第871話、軍事同盟と、新型機と


 ヴェリラルド王国とリヴィエル王国王国派の間で同盟が成立した。


 大帝国派との戦いで、すぐにでも機械兵器の増援が欲しいリヴィエル王国派と、北と東西に敵を抱え、その包囲網の一角の防壁が欲しいヴェリラルド王国の思惑が一致した結果の早期締結だった。


 これにより、ウィリディスの工廠は、リヴィエル王国派のための廉価兵器の生産、供給という仕事が追加された。ヴェリラルド王国も派遣軍をリヴィエル王国東部に送ることになった。


 だがこれでリヴィエル王国の王国派が存在する限り、東西同時挟撃の可能性はほぼなくなった。大帝国西方方面軍、シェード将軍の思惑である複数方面からの同時侵攻は、未然に防がれる格好になったわけだ。


 進めてよかった軍事同盟。リヴィエルを見捨てなくてよかったね。


 さて、そうなると、シェード将軍が次にとる戦略はどうなるか。

 リヴィエル王国派を早期に排除し、包囲網を完成させるか。はたまた三方向同時侵攻を諦め、北と東の二方向からの同時侵攻で妥協するか。あるいは本国から増援を待ち、それまで睨み合いに徹するか。


 このあたりはSS諜報部からの情報収集に任せよう。帝国本国の、影のルートと違って、西方方面軍の動きは掴みやすい。


 俺は、キャスリング基地の地下工廠で、移動ポータル艦構想の基幹である改ヴァンガード級機動揚陸巡洋艦と、それに付属する艦載機の準備にかかっていた。


 異空間収納により、見た目は長さが短くなったプラズマカノン砲塔――これは、俺とベルさんしか今のところできない。異空間の中はきちんと砲塔が存在しているため、中に入って作業などは他の人間やシェイプシフターでもできるけど。

 短くした砲塔を、機動揚陸巡洋艦の艦体に搭載し、回線の接続などの工事が行われる。まあ、そのあたりは工廠に任せて、艦載機のほうに俺は回る。


 ガエアやノークに話していた可変型魔人機。その実用化を推し進める。


「戦闘機形態と、人型形態」


 エルフの技師ガエアは、机の上に広げた図面を指し示した。


「中のフレームは、ソードマンをベースにしながら、各部関節の可動範囲を拡張した別物になります。とくに戦闘機形態で不要な腕部や脚部は、変形も含めて新規のパーツです」


 戦闘機形態の図を見ると、きちんと戦闘機らしい形をしている。これは構想時のモデルとして俺が適当に描いたロボットアニメのメカのせいでもあるが。一見すると、戦闘機らしい機首にやや大型の胴体、後部のエンジンが四つあるようである。


「そしてこちらが、人型形態」


 ガエアの資料その二。ソードマンタイプの頭部、細身の胴体に角張りながらも小さめの肩、これまた細めの脚部。なんとか不要な部分の重量を減らそうとしたデザインだ。……まあ、浮遊石を搭載するつもりなので、このサイズなら重量など大した問題でもないけどね。

 ノークが腕を組んで口をへの字に曲げた。


「のう、ガエアよ。どうせ浮遊石を乗せるんだ。翼はいらんのと違うか?」


 俺と同じく浮遊石のことをドワーフ技師は考えていた。

 確かに浮遊石があれば、どんな形でも空に浮かべられるし、そこでエンジンの噴射が加われば高速で飛行できる。


 かつて行った浮遊石試験では、戦闘機だろうがトラックだろうが、エンジンが同じものならほぼ同速度で飛ばせることがわかっている。


 浮遊石のせいで揚力関係が、元の世界と作用が違うので、形については大した問題ではない、というのは実は後からわかった話だったりする。……だから魚の骨のようなイール艦上攻撃機など、翼がない機体も登場していたりする。


「いや、翼は必要よ。ないとダサいもの」

「また、お前は格好がどうとか……武器は使いやすさこそ優先すべきで、見た目なんぞどうでもよかろう」

「どうでもよくはないわよ! 見た目はとても大事よ。どんないい武器だって、かっこ悪ければ誰も手に取らないでしょうが」

「ふん、見た目で判断して真の武器をとらぬとは、それはただのボンクラよ。真の使い手は形を選ばん!」

「はん、ボンクラはあんたのほうじゃないのさ、ドワーフ。真の達人のほうが、色々注文が多いものよ。当然、見た目も大事になる」


 エルフとドワーフが言い争いを始める。方向性の違いだよなぁ。


 兵器として見るなら、ノークの言うとおり、形より実を取るべきだが、ガエアの言うことにも一理あった。見栄えは持ち主の士気を上げたり、敵に畏怖を植えつけたりできるから無視もできない。


 これは、防具や服を手がけるのが主なガエアと、武器を中心に作るのが主なノークの、自らの哲学も絡んでくる問題だろう。つまり、どちらも経験した上で辿り着いた境地ゆえ、間違っていないということだ。


 ということで、俺は話を逸らすことにした。


「ガエア、戦闘機形態と魔人機形態で、翼の大きさが違うようだが」

「はい、翼と、あと戦闘機時の機首ですが、魔力形成としましたので、必要な時だけ大きくなります」

「魔力形成、というと――」

「先日、侯爵様が、遺跡探索サポート用メカで採用した、必要な時に魔力で部位を具現化させる機能ですね」


 あー、あれか。ボール型ゴーレムに必要な時に胴体と手足を具現化させて、戦闘や作業ができるようにするというやつ。


 例えるなら、ストーンウォールの魔法で岩壁を作るのを、腕や足として形成するようなもので、今回は、翼とか機首を魔力で具現化させる。

 これのメリットは、不必要な時は具現化をカットすることで、その分の重量を軽くすることができることだ。浮遊石で浮く分にはあまり関係ないが、地上を走ったり、運動する時は自重で影響が出るからね。


「なんだ。結局、翼は飾りじゃないか」


 ノークは口をへの字に曲げた。


「だが、その飾りが機体の邪魔にならないのがわかったので、よしとしてやる」

「随分と上から目線ね。……もっと褒めてもいいのよ?」

「ふん」


 ノークはそっぽを向いた。矛を収めたのは、彼が飾りだと思っている翼などが、機体性能にほとんど影響しないことがわかったからだろう。性能ダウンは認めないが、変わらないなら気にしないということだろう。つまり彼も、可能なら見栄えはよくした方がいいとわかっているのだ。


「しかし、翼や機首が魔力形成というのはいいな。被弾しても魔力製だから、魔力を通せばすぐ直せる」


 浮遊石のせいで、あまり揚力を気にすることもないんだけど、格好はつくよな。


 その後も俺たちは、可変機の細部を詰める。魔力生成により、まずは試験機を製作。不都合がないか確認するためだが、その待ち時間に、ノークに依頼していた重砲撃用ASの設計案を検討する。


 ずばり、艦艇用プラズマカノンを魔人機用に作り直し、それを装備するというやつだ。重装甲対象の破壊、艦砲を担いだ移動砲台――まあ、コンセプトとしてはそうだ。艦艇が侵入できない環境化で使用することも考えている。


 依頼していた、と言ったが、原点はノークと色々武器の話をしていた際の発言である。艦艇用プラズマカノンをロケットランチャーみたく担げたら、地下の城塞の門もぶち破れるのに、という彼の言葉に、やってみるかとなって今日に至る。

 魔人機の全高に匹敵する巨大な砲を担いだその姿に、初見のガエアは「重そう」と評した。


「これ、撃ったらひっくり返っちゃうんじゃない?」

「機体の足回りと関節の強化は必要じゃわい」


 ノークは、魔人機の図面――従来のAS-01ドードマンとは違う新規フレームを見せた。ベース機より、やや骨太な印象を与える。


「一応、砲のほうに、魔力による補助装置を付けようかとも思ったのですが、機体の稼働時間が短くなりますんで、もうフレームから専用にしたほうがいいかな、と」

「うん、いいんじゃないかな」


 俺は頷いた。この骨太フレームは、今後、重量級装備を装着するタイプの基本形に使えそうだし。可変機のほうでも新規フレームを作るわけで、いい機会だ。問題なさそうなので、これも砲ともども試作機作って実験しよう。


 これらがのちの、可変機、AS/F-02ドラグーンと、重砲撃機、AS-03ベヒモスとなる機体だった。

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