第893話、ユニコーンは敵を刺し貫く
王国派サンク砦がウィリディス戦車中隊の支援で逆襲に出た頃、前線拠点その二である、キャトル砦にも大帝国派軍勢が侵攻していた。
リヴィエル王国に展開する第二戦車大隊は、一個戦車中隊と一個歩兵戦闘車中隊から編成されている。つまり、サンク砦に戦車中隊が出払っているので、キャトル砦にはゴーレムキラーであるルプス戦車はない。
ここに展開したのは第一SS空挺大隊。レーヴァ隊長率いる空挺シェイプシフター兵たちだった。
『大尉、ゴーレム・ウォール接近中』
潜伏用の迷彩マントを被り、地面に伏せているSS空挺兵。ズシンズシンと足音と共に地響きをさせながら鉄鬼が横に広がりながら距離を詰めてくる。
迷彩マントの隙間から、双眼鏡を覗き込むレーヴァ。……敵歩兵はゴーレムよりさらに後ろ。これなら邪魔はされないと判断する。
全高六メートル近い鉄鬼の威容。生身で力勝負を挑んだら、まず勝てない。もっとも、シェイプシフターの物理耐性を考えれば、ぶん殴られても死ぬことはないが。
充分距離が迫ったところで、レーヴァは迷彩マントを払いのけた。片膝立ちとはいえ、敵前に姿を現すシェイプシフター兵たち。肩に担ぐは対装甲兵器用ロケットランチャー。
『撃て!』
ロケット弾がSS兵たちによってそれぞれ放たれる。大帝国製の貧弱装甲の戦車はもちろんのこと、アイアンゴーレムをも粉砕できるように作られたロケットランチャーは、単発ながら、鈍重なる鉄鬼の装甲を穿ち、爆発させた。
足を失い転倒する鉄鬼。胴を砕かれ、コアを破壊された鉄鬼が地面に突っ伏す。
歩兵にとって心強い対装甲兵器ロケットランチャー。携帯製に優れたこの武器は、敵に飛び道具がなければ、頼もしいことこの上ない。
ゴーレム・ウォール、崩壊。
後方の大帝国派歩兵部隊は、突然のことにその足が止まった。
さて、次はどう出る? ――レーヴァが見守る中、敵は弓兵を出してきて。
『シールド!』
レーヴァは指示を出した。たちまちシェイプシフター体を利用した大型盾をかざす。飛来したのは百を超える矢の雨。だが盾によって弾かれ、または防がれる。
……本当は盾などなくてもシェイプシフターは死なないのだが。一応、防ぐフリはするように、というお達しである。今回のように余所の軍と共同戦線を張る場合は特に。
『ヘリ部隊、敵部隊を掃討せよ』
レーヴァの命令が発せられる。空挺隊員を前線に運ぶワスプ汎用ヘリ部隊が、その熊ん蜂のような姿を見せて飛来する。
そして始まるヘリ搭載機関銃による敵兵の掃射。降り注ぐのは銃弾の雨。重ゴーレムの装甲には効果が薄い機関銃弾も、人間相手では恐るべき威力を発揮する。
弓を番える敵兵は、立ち所になぎ払われ、血の霧へと変わった。
・ ・ ・
前線拠点二つに攻撃をかけたガニアン大帝国派軍は、ウィリディス軍の前に撃退されつつあった。
だが、大帝国軍リヴィエル派遣軍は、王国派の最重要拠点であるセルマン城を急襲した。
空中艦十隻――クルーザー六、コルベット四は、地上にカリッグほか魔人機大隊を降ろすと、城を爆撃すべく高度をとった。
……が、そうは問屋が卸さないよ。
機動巡洋艦『ユニコーン』率いる第一遊撃隊が戦場に到着したのだ。
「敵は既存の船か……」
俺は、サフィロが解析した敵艦艦種を見やる。これといって新兵器が装備された改造艦ではない。警戒すべきは魔器くらいか。個人携帯サイズだと、どうしても外観からはわからんのよね。
「地上は魔人機部隊に任せるとして、本艦は大帝国艦隊を相手しよう」
「了解。全艦、戦闘配置!」
艦長席のアーリィーからの命令で、艦内に戦闘配置の警報が鳴る。主なSS乗員は配置についているが、搭載航空隊や地上部隊は生身の者もいるのだ。
「それで、ジン。どう対処する?」
アーリィーが聞いてくる。司令官が座乗している場合、この手の戦術指揮は、その司令官――つまり俺の仕事だ。
「護衛艦隊は、セルマン城の上空に留める。本艦のみで、敵艦隊に突撃する!」
「本艦のみ?」
「うは、いいねぇ!」
驚くアーリィーをよそに、ベルさんがニヤリとした。
「『ユニコーン』の初陣だ。この艦が、並の巡洋艦じゃないところを見せてやろう」
艦体に10基もの主砲を備え、12基の両用砲、28門のミサイル発射管を備える『ユニコーン』である。機動巡洋艦という元の世界にも存在しない艦級ながら、ウィリディス艦でも随一の高速性能を誇る。
「……もう、やることが派手だよね……」
アーリィーは艦長席から正面に向き直る。
「全艦、砲撃戦用意! 主砲だけで、敵艦隊を殲滅するよ! サフィロ、各砲塔個別射撃、行けるね?」
「承知しました。全艦、砲撃戦用意」
復唱するサフィロ。アーリィーは続く指示を出した。
「戦闘速度へ! 一航過で全部やるよ!」
うはっ、アーリィーさんも大胆! 俺も自然と顔がほころんだ。
『ユニコーン』は巡航エンジンに加え、搭載する全てのエンジンを唸らせ、大帝国空中艦隊へ正面から突撃を敢行した。
敵は五隻ずつの横陣を展開。前を行く隊とその後ろに続く隊で分かれている。
先陣を切る五隻が、迫る『ユニコーン』に対して主砲を旋回させる。大帝国艦は実弾砲だが、双方の速度や風向き、弾道の計算などで移動物体に命中させるのは難しい。高度な計算を行う射撃装置の分野は、まだまだ大帝国は開発段階なのだ。
対するウィリディス艦は、テラ・フィデリティアがアンバンサー戦争で主力として使い、その使用データも豊富なプラズマカノンであり、かつシップコアなどの高度な電算装置がある。
「操舵手! 艦を敵艦隊と同高度に合わせて。砲術長、目標を捕捉次第、射撃! まずは前列の五隻。続いて後列の五隻だ。ボクの号令を待たなくていい。やっちゃって!」
『了解』
『ユニコーン』の艦首上面2基、下面1基、艦中央下面1基、左右各1基の計4基……つまり8基の主砲が、前方の敵艦隊にそれぞれ砲口を向ける。前方指向の主砲数はアンバル級以下、大半の巡洋艦が2基なので、この時点ですでに巡洋艦4隻分の火力発揮が可能だ。
砲術長席の目標照準モニターが、それぞれの標的を捕捉し、イエローからグリーンに代わる。
その瞬間、『ユニコーン』の前方指向可能な全砲門、15.2センチ三連装プラズマカノン8基24門がそれぞれの目標に青い光を放った。
三条のプラズマ弾は、艦首から敵クルーザーとコルベットを貫き、溶かした。機関が爆発し、溶解しながら艦体が爆散! 五つの火球がほぼ同時に空に開いた。
お見事! 残りは半分だ。速度を落とすことなく、『ユニコーン』はなおも突き進む。気性の荒さで有名な一角獣、その獰猛さに違わない速度で、次の標的群を捉える。
そして先ほどの前列を瞬殺した時と同じく、プラズマカノンの青き閃光の一突きが、後列五隻を貫き、平らげた。
『敵艦隊、全滅!』
レーダー手の報告に、アーリィーは席を回して、俺を見た。
「ご満足いただけましたか、司令?」
「大変結構。想定どおりの砲撃能力だった。……いいお手並みだったよ、艦長」
さすがだ、と口にすれば、アーリィーは照れたのか。軍帽を直す仕草で顔をわずかに隠しながら「どうも」と答えた。
いや、俺も誇らしい。アーリィーの艦長としての指揮ぶりは自分のことのように嬉しかった。
さて、残すは地上戦か。
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