第866話、機械と魔法の融合
魔力生成が可能な工廠設備の拡張。アリエス軍港、カプリコーン軍港、キャスリング基地、ウィリディス、フルーフ島などの建造施設が強化された。
だがこれにより、消費する魔力も増大する。俺の報告に、ベルさんは眉をひそめたが、心配は無用だ。
「大陸各所から、魔力溜まりなどから魔力を吸収することで賄っている。帝国も、異星人式の人間から魔力を吸い取る装置よりも、こうした自然の余剰魔力を採ればいいものを……」
「違いない」
魔力溜まりは放置すると魔獣の大発生やダンジョンスタンピードに繋がる。結果、俺たちウィリディス軍が設置した魔力収集装置によって、魔獣災害が未然に防がれていたりする。
まあ、俺たちにはプチ世界樹あるし。
なお、魔力の収集で回収率がいいのは、エルフの里近辺、そして例の遺跡地図によって判明した光点のあった付近もそうだったりする。あ、もちろん、エルフには許可を得てやっている。
「妙な話だな」
ベルさんが首をかしげた。
「例の光点は、魔力スポットの場所だったのか?」
特に魔力が多い場所、それが魔力スポット。エルフの里の地下になんらかの物体があるので、光点はその謎物体――古代魔法文明時代の遺跡とか遺産の可能性を考えていたのだが。
「どうだろうな。光点八カ所のうち、四カ所で同様に魔力収集を行っているが、いまのところ、リーレたち遺跡探査組の進捗はよろしくない」
「ずいぶんと手こずっているんだな」
「手がかりが、謎カードと地図の光点だけじゃあねぇ……」
何か文献でも出てくれば話は別なんだけど。
「ていうか、ベルさんは長生きだろ? 魔法文明を実際に見たことはないのか?」
「あれば、とっくに言ってる。オレ様だって、年齢四桁。魔法文明時代って少なくとも今より五桁くらい前だろう? そもそも、こっちの世界にゃあまり興味なかったし」
ベルさんがウン千歳だったなんて初めて知った! さすが偉大なる大悪魔にして大魔王様。
「他には、トキトモ領にあるアンノウン・リージョンもまた魔力をよく吐き出している」
「あの謎の黒霧の森な」
ケーキを食べ終わり、ナプキンで口元を拭うベルさん。
「結局はあれは何なんだ?」
「わからない。調査に出したSS部隊は帰ってこなかったし、連絡も途絶えている。わかっているのは、あそこは時々、モンスタースタンピードを起こしていて、かつてこの領を治めていたサキリスの一族は、それらと戦っていたってことくらいか」
なお、地元民であるサキリスによれば、俺が領を収めて以来、アンノウン・リージョンからのスタンピード現象は確認されていない。魔力収集装置が、それら魔獣災害を防いでいる……と思う。
「しばらくは監視に留める。今はやることがいっぱいだからね」
「そうだな」
紅茶を飲み干したベルさんは席を立った。
「さて、他に何か用はあるか? ないなら、エマンの顔を見た後、休むが」
「キャスリング基地に行ってくる。まあ、ベルさんは休んでいていいよ。特にトラブルはない」
「了解だ。それじゃ」
ベルさんが手を振りながら立ち去る。白亜屋敷へと行くのだろう。俺もおかわりの紅茶を胃におさめた後、キャスリング基地へとポータルで移動した。
・ ・ ・
「新型の揚陸巡洋艦、ですか」
ディアマンテ・コア――銀髪の女軍人姿の彼女は、俺に顔を向けた。
「『ヴァンガード』があるな。万能艦の」
「はい、テラ・フィデリティア時代に試作・建造されていたとされる艦艇です。……もっとも私もよく知らないのですが」
全長は200メートルちょうど。航空機や魔人機、戦車などを運用できる強襲揚陸艦の能力と、巡洋艦並みの火力である8インチ連装プラズマカノンを装備した万能巡洋艦、それがヴァンガードである。海中も宇宙空間もいけると聞いている。
「あれを、ベースにした艦載機運用能力のある巡洋艦を作ろうと思う」
「
「そうだ。いまアリエス軍港はそっちで手一杯だからね。だからキャスリング基地のドックで作ろうってわけ」
俺は用意していた図をデータパッドに表示させて、ディアマンテに見せた。拝見いたします、と目を通した彼女は、わずかに眉をひそめた。
「これは888フリート・プランのインドミダブル級揚陸艦ですか?」
「そう。そのインドミダブル級をさらに改造したものがこれ」
ヴァンガードを簡素化したスタイルのインドミダブル級強襲揚陸艦の図に、六基の砲塔など武装が追加される。
「……かなりの強武装ですね。しかしこれでは、艦載機運用のスペースがなくなりますが」
砲塔というのは、高さにすると結構あるので、艦体に搭載すると、それなりにスペースが必要になる。俺が追加した砲塔は、インドミダブル級の艦載機のスペースを潰してしまったように見える。
「そう、あれもこれも欲張ると、どこかにしわ寄せがくるからね。確かにこれでは、素人が考えた『とりあえず開いたスペースに砲を乗っけてみました』状態だ。だがそこに『魔法』というカラクリを加えることで、スペースの問題は解決できる」
「と、言いますと?」
魔法に関しては素人のディアマンテが問うた。俺はストレージから、とある物を取り出してみせた。
刃物である。しかし、その刀の中ほどに天使の輪のような形の発光体が渦巻いているように見える。
「これ、何に見える?」
「……ダガーでしょうか? しかし――」
ディアマンテが首をかしげた。
「この、刀身の回りの魔力のリングのようなものは何でしょうか?」
「いいところに目をつけた。この魔力のリングは、異空間収納の輪だ。実はこれ、ダガーじゃないんだ。刃の長さは見えている部分の三倍はある。ショートソードだ」
「魔法によって、短く見えている、と?」
「いや、実際、外に出ている部分は短い。目の錯覚ではなく、異空間に刃は存在していて、中にある部分の分だけ、外に出ている剣の長さが短くなっている」
「そこにあるのに、そこにはない……。トンチでしょうか?」
わかったようなわからないような複雑な反応をするディアマンテである。俺は思わず笑みを浮かべた。
「これが魔法だ。この魔法を、軍艦に応用してやれば……先のインドミダブル級の改造案はどうなる?」
「砲塔などを異空間収納で短くすれば、確かに艦載機のスペースを圧迫しません。異空間収納の中に砲塔は存在しているのですから、機能もそのまま使える……」
ぼくの考えた最強の軍艦が、絵空事ではなくなる、ということだな。……まあ、物事には限度ってものがあるから、いくら魔法でも無茶をやればたちまち机上の空論に終わる。
「しかし、さすがは魔術師ですね。軍艦に魔法を導入するとは」
ディアマンテが感心するが、俺はヒラヒラと手を振ってみせた。
「砲塔以外にも弾薬庫とか倉庫とかも異空間収納にいれて、見た目より運べるようにする。武装以外にも、色々使えるところには魔法技術を投入だ。まあ、これはおまけで、この揚陸巡洋艦案の狙いは別にある」
「それは――?」
「移動ポータル艦構想。大ポータルなり携帯式ポータルなりを、色々設置して回ったり運ばせたけど、新しい場所に行った時に、俺が不在でも、その場ですぐにポータル移動が可能なようにできたら便利だろうと思ってね」
たとえば、ただ一隻の揚陸巡洋艦から、数百の戦闘機や戦車が出てきたら、どう思う?
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