第850話、連合・シーパング会談
連合国のクレマユー大侯爵から、会談の用意ができたと知らせが入った。
SS諜報部経由で報告を受けた俺は、ベルさんと大侯爵の居城ブリアール城へ向かった。堂々と、連合国に提供予定の艦隊、六十隻を引き連れて。
「かなり威圧的だね」
例のシーパング軍人の格好のベルさんが皮肉げに言った。今度こそジョン・クロワドゥの扮装をした俺は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「俺は……ゴホン、わしは、クレマユー大侯爵を好かん」
だが会わなければならない。ウーラムゴリサ王国において、王族に次いで権力があり、彼を納得させれば、ほぼ国王も頷くほどの大物である。
ただ、ジン・アミウール時代、晩年ともなるとお互いに避けるようになっていた。
「ところで、オレたちを裏切った連中の目星はついているのか?」
「大侯爵以外に? クーカペンテを除外した八カ国の上級指導者が関与しているようだ」
SS諜報部による調査を俺は命じている。クレマユー大侯爵が関わったのはわかっているが、それ以外については想像の範囲でしかなく、証拠がなかったからだ。
「今のところ、八カ国のうち、テレノシエラはこの件を見なかったことにして、ジン・アミウールの排除に賛成しなかったのがわかっている」
「だが反対もしなかった」
「テレノシエラは連合国の中で、国土が一番小さくて、山岳だらけだから貧しい」
あの国は炎の大竜が暴れて、俺とベルさんがそれを討伐した過去がある。その時の恩義から、暗殺に賛同しなかったのだろう。だが反対を表明できるほど力があるわけでもなく、苦渋の選択だったと思いたい。
「あと、ネーヴォアドリスは、外交と国防担当の公爵が俺の排除に賛同したが、国王自体は事実を知らないらしい。これはプロヴィアも同じだ」
「プロヴィアっていえば、エレクシア姫殿下か」
「女王陛下だよ」
英雄魔術師時代、プロヴィア王国を巡る戦いで、俺は当時、姫だった彼女を助け、王国から大帝国を駆逐した。姫の――すべてを俺に捧げるという約束のもと、彼女の復讐を俺が果たしたわけだ。
「あの後、再侵攻した大帝国によって処刑されたと聞いたが……彼女なら、ジン・アミウールの暗殺と聞かされても断固反対しただろうね」
「そうだな。……だが、それ以外の国は、ジン・アミウールの暗殺に同意したということか」
「派手にやったからね、ジン・アミウールは」
俺は自嘲する。バニシング・レイやそれに匹敵するルプトゥラの杖をバンバン使ったから、歩く超兵器として恐れられたのだろうよ。連合国のために頑張ったんだけどねぇ……。貴族じゃないから切り捨てられたと。
「そんな彼らがいる連合国だが、当面は、大帝国との戦争に付き合ってもらう。あの時、戦争の決着をつけそこなった落とし前はつけてもらわないといけない」
・ ・ ・
ブリアール城の上空で艦隊まで乗り付け、そこから小型艇で直接城に乗り込んだ俺たちシーパング使節団。
連絡係を務めたペソコス子爵と挨拶を交わした後、大会議場へ案内された。クレマユー大侯爵ほか、数人の王国貴族が待っていた。どいつもこいつも偉そうにしている。大侯爵の顔を見て、俺は強い苛立ちを感じた。
「お初にお目にかかる、クレマユー大侯爵殿。わしは、シーパング大公にして、機械兵器の開発者、偉大なるジョン・バニシュ・クロワドゥである!」
俺は尊大に胸を張ってやった。シーパングの超大物。貴族階級でいえば、王の弟にあたる大公である。……お前ら、頭が高いぞ! 平伏せぃ!
寝耳に水だっただろう。大公と聞いて、ウーラムゴリサの貴族たちは慌てて席を立ち、頭を下げた。
「これは、まことに失礼を! シーパング国の王族に連なる方とはつゆ知らず、お迎えもせずまことに申し訳ございません」
うん、言わなかったからね。ジョン・クロワドゥが大公だなんて。架空国家だもの、名乗ったもの勝ちよ。俺はクレマユーに頭を下げる気なんてないからね。
嫌味な先制パンチを食らわせた後、さっそく会談に移る。長々と無駄話をするつもりはないので、さっさと話を進める。
「我々、シーパング国は、ディグラートル大帝国を脅威とみなしておる。彼らが連合を滅ぼし、この大陸を支配すれば、いよいよ海の向こうにある我がシーパングも無事には済むまい」
連合国の人間は、誰ひとりシーパング国がどこにあるのか知らない。架空国家をでっち上げるにしろ、簡単にはわからない嘘をつかねばならない。
「一度は大帝国を追い込んでおきながら仕留めきれなかったのは痛恨の極みである。その後の連合国軍の大崩壊は見るに堪えなかった……」
チクリ、と嫌味を忘れない。これくらい言ってもよかろう。なあ、俺を切り捨てたクレマユー大侯爵よ?
そのクレマユーは口をへの字に曲げて黙っているし、周りの貴族たちも顔を青ざめさせている。……こいつらも、真相を知っているのかもしれんな。
「我が国は大帝国の兵器と同等以上の機械兵器を有する。ファントム・アンガーの活躍は貴殿らも存じておるだろう……。それらの兵器を、我が国が提供しよう」
「それはありがたい申し出!」
クレマユーは恐縮した様子で、貴族たちも安堵したような顔になる。
「しかし……お伺いしてもよろしいでしょうか、クロワドゥ閣下」
「どうぞ」
「ファントム・アンガーの機械兵器の活躍は頼もしく、それと同じ兵器をいただけるのは感謝の極みでありますれば……何故、貴国は連合を支援してくださるのでしょうか?」
「大帝国は共通の敵、それでは納得できぬかな?」
「失礼ながら、我ら連合に手を貸さずとも、シーパング国のみで帝国に対抗できるのではないか、と愚考いたします」
「なるほど」
シーパングだけで帝国と戦わない理由か。
本音は連合に矢面に立ってもらい、英雄の立場にこちらが立たなくて済ますためであるが、むろん言えるはずはない。
「連合は、我らシーパングのことを知らないのだったな。よろしい、貴殿らに肩入れする理由をお教えしよう。こちらは機械兵器はあれど、人がおらんのでな」
「人?」
「然り。我が国は技術は発達したが、実は海洋の小国に過ぎぬ。大帝国の兵力と正面から戦うには圧倒的に人数が足らんのだ」
俺は、ジョン・クロワドゥの顔で不敵な笑みを浮かべた。
「端的に言えば、我らは兵器を売る。貴殿らはその兵器で大帝国と戦う兵士を出す、そういうことだ」
ざわ、と貴族らが顔を見合わせる。クレマユーは静かに頷いた。
「なるほど、理解しました。つまり、貴国にとっては連合国が必要と言うことですな」
「少し違う。大帝国と戦う同志を必要としている。故に我らは、ファントム・アンガーや大帝国の反乱者たちに武器を供給している。帝国と戦う意志のないものに兵器は売らない」
そこが重要な点だ。ただ兵器だけもらって自国の防衛に走る輩などいらない。特にお前たち連合には、一年前の尻拭いをしてもらわねばならない。
「連合国にはぜひ、やり残したことを完遂してもらいたい。もしそれができないというのであれば、連合は滅び、遺憾ながら、我がシーパングの技術は帝国のものとなってしまうだろう」
クレマユーの顔が引きつっている。見れば貴族らもどこか怯えた表情になっている。
はて、俺はそんなに怖い顔をしていたかな?
『ああ、お前さん、壮絶な表情をしていたぜ』
俺のすぐ脇に控えているベルさんが、念話でそう言った。抑えているつもりでも、感情が表に出てしまったようだ。
それだけ、切り捨てられたことへの怒りが実は燻っていた、ということだろう。
「では、こちらの要望に応えてくれるのならば、城の外で浮いている艦艇。航空機、人型歩行兵器、それらを連合国に進呈しよう」
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