第896話、オニクス


 機動巡洋艦『ユニコーン』率いる第一遊撃隊は、ヴェリラルド王国に帰還した。


 アリエス浮遊島軍港には、新規の航空艦が無数、ひしめいていた。八八八艦隊計画の大小さまざまな艦艇や、ユニコーン級機動巡洋艦を軸とした遊撃隊用のシーパング系艦艇などだ。


 さて、アリエス浮遊島に到着した俺たちは、さっそくディアマンテとスフェラを交えた戦況報告会を開いた。

 SS諜報部のスフェラは、西方方面軍司令部からの最新報告を披露した。


「シェード将軍は、リヴィエル王国への増援は見合わせるとのことです。大帝国本国よりの増援を、ヴェリラルド王国侵攻作戦に振り向けるので、リヴィエルに援軍を送りたくても送れない状況です」

「ジンの読みどおりだね」


 アーリィーが口元を緩めた。スフェラは続ける。


「ただ、大帝国内でも大きな動きが見られます。マスターがディグラートル皇帝から聞いた、新戦力が本国に姿を表したのです」


 ディアマンテが頷くと、中央のホログラフィックが作動する。


「確認されたのは、ディアマンテ級巡洋戦艦1――」

「ちょっとまて、ディアマンテ級だって?」


 俺は思わず遮っていた。スフェラとディアマンテが頷いた。


「大帝国が密かに回収していたものと思われます」

「艦名は判明しています。二番艦の『オニクス』。アンバンサー大戦中に撃沈された艦でしたが、大帝国は修理して使えるようにしたようです」


 二番艦……。よく直せたな、と思ったが、そういえばコアさえ無事なら魔力を供給することで自動修復ができるんだった。かつてはアンバルもそうだったし、ディアマンテも同様だ。

 それにしても、姉妹艦の一隻が敵にあるとは。俺はディアマンテを見る。何とも複雑な心境だ。


「かつては第二艦隊に所属していましたが、第五艦隊の臨時旗艦として引き抜かれ、そのまま撃沈されました」


 ディアマンテが事務的に説明した。


「その際、従属回路スレーブサーキットは書き換えられていますが、念のため、こちらも第二艦隊旧コードは書き換えを行っております。『オニクス』側からスレーブサーキットを使った攻撃を行ってもすでに無効化しています」

「……そうか」


 言われて、確かに従属回路で乗っ取られるのはよろしくないと思った。大帝国が使っていたアンバル級をそれで手に入れているから、逆パターンでこられて操られてしまったら、大敗北確定だった。グッジョブだ。


「でも逆に、こっちもスレーブサーキットで『オニクス』を制御できないんだね」


 アーリィーが指摘した。ディアマンテは首肯する。


「はい。大帝国が『オニクス』を使ってくる以上、交戦は避けられません」


 沈痛な雰囲気。だがスフェラは淡々と話を進めた。


「大帝国は、魔法文明時代の空中艦を戦力化しました。確認されているのは、ヘビークルーザー級10、フリゲート級――サイズは大帝国のⅠ型コルベット程度ですが、それが100隻」

「100!」


 驚くアーリィー。うん、俺も、その数にはちょっと驚いた。なるほどね、ディグラートルが自信満々に言い放つだけのことはある。


「これらの兵器は、魔力消失空間にあった世界樹遺跡にて確認された艦艇群と一致しました。こちらで回収した物はすべてスクラップだったのですが、帝国側はきちんと稼働できる物を大量に手に入れたようです」

「だろうね」


 遺跡を一個見つけたって言ってたもん、あの人。おそらく八つの光点のひとつ。大帝国にほど近い場所にあったやつだろう。恐れていたことが現実になってしまったな。


「帝国側が解析した能力は、諜報部が入手しております」


 スフェラが、俺とアーリィーにその資料を配った。ヘビークルーザーとフリゲート、その全長や武装、その能力――


「火力はプラズマカノンより、やや劣るが、射程・命中精度はほぼ互角」


 これだけで大帝国のこれまでの空中艦より、遥かに強敵だとわかる。先日回収したストレイアラ号に似たシルエット。これまでの手作り艦と違い、プロペラはなく、レシプロ機関ではなく、魔法推進とある。速度もかなり速くなっている。


 アーリィーが顔をしかめた。


「航空機がある……」


 資料には、艦艇の他に航空機らしいものが二種類。


 ひとつは、円盤にジェット戦闘機の機首がついたシルエット。もうひとつは、前後が逆になったトンボみたいなシルエットだ。主翼が四枚ある。


 武装はそれぞれ魔法砲と呼ばれる魔法弾系。ミサイル系の武器も少数だが搭載可能なようだ。


 どちらも魔法文明時代の代物で、最近大帝国が実用化した戦闘機よりも速度で勝っている。


 資料に記載されたデータは、ディアマンテも監修に携わったらしく彼女の評価も記載されていた。円盤型は速度に優れ、トンボ型は小回りが利き、運動性が高いようだ。


 かなり推測が含まれているが、ウィリディス製戦闘機との比較では、おそらく対抗可能だろうということだった。……こればかりは実際に戦ってみないことにはわからない部分もある。そもそもパイロットの腕の良し悪しもあるし。


「そういえば、艦艇もそうだが、これらの兵器はどうやって動かしているんだ?」


 ウィリディス軍では、人間を除けば、コアとシェイプシフターたちが運用している。


 魔法文明がどのように兵器を動かしていたのか。

 奪取したストレイアラ号は、人間が操艦していて、コアやそれに類する自動制御システムはなかったと記憶しているが……。


「はい、兵器の大部分は人型種が操艦ならびに操縦して動かします」


 スフェラが答えた。人型種……? 妙な言い回しだな。普通に帝国兵ではないのか?


「妙な話だね」


 アーリィーが首をかしげている。


「大帝国は、これらを前々から持っていたの?」

「『オニクス』についてはそのようです。ですが魔法文明の艦艇についてはつい最近、発掘されたものになります」

「それを動かす人員はどこから確保したの?」


 人が航空機や艦艇を動かすというのは、そう簡単なものではない。アーリィーは本人の才能もあるのだがろうが、比較的短期間でモノにしていた。だが世の中、そういう人間ばかりではないし、一人前に育つには時間がかかる。


 うちのシェイプシフターやコアのように、どれかひとつが覚えたら、あとはコピーして全員が同じ能力を持つ、というのでなければ……。


 資料に書かれている艦艇の乗組員数などを見ても、万の人数が動員されていることになるのだが……。


「開戦からこっち、俺たちは帝国艦を沈めまくったけど、開戦後に新艦の乗員を大量育成したという可能性はあるな」


 俺たちだって、いま連合国や、ヴェリラルド王国の要所で新兵器を扱う訓練などをやっている。ノルテ海艦隊の乗員の半分はシェイプシフターだが、残りはヴェルガー伯爵領の地元兵だ。

 少々訓練期間が短いが、やってできなくはない。


 すると、スフェラがいつもの調子で答えた。


「これらの艦艇、航空機の人員は、ほぼダークエルフです」

「……何だって?」


 それは衝撃的過ぎる報告だった。


 大帝国とダークエルフ。人間至上主義の帝国、亜人種族を家畜や奴隷と言い放ったディグラートルの兵器群に、まさかダークエルフたちが動員されているなんて。

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