第875話、例の光点にあったもの
魔力燃料を交換し、再び動くようになったワンダラー号。そして俺たちが乗ってきたスパロー小型艇は魔力なし領域を飛行。
ゲルリャ遺跡の地図が指し示した光点へと向かう。俺はワンダラー号に乗って、操縦席のリーレ、副操縦席の橿原の後ろにいた。
ゴーレムコアの補助があるとはいえ、リーレはまったく危なげなくワンダラー号を飛ばしている。半年前まで機械のきの字にも触れたことない女戦士とは、想像できないね。
橿原が操縦席脇のホルダーに目をやる。
「カード、光ったままですね」
「例の光点の領域内だからなぁ。この魔力がない空間が、全部そうなんじゃないかって思えるな」
まるでタクシーの運転手のように、操縦桿を握ったまま返事するリーレ。
「これで、目的地で反応あればわかりやすいんだけどな」
「それ、前も聞きましたよ」
「ヤベーな。気をつける」
どうやら二人にとって、いつものやりとりらしい。俺は思わずほっこり。こんな空気で、遺跡探索やってるんだなぁ、彼女たちは。
「……なあ、あれじゃないか? 姫さん?」
地図を見ているアーリィーに、リーレが声をかけた。その一方、正面ガラス窓の向こうにも、それっぽいものが見えてくる。
コの字型の谷、その中央に、少し盛り上がった丘のようなものが見えてきた。……丘? 山……、いやあれは――
「おいおい、こりゃあ……」
ひょい、とベルさんがコンソールの上に飛び乗った。巨大な木――いや木だったものがある。
世界樹クラスの大木、ただし途中からなくなっていて、しかも切り株部分がぽっかりと大きな穴が空いている。ワンダラー号の全長を軽く上回るほどの大穴が。
「ああ、たぶん、ここで間違いないだろうな。世界樹だぜ」
リーレがここではないどこかを見ている時のような声を発した。
アーリィーも身を乗り出すように、それを見やる。
「世界樹……」
「エルフの里のを含めて四本目か」
「折れてるみたいだけですけどね」
橿原が言うと、ベルさんがすかさず突っ込む。
「折れた先はどこだ?」
それはともかく、これはチャンスかもしれない。俺はリーレのシートに手をかけた。
「世界樹の穴、降りられそうか? これまでのパターンだと、世界樹の根元は、例の謎構造物に突っ込んでいるが」
「あ、中に入れるかもってことだな! よしきた」
リーレは操縦桿を動かして、ワンダラー号を世界樹だったものの上へと向かわせる。
「トモミ、下方のカメラ」
機長であるリーレの指示に副操縦席の橿原が、船体下部の機外カメラを操作する。浮遊石搭載の機体は、垂直に着陸するから、コクピットからは見にくい部分もカバーできるカメラは重宝するのだ。
「大丈夫、空洞になってる。そのまま降りられそうです」
「ようし……ジン、降りてもいいよな?」
「任せる、機長」
そのために来ているのだ。駄目なはずがない。夜間着陸用の照明を点灯。日が届かない穴は、暗闇に包まれ、底知れぬ空洞を形成している。
「……気をつけて、地面が近づいている」
橿原の注意に、リーレは降下速度を落とした。案外、深くなかった。
「降りられそうか、トモミ?」
「うん、左手にプラットフォームかな、水平の台がある。そこなら大丈夫だと思う」
「プラットフォーム? おいおい、世界樹の下に、何で着陸パッドがあるんだよ?」
「私が知るわけないじゃないですか」
口を尖らせる眼鏡っ娘。アーリィーが口を開いた。
「例の構造体は、古代魔法文明が関わっているかもしれないからね。何があってもおかしくないよ」
「あー、そういや、あの解析不能の構造体の中、町かも知れないって話してたな。……おーい、サイファー、スキャンだ。スキャンしろ」
リーレが操縦席から振り返って声を張り上げた。サイファー? はて、ワンダラー号のシェイプシフタークルーに、そんな名前の者はいなかったはずだが。
「サイファーは今、待機モード中ですよ」
橿原がたしなめるように言った。リーレは頷いた。
「そうだった。魔力消費で動けなくなるって、電源切ってた。じゃあ、ブラオも駄目だな」
「サイファーって、ひょっとしてボール型コア?」
思い当たった俺が聞くと、橿原が「ええ」と答えた。このあいだ作った精密スキャン用の下位ダンジョンコアだ。サイファーって名付けたのか。
「ジンさんも、ディーシーちゃんを連れてきてないですよね?」
「ああ、ふだんから息を吸うように魔力を取り込むダンジョンコアだからね。こんな環境じゃ、時間と共に弱体化するだけだからさ」
「せっかくの機会なのに、全体スキャンができないのは不便だね」
アーリィーの言葉に、俺もまったく同感だ。
ワンダラー号はプラットフォームとおぼしき、水平の部分に着陸する。結構広くて、隣にスパロー小型艇が降りてもまだ余裕があった。
「さてさて、もう例の構造体の中だぞ」
俺は一同の顔を見回した。
「用心しろよ。何があるかわからないからな」
さっそく上陸のために、後部ハッチへと移動する俺たち。俺はアーリィーに声をかける。
「体調はどうだ?」
「うん、いつもと同じ。魔力なし空間だけど、特に変化はないよ」
「そいつはよかった。異常を感じたら早く言ってくれよ」
「心配どうも」
軽口を叩くようにアーリィーは、ニコリと返した。うん、俺も時々自分が心配性だと思う時があるよ。
「は、いつもだろ?」
ベルさんにからかわれた。橿原がリーレに呼びかけた。
「
二体のバトルゴーレムにしてパワードスーツ。ゴーレムコアによる制御で無人で動く。これまた魔力を動力にしているので、動かせば魔力を消費するが――
「どうする、ジン?」
「何があるかわからんからな。魔力棒の予備をシェイプシフターたちに携帯させれば、その都度補給できるし、連れていってもいいんじゃないか?」
「だ、そうだ」
「はーい」
橿原が、青と紅のバトルゴーレムの電源を入れて起動状態にした。
俺たちは、ワンダラー号から降りる。スパロー小型艇からも、リアナらソニックセイバーズの隊員やシェイプシフター兵らが降りている。
「魔法銃を持っている者は、予備の魔力パックを多めに携帯すること」
各自、魔力電灯を持って、周囲を照らす。これらは電池型魔力パックで動いている。
「生き物の匂いがしねえな」
リーレが呟く。ベルさんも同意した。
「死んだように静まり返るってのは、こういうのを言うんだろうな」
広大な空間だ。闇の中、細部は見えないがビルのような構造物が無数に存在しているようだった。
しかしそれらに明かりはなく、また動くものもない。
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