第914話、悪魔人形は嗤う
呪術ゴーレムの群れ。その一角を光が飲み込んだ。
魔人機エクゼキューターのコクピットでその光に目が眩んだのも一瞬、九頭谷の耳に聞き慣れた女の声が届いた。
『助けにきてあげましたわよ、ゴウ』
「モルブス!」
光が消えた時、数機の敵呪術ゴーレムが消滅。代わりに、初めてみる魔人機のようなものが三機、姿を見せた。
青、黄金、赤――異なるカラーリングの魔人機らしきもの。色を見ただけで、九頭谷は搭乗しているのがモルブスたち美女悪魔だと理解した。
「お、お前ら、何だ、その機体は!?」
九頭谷は見たことがなかったから、素で驚いた。答えたのはブラーガだった。
『作ったんだよ』
「作ったぁ!?」
『あたしは悪魔だよぉ。人間にできて、悪魔にできないことなんてないんだよ』
『もっとも、中身はデーモンドールだがな』
フェブリスの声。すかさずブラーガが声を張り上げた。
『フェブリス! いやまあ、そうなんだけどね』
『お喋りはそこまでよ。愚鈍な敵が動き出しましたわよ!』
モルブスが注意を発する。途端に、三機のデーモンドールが動き出す。
青い機体――おそらくフェブリス機はドラゴンを模した頭部に、エクゼキューターと同じくウィングブースターを背部に搭載。翼を持った竜頭の人型といったスタイルだ。手には巨大な両手持ち剣型の近接武器。そして肩にキャノン型の兵器があり、そこからエクゼキューターのマギア・ランチャーと同様のビームを放つ。
黄金の機体――モルブス機はエクゼキューターと似た頭部だが、こちらは角なし。人型でありながら背部の巨大なバックパックのせいで、異形じみた外見だ。どこか蜘蛛の尻のような背部パーツのせいで、ひどくアンバランスに見える。手持ちの装備はないが、腕に射撃武器を仕込んでいるらしく、魔弾を連続して発射、呪術ゴーレムを倒していく。
そしてブラーガのものと思われる赤い機体。頭部の角は猛牛のそれのように湾曲している。各所に炎を模した意匠がついているが、それより目を引くのは全身、武装が施されていること。背部からサブアームが四本、腕が二本、そして脚の二つと合計8つのガトリング型銃器が正面を向いた。
『さあ、くたばんなァ!』
それぞれの砲身が独特の回転音を響かせ、凄まじい連射の魔弾を吐き出した。
まさしく弾幕。射線に入ったらまず回避不可能。
呪術ゴーレムが次々と蜂の巣となり、もの言わぬスクラップと化す。あまりのことに、九頭谷は言葉を失った。
・ ・ ・
大帝国魔法軍、ジェレイド・マルは魔術師である。
呪術ゴーレムを生成するMMB-7の開発に協力し、その具現化ベースとなるゴーレムの製作を担当した。
今回、ヴェリラルド王国を侵攻する大帝国西方方面軍の作戦に合わせ、魔法軍は行動していた。
MMB兵器の実戦テスト。ジェレイド・マルは、上司であるジャナッハ魔法軍総司令からの命令を受けて、遠くヴェリラルド王国にやってきたのだ。
銀髪、頬の痩けた四十代男性。ジェレイド・マルは、自身の送り出した呪術ゴーレムⅣ型が、ヴェリラルド王国所属と思われる魔人機に破壊されていく様を目撃することになる。
「なんという性能だ……」
ジェレイド・マルは口元に手を当て、考えるポーズ。
大帝国の魔人機と比較にならない運動性、そして火力。ヴェリラルド王国の人型兵器は、大帝国のそれと隔絶した性能差があった。
「私のⅣ型でも相手にならぬか……」
MMB-7による呪術ゴーレムのほか、改造馬を駆る帝国騎兵300。ほか、魔術による召喚死人兵を追加で3000を用意できるジェレイド・マルの部隊だが……。これでは、進撃するだろうノベルシオン国軍と合流できるとはとても思えない。
MMB兵器の実戦テストのほか、実はノベルシオン国軍への補給路確保も、ジェレイド・マルに与えられた任務だった。
非常によろしくない状況だ。幸い、敵はわずか四機。数で押し切れば――
「押し切れる、か……?」
ジェレイド・マルは、とても不安だった。
・ ・ ・
デーモンドールとは、悪魔族が使役する傀儡人形の一種である。
人形と名の通り、生き物ではない。ただ擬似魂というゴーレム・コアのような思考体を埋め込んでいて、言葉を理解し、ある程度の命令を遂行することができる。
その体の構成は、泥や砂などもあれば、魔力を金属化したものだったり、生き物の肉――屍肉も含む――を混ぜ込んで作り上げた生体部品であることもある。
ノイ・アーベント――ウィリディス軍と接する過程で、魔人機を見聞きしたブラーガは一族に伝わるデーモンドール、そのゴーレム型の技術を利用できると考えた。
その結果が、九頭谷のエクゼキューターであり、ブラーガたちが操る魔人機もどき、デーモンドールの改造機である。
本来は無人機だが、ブラーガはそれを魔人機同様、パイロットが乗り込んで操縦できるように改造した。
魔人機の制御システムであるコアの代わりは、上級擬似魂で代用。さらにパイロットである悪魔たちの思考で補正することで、魔人機以上の機体制御性能を獲得した。
あとはパイロットに合わせて、改造することで、カスタムタイプが出来上がった。
竜系悪魔のフェブリスの『フィアブラス』がドラゴンの意匠なのも、黄金スキーなモルブスの『ティニャス』がピカピカなのも、弾幕火力主義のブラーガの『クレーフト』が多数の可変武装を装備するのも、それぞれの個性である。
フィアブラスの大剣が呪術ゴーレムを砕くように切断。
ティニャスが背部の蜘蛛型ユニットから無数の魔法鎖を射出し、それらが大蛇の如くゴーレムを砕き、または貫いていく。
そしてクレーフトの嵐のような猛射が、敵集団を溶かしていった。
……それをポツンと見守るはエクゼキューターに乗る九頭谷。
「あー、えーと……」
うちの悪魔娘たちは、いつでも過激なんだ――という言葉を飲み込みつつ、乱射しまくりのブラーガに声をかける。
「なあ、ブラーガ、そんな撃ちまくって、エネルギーとか大丈夫なのか?」
8基のガトリング砲から魔弾が放たれているが、どう考えても機体の魔力タンクとか空っぽになりそうな調子なのだが……。
『あー、当に魔力はなくなってるよ!』
何やらハイなテンションのブラーガ。
『でもあたしの魔力を使ってるから大丈夫!』
「……」
それ本当に大丈夫なのか? と九頭谷は思った。それはつまり、自分自身で魔法を撃っているのと同じということで……。いや、彼女は悪魔でも魔力特化の魔術師である。人間の物差しで図ってはいけない。
『おい、ゴウ』
魔力通信からフェブリスの声が響いた。
『やることがないなら、敵陣にあるゴーレム生成器を破壊してくれないか? ……それとも、あれも私たちでやってしまってもいいのか?』
「やるよ、やりますよって!」
言い出しっぺである以上、きちんと始末をつけなくてはならない。圧倒的な彼女たちに見とれている場合ではなかった。
九頭谷のエクゼキューターは飛翔する。一気に敵本隊へ――と、そこではすでにモルブスのティニャスが黄金の魔法鎖で、帝国騎兵たちを蹂躙していた。彼女の高笑いが聞こえた気がしたが、それについてはノーコメントで通す。
「あれか……」
マギア・ランチャーを、装甲車らしきものに載っている球体付きのコンテナのような物体に向ける。光が弾け、呪術ゴーレムらしきものを生成しようとしている。
「こいつでお終いだッ!」
魔弾が放たれ、狙い通り生成器ごと装甲車を破壊する。帝国魔術師ジェレイド・マル諸共――。
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