの何隻かが被弾による火の手を上げ、墜落する。一方でヘビークルーザーはビクともしていない。


 お返しとばかりに、『オニクス』が発砲した。さらに魔法文明艦艇も黄色い光弾を一斉に撃ち返してきた。


『ディアマンテ』にオニクスのプラズマカノンが着弾。だがこれはシールドが跳ね返す。


 さすが同クラスの艦。攻防ともに互角である。


 しかし、後続する艦艇はそうはいかなかった。多数の敵フリゲートの攻撃が艦隊に伸び、シールドを展開してなお、そこを抜けてくるものがあった。


『シズネ8、轟沈!』

『吹雪、被弾! 艦列を離れる!』


 SS見張員の報告。さらにディアマンテの戦況モニターに被弾、撃沈艦のレポートが上がる。


『シズネ2、大破、墜落!』


 青と黄色の光芒が瞬き、爆発が空を染める。


『敵フリゲート群、本艦隊の左舷前方、ならびに後方より急速接近中!』


 帝国艦隊は数の利を活かして、フリゲート戦隊の一部を肉薄突撃させてきたようだ。

 敵指揮官は空軍総司令官のエアガル元帥だったな。この世界の人間の艦隊運用とは思えないが、異世界人の知識を得ているのかな?


「ジン、これはマズくないか?」


 ジャルジーが声をかけてきた。俺はチラと一瞥いちべつする。


「数で押してくるというのはこういうことだよ。――ディアマンテ、接近するフリゲートにミサイルならびに対空火砲で応戦しろ!」


 主砲は引き続き、敵本隊を砲撃。


 急接近する敵フリゲート。全長70メートルほど。鋭角的な三角の船体に同じく三角形のウイングを持つ航空機のようにも見える艦艇が縦列を形成し、巨大な蛇のように迫る。


 左舷前方から20隻、後ろからも20隻。

 向かってくるフリゲートに『ディアマンテ』から発射された複数のミサイルが伸びる。シールドが一発耐えたが、続くミサイルがフリゲートに着弾、爆発。その船体を引き裂いた。


 だが数隻が吹き飛んでも、さらに後ろの艦が突進してくる。


 吹雪級駆逐艦、シズネ級が迎撃に向かう。12.7センチプラズマカノンが、立て続けにフリゲートに命中。やはり一発は敵艦はシールドで防いだが連続の被弾には耐えられず撃沈する。


 一方、敵フリゲートも負けじと反撃の魔法砲を放つ。


 こちらも数発は弾いたが、シールド強度を失い、ウィリディス艦も被弾、沈没が相次ぐ。特に第二列の第十二駆逐隊に被害が続出した。


 ディアマンテにも数隻のフリゲートが一撃離脱を仕掛け、そのシールドを削る。


『シールド強度、30パーセントダウン!』

「反撃! 一隻も近づけるな!」


 ディアマンテの号令が飛ぶ。対空光線砲とミサイルが敵艦を次々に四散させる。攻撃を仕掛けて離脱できたフリゲートは少なかった。


 だが敵の突撃を凌いだ時、ウィリディス第一艦隊は、その艦艇を半分に減らしていた。


 アンバル級軽巡『グラナテ』が被弾により戦線離脱。駆逐艦『白雪』『淡雪』『大雪』『島雪』が撃沈され、シズネ艇も10隻中5隻がその姿を消していた。ほか、損傷艦も複数あり。


 思ったり早かったが、そろそろいいだろう。俺はディアマンテに命じた。


「計画をA2に移行する。全艦反転、戦線を後退する」

「承知しました。艦隊反転。面舵70」


 巡洋戦艦『ディアマンテ』以下、残存艦は艦尾側主砲やミサイルで攻撃しつつ、戦闘速度のまま針路を変更、離脱にかかる。


 敵本隊も、こちらが逃げると判断したか、一撃離脱で突撃させたフリゲート戦隊と合流しつつ、追撃にかかった。

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