第848話、午後の休養
ウィリディス――俺が国王から最初に賜った土地。俺とアーリィーの地下屋敷があり、王族の別荘になっている白亜屋敷がある。
そのサロンに俺はいた。外は晴れていて、差し込む光で室内は明るい。マッサージ用のベッドに寝転び、メイド衣装のサキリスが背中をマッサージしてくれている。
俺は上半身裸。なお、隣のマッサージベッドにはアーリィーがいて、部屋の反対側には、ジャルジーと、その未来の妻であるエクリーンさんが同じくマッサージを受けていた。シェイプシフターメイドたちのマッサージスキルは高い。
「……エツィオーグか」
ジャルジーは突っ伏した格好で言った。
「大帝国の連中はろくなことを考えんな。人間の身体を改造するなど……。神が与えたもうた身体は、自ら鍛えてこそ価値があるというのに」
公爵殿はガチガチの武闘派。自ら剣の腕を鍛え、俺が作ったパワードスーツや魔人機を乗りこなして前線に出てくるような男だ。
後方で陣を構え、戦況を見守るタイプもいるが、通信技術が未発達なこの世界では、剣を携え、果敢に戦場に立つタイプも珍しくはない。
「大帝国は、底が知れませんわね」
エクリーンさんが口を開いた。マッサージを受けているので上半身は裸。その胸はベッドで押しつぶされているが、中々のものをお持ちで……。何気に彼女の肌を見たのは俺は初めてだ。
「ジンさんも大概ですけど、大帝国は色々な兵器を使っている……。それも得体の知れない化け物とかも。ゾッとしますわ」
「底が知れないのは同意」
俺は頷いた。……あー、サキリス、そこ気持ちいい。彼女の手が俺の背中のツボをつく。
「現状の戦力でも充分だと思えない。連中がアンバル級を引っ張り出しきたのもそうだが、古代文明時代の遺産をまだまだ保有していると思う」
「それな」
ジャルジーの声は震えていた。突っ伏して上にSSメイドの強刺激を受けている。
「大陸東にその戦力が向いているからいいものの、こちらに集中されていたら、この国は今頃戦火に覆われていただろう」
「幸いなことに、まだ民に犠牲が出てないもんね」
アーリィーがベッドに横たわったまま、こちらに視線を向けてくる。……横乳。
「でも、ジンが用意してくれた戦力も、損害が目立ってきたよね」
「連合国戦線で空母一隻、大帝国本国で二隻やられた」
シャドウ・フリートは壊滅したもんな。今はアリエス軍港で、新規のシャドウ・フリート艦艇の建造が行われている。連合国提供艦艇の準備が終わった後でよかった。そうでなかったら再建にもっと時間がかかっていた。
「それな」
ジャルジーが顔を上げた。
「今でも凄まじいスピードで兵器が増産されている。……ふつうじゃ考えられない速度でだ」
「古代文明時代の技術、恐るべしですわね」
エクリーンさんの言葉に、ジャルジーは視線を向けた。
「まったくだ。大帝国の物量に対抗できてしまう。それも兄貴がいてこそだ。損害を受けてもすぐにその穴が埋まる」
「これもまたあり得ない速度ですわよね。ズィーゲン平原会戦で損害を受けたケーニゲン領の戦力なんて、まだ回復していませんからね」
「騎兵に、この間は、戦車と戦闘機の乗員を失った。訓練はしているが、兄貴のところの兵が来てくれなければ前線は穴だらけになっていた」
「古代文明時代の技術だよ」
ゴーレム制御の艦艇とかな。無人兵器は人不足が加速するほど増える。アンバンサーと戦っていたテラ・フィデリティアもそうだった。という感じでシェイプシフター兵への言及は避ける方向で。
「で、これからだ」
ジャルジーはSSメイドを下がらせ、マッサージベッドから起き上がった。厚い胸板。長身ではあるが、そこまでマッチョな風には見えない公爵殿だが、脱げば中々のものがある。まさしく男、である。
「連合国戦線が落ち着き、反攻の準備が整いつつあると聞いている。兄貴は、ウィリディス軍の戦力増強を計画しているんだろう?」
「隣国が騒がしいからね」
俺はベッドの上のタオルに顔を埋めた。
「リヴィエルは大帝国が勝ちそうだし、ノベルシオンはまもなく、こちらへの攻勢準備が整う。東西からの挟み撃ち。幸い、大帝国の西方方面軍の増強が遅々として進んでいないから、隣国戦力をあてにせざるを得ないようだけど」
敵西方方面軍の増強が進んでいない理由は、大陸東に戦力を送り込んでいたからだ。だがその東方方面軍も、いまやその戦力の多くを失っている。
「ウィリディス軍で防げる、と?」
「大帝国が魔器とか、古代文明時代の兵器を使わない限りは、鎧袖一触だよ」
問題は、そういう要注意兵器を戦線に投入してきた場合だ。
「普通に考えたら」
アーリィーが両手を枕に頬をつく。
「そういう兵器、使ってくるだろうね。ヴェリラルド王国攻略のために彼らは大きな損害を出しているから」
「魔器は恐ろしい」
ジャルジーは腕を組んだ。
「あれで新型の戦闘機部隊が一瞬で全滅してしまったからな……」
ついでにケーニゲンの騎兵大隊も、魔器にやられたんじゃなかったか。
「そこで、この国の防衛計画だ」
俺は、大帝国の古代文明兵器の投入に対抗して、テラ・フィデリティア技術を使った艦隊整備計画を発動させた。
仮計画名『八八八艦隊プラン』
ティアマンテ級に匹敵する戦艦を含めた八隻と、量産性を重視した高速戦艦八隻、大型空母八隻を主力とし、空中船駆逐艦による二個戦隊=十六隻×二と、Ⅲ型ゴーレム・エスコートによる一個防空戦隊を用意する大計画である。
すでにあるディアマンテやアウローラ改などがあるので、その分は作らなくていいのだが、それを除いても七十隻以上の艦艇を建造する。なおさらに数を増やす予定だ。
「連合国に提供する艦隊を作った後だから、感覚が麻痺しているんだけど」
アーリィーが苦笑した。
「途方もない計画だよね。普通にやってたら、とてもヴェリラルド王国では用意できないし維持できないよ」
「建造速度は、アリエス軍港がある限り揃っちゃうんだよな」
「それだけの戦力が仮にあれば、世界をも征服できるのではありませんこと?」
エクリーンさんが怖いことを言った。確かに、この世界の軍事レベルをみれば、オーバースペックもいいところだ。
だが大帝国の底が知れない以上、仕方ない面はある。何せ連中は、古代文明時代の遺産発掘にも積極的だから、テラ・フィディリティア式の建造方法を手に入れたのなら、こちらがやっている以上の大艦隊を短時間で整備する可能性だってある。
そうなると、八八八艦隊案でも不足する恐れすらあるのだ。
だが俺はそれを自身の中に留めた。
「艦隊だけ揃えても、世界征服などできませんよ。表向き敵の戦力を殲滅して占領はできるでしょうけど、そこを維持し続けるには、人の力が必要で、その人を置き続けるにも物資を消費する」
俺は起き上がり、ベッドに座った。
「ウィリディス艦隊があろうとも、ヴェリラルド王国は世界征服はできない。大帝国並の国力があれば、まあ話は別だけど」
俺はノビをする。
「そもそも――世界征服なんかしなくても、今の国を豊かにしたほうがよっぽどいい生活ができる。まだまだ国を発展させるのにできることがいっぱいあるから。豊かになれば、征服などしなくても、世界一の国になれるし」
……ま、俺は別にそこまで狙っているわけじゃないけど。
「世界一の国、か。見たいな、そうなるのを」
ジャルジーは遠くを見る目になる。俺はからかうように言った。
「何言ってるんだ。お前がそれをやるんだよ、ジャルジー王」
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