第849話、難航する遺跡調査
連合国との交渉準備、大帝国のエツィオーグたちの拠点攻略の計画を練ったり、ウィリディス軍の強化計画を実行したり、ヴェリラルド王国東西の情勢を見たり、と多忙なトキトモ侯爵こと、俺。
そして俺の下で働いている人たちもまた、頑張ってくれていた。
トキトモ領ノイ・アーベントでは、パルツィ氏が都市運営と商業をこなしてくれている。冒険者ギルドではヴォード氏とラスィアが、クレニエール東領の開拓と魔獣討伐を順調に進めている。
様々な種族が住むリバティ村では、ユナが集落拡張で活躍。なお魔法が使える他種族からその魔法を研究したりと、相変わらず趣味に走っているところもある。
そして、古代文明研究で、リーレと
キャスリング基地。広大なる地下拠点、その一室で、俺はリーレと橿原に会っていた。
「正直、調査には色々必要だ」
リーレが発言した。
「とりあえず、もっと移動を便利にするためにポータルリングを欲しい」
「あまりのべつ幕なしに置くなよ。得体の知れない化け物がポータルを通ってきても困る」
「それはわかってるよ、ジン」
眼帯の女戦士は、馬鹿にするなとばかりに首を振った。俺は、彼女たちに同行するスクワイアゴーレムのブラオを見た。
「今、君らが行ったのは、北方の大陸と、大陸南方の砂漠の都市だっけ」
「北方の大陸は北極みたいなものですね」
お淑やかな眼鏡っ子女子高生の橿原が、苦笑する。
「とても寒かったです」
「防寒着が必要か。あと、ヒーターの魔法薬とか」
「砂漠の都市は、まんま廃墟。一応、探してみたんだが今のところわかんね」
リーレは腕を組んで難しい顔をした。
「建設コアを持って行くか、それかディーシーで、あたりを魔力スキャンしてくれよ。たぶん地下だと思うんだ」
「北の大陸でも、大規模な魔力スキャンが必要です。目印もありませんし」
橿原は肩をすくめた。ただ――とリーレが言った。
「何かあるのは間違いないんだ。ゲルリャ遺跡で回収した板あるだろう? カードみたいなやつ。あれがある程度近くに行くと光るんだよ」
「へぇ。カードが光るのか」
俺は首をかしげる。
「それでも、入り口はわからない、か……」
「かなり広い範囲で反応するし、光の強さはずっと変わらねえから、入り口に近づいているのかどうかもわからねえ」
広い範囲……。
「それって、エルフの里の時、同様、地下に例の魔法金属製の巨大な『何か』があるってことか」
「だと思う。それも含めて、大規模スキャンがしたい」
「オーケー、わかった。必要なものは手配しよう」
ポータルリングに、魔力スキャンのできる装置ね。
ポータルを作れるのが現状、俺だけだし、ちまちま作ってはいるが、割とすぐストックがなくなる印象だ。使っているのがウィリディス軍のみに限定しているが、それでもこれである。
あと魔力スキャンだが、建築用コアでもできるが、あれはあくまで建築のための下準備の機能でついているだけである。だから専門コアを用意するのがいいだろう。サフィロやグラナデほどではないにしろ、色々できたほうがいいから上位クラスのコピーコアだな。
「ポータルリングはすぐに用意できる。探索に使うコアについては、ちょっと待ってくれ。建築用コアでは、エルフの里の時のディーシーのように二度手間になるかもしれないから、専用のものを作る」
「わかった。任せる、ジン」
リーレは了承すると、橿原に視線を向けた。
「その間に、アタシらは他の場所を探すか? 入り口は見つけられないにしろ、だいたい何があるかわかれば装備とか準備できるし」
「もしかしたら、まぐれ当たりでも入り口とかあるかもしれませんしね」
「大帝国が動いているから、くれぐれも気をつけてくれ」
俺は注意を促した。専用の護衛戦力として、軽空母に強襲揚陸艦、ゴーレム・エスコートⅣ型を待機させているが、敵と遭遇しないにこしたことはないのだから。
「ま、そればっかりは大帝国の連中のやることだからな」
と、リーレはもっともなことを言った。
・ ・ ・
さて、リーレと橿原ら探索組のために、上級コピーコアを用意する。ダンジョンコアほどではないが、ダンジョンスキャンやテリトリー化、物質生成をこなせる。それだけで遺跡の発見や調査にかなり役に立つはずだ。
言ってみれば、DCロッドを準備するようなものだからな。
どうせなら、人工コアと同様、一定の思考能力を持たせて、ゴーレムのように彼女たちをサポートさせよう。……どんな形がいいだろうか?
全高一メートルと少しのスクワイアゴーレムの新型を作るか? 狭い場所への移動を考えて、小型のネズミとか猫型、あるいは浮遊ボールみたいなのもいいかもしれない。
……うん、ボール型にしよう。
手足がないほうがすぐに作れるし、そもそもダンジョンコアや人工コアに手足なんてないから。……擬人化したディーシーなどは除く。
キャスリング基地の工作室で、さっそく作業を開始。用意するのは上位型コピーコア。これに人工コアのワンランク下のスペックデータをインプット。魔力スキャンやテリトリー化、魔力生成可能、ゴーレムとしての自律行動ができるようにする。
このコアにカバーとなる球形のボディを用意。移動の際の浮遊装置を底面に装備。視覚を含めた各種センサーや索敵、通信などは特に外付けしなくても、コア自体の能力であるものなので、そのままでよし。……メッチャお手軽に作れた。
せっかくなので、腕などが必要になった場合、魔力生成で具現化、解除できるようにインプットしておく。マルカスに送った光剣、あれの実体剣を形成するやつと同じだな。
ふむ、せっかくだし、手だけでなく身体や手足全部を必要に応じて、魔力生成できるようにしておこう。ふだんは小さな球形ボディで移動。力作業が必要ならゴーレムボディを形成させる、というふうに。……ふふふふ。
「侯爵様ー」
工作室で俺を呼ぶ女性の声。ここで働いているエルフ技師のガエアだ。おう、何か久しぶりに会った気がするな。
「こちらで工作とは珍しいですね」
何をやってるんですか、と聞かれたのでボール型の監視のゴーレムだと説明した。こいつの機能を説明したら「凄い!」と興味津々のご様子だった。
「まだまだお話を聞きたいのですが、まずはご報告です。バトルゴーレムの
「お、できたか!」
俺は思わず顔がほころんだ。ウィリディスができる前、本格的な戦闘ゴーレムとして作った青藍、そして深紅。その後、いくつか改造を加えたが、アリエス浮遊島の初探索の時に、帝国の魔法兵器スカーによって破壊されていたのだ。
その後、慌ただしくて俺自身、中々手が出せなかったのだが、ヴィジランティタイプ――パワードスーツとバトルゴーレムの兼用への改造案をまとめて、ガエアに暇な時にやっておいてくれと頼んだのだ。
「マッドハンターの『バーバリアン』ばりにチューンしましたから、青藍と深紅はパワードスーツとしてもウィリディス最強に仕上がったと自負しております!」
喜々として報告するガエアである。彼女にとって相当な自信作になったようだ。
「よくやった!」
さっそくだし、新型青藍と深紅を、リーレと橿原コンビに使ってもらおう。古代文明時代の遺跡探索には何があるかわからないし、PSとしてもゴーレムとしてもどちらでも使える機体だから無駄にはならないだろう。
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