第851話、休憩時の再会
ウーラムゴリサ王国は、シーパング国の申し出を受ける方向で話を進める、と、クレマユー大侯爵は俺に言った。
彼の口から王に進言すれば、ほぼ間違いなく、シーパング国と同盟を結ぶことになるだろう。
そうなれば連合各国もその動きに同調すると思われる。ウーラムゴリサは、連合国内部での影響力が強い。
また、大帝国の機械兵器と同等以上の兵器さえあれば、と思っている国々からすれば、これは千載一遇と言える。何せ、ファントム・アンガーが各地で大帝国を相手に、その力を存分に発揮しているのを目の当たりにしているからだ。すでに実績と能力について宣伝済みである。
「大帝国が連合だけでなく、大陸西方諸国とも戦っているのはご存じかな? そちらでも我がシーパングの兵器を使って、大帝国を撃退しておる」
暗にすでにシーパング製兵器を投入している国があることを知らせておく。念押しではあるが、同時にヴェリラルド王国が同じ兵器を使っていることのアリバイ作りでもある。
シーパングの大公が、西方諸国にも兵器を売っていると公式の場で発言したわけだから。
俺は、シーパングが提供できる兵器のリストを大侯爵以下、出席した貴族らに配布した。
連合国向けの空中重巡洋艦、航空巡洋艦、護衛艦のほか、ドラケンⅡやストームダガーなどの航空機、A-1戦車、装甲車、簡易魔人機であるファイター等々。こちらに渡す兵器は、すべて廉価兵器製造計画産のものとなる。
クレマユーらウーラムゴリサの貴族たちは驚いていた。そしてこれらが自軍に加わることに歓喜している。
初期投資は無償。弾薬や補修部品、新規購入は有償。そして兵器供給国には、兵器の整備施設、人員の訓練場の設営、その指導にシーパング軍の派遣部隊が当たる。その際の費用については現地の国が出す――などと細かい調整と打ち合わせが行われた。
そして肝心なのは、今度こそ大帝国にトドメを差し、勝利すること。その目的に沿って行動する限り、シーパング国は連合国を見捨てないと強調した。
会談は長引き、一時休憩を挟む。クレマユー大侯爵は俺たちを歓迎し、豪華な客室を用意した。……ま、架空とはいえ、王族だと俺は名乗ったからね。VIP待遇しないと、せっかくの軍事同盟の関係に悪影響が出る、と考えても不思議ではない。
さて、休憩しつつ、今後の会談の進め方について俺とベルさんが話していると、来客があった。
ブリアール城の城主であるクレマユー大侯爵の娘、エリザベートが訪ねてきたのだ。
・ ・ ・
「クロワドゥ大公閣下」
挨拶のハグ、と思いきやがっちり抱き締められた。
「お久しぶりです、ジン様」
「あ、やっぱりバレた?」
クロワドゥに化けていた俺は、エリーに来ることも言わなかったし、当然変装していることも言っていなかったのだが、彼女はしっかり俺を識別した。
ちゃんと護衛を引き払った上での
「久しぶりだな、エリー嬢ちゃん」
「……ベルさん?」
ベルさんがエリーに挨拶した。ただ以前とはまるで別人の姿だから、一瞬、エリーもわからなかったようだ。てっきり顔を合わせていたかと思ったが、そんなこともなかったらしい。……ベルさんの匂いには反応しないんだな。
旧交を温める二人の会話。ベルさんがとっていたらしいウィリディス製プリンを取り出すと、エリーは目を輝かせた。
「まあ! ジン様の作った至高のデザート!」
連合国にいた頃、彼女のコネで材料を集めて振る舞った。あの時のとても喜んでいた顔が再び、俺の目の前にあって何だかしんみりきてしまった。
優雅なお茶会と洒落こみつつ、エリーは俺に報告した。
「ジン様の暗殺を計画したのは、連合国、各国の外交や軍事に携わる有力者たちのようです」
うん、それは知っている。だがそれは言わず、頷いて先を促す。
「父の書斎に忍び込んで、関係者の手紙などがないか調べたのですが……残念ながら証拠となるものはまだ」
「まあ、連合を揺るがす大問題だ」
ベルさんは紅茶のカップを揺らしながら目を細めた。
「持っていて危ないものは、処分しているだろうな」
「そうなると、次はどこを調べればいいでしょうか……?」
「聞き込みなんてどうだ?」
ベルさんが提案する。
「人間、大勢いれば考え方も違う。オレたちが大帝国の本国へ攻め入った時だって、連合国の間じゃ、色々あっただろう?」
「そういえば、そうですね……」
顔を上げるエリー。俺も振り返ってみる。大帝国に一度は占領されたプロヴィア、クーカペンテを奪回した後、連合国は帝国本国へ、遠征軍を派遣した。
俺たちが前線に立って大暴れして快進撃を続ける一方、大軍を移動させる兵站や、戦いにおける被害の大小。連合国内での派閥争いなどなど、各国間で様々な思惑が交錯した。
最前線にいた頃は、それら後方の政治は雑音とばかりに俺は関心を持たないようにしていたのだが、もう少し注意を払っておいたら……と、連合から離脱した直後は後悔したものだった。
「連合国の高官たちが、当時、どういう考えを持っていたのか、聞き込みをするというのも悪くないと思うぜ?」
「なるほど! ベルさん、さすがです」
エリーは手を叩いた。いやいや、とシーパング軍人に扮する相棒は首を振った。
「どうだ、ジン? エリーは大侯爵の娘だ。その立場を利用すれば、連合国内なら色々回ることができる」
『彼女が表で動けば、SS諜報部もやりやすくなるんじゃねえか?』
念話で付け加えるベルさん。
確かに、エリーが、表から高官たちにアプローチをかければ、やましいことがある連中は何らかのリアクションをとる可能性が高くなる。それを見張っていれば、物理的な証拠はなくても、思わぬ証言が拾えるかもしれない。
でもそれって、彼女の身が危なくなるんじゃないか? 下手したら本当に命を狙われる事態になりかねないぞ。ちょっと気乗りしないなぁ。
「ベルさん、そしてジン様。ぜひ、私にやらせていただきます!」
……ほら、エリーがすっげぇやる気になっちゃったじゃないか。俺だってずっと彼女の側にいて守ってやることもできないのに。
『アーリィー嬢ちゃんもそうだが、お前さんは心配性過ぎるんだよ』
そりゃ心配にもなるさ。一応、ほら、親密な関係だったわけで、今だって俺を慕ってくれているんだぜ?
本当は危ないことはしてほしくないんだけど。ただ、生きがいとばかりに目を輝かせているエリーを見ていると、とても言えない。そういうのに弱いんだよなぁ俺ってば。
そもそもやりたいようにやるといいって、俺は先日言ったわけで。
俺としても、ジン・アミウール暗殺に関わった人間はすべて把握しておきたい。SS諜報部が探っているとはいえ、エリーが自分で言ったとおり、大侯爵の娘という立場は都合がいいのも事実だ。
……すでに彼女の周りには密かにSS工作員を送っているけど、さらにガードを固める必要があるな。あと、何かあった時の緊急避難先の確保も。
「君を利用するようで心苦しいが――」
「いえ、ジン様。私のことはドンドン利用してください! あなた様の望みを叶えるのが私の生きがいなのですから!」
はい。わかりました。――神よ、彼女の行く末に幸があらんことを。俺はそう祈らずにはいられなかった。
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