第826話、新艦補充と謎金属
リヴィエル王国の同盟締結に向けて、ヴェリラルド王国内では討議が進められていたが、雲行きが怪しくなってきた。
大帝国が支援をしたせいで、リヴィエル王国は帝国容認派が一気に優勢となった。今後、かの国の王都を巡る大攻防が予想される。……まあ、大帝国が本格的に空中艦を投じてきたら、それほど時間はかからないだろうが。
あのシェード将軍のこと、リヴィエル王国を押さえたらどう動くか。容認派勢力を取り込んで、自軍の駒とするか? それとも共倒れを狙って、わざと手出しを控えるか。
MMB-5を使って要塞落としをさせたのも、帝国兵に犠牲を出さないためだろう。SS諜報部には、シェード将軍の動向を含め、軍の動きを注視させている。
俺としては、まだ同盟締結前だから、勝手に軍を動かすわけにもいかない。王国独自派の旗色が悪くなっているようだから、このまま同盟はなかったことになるかもしれない。
さて、連合国向け兵器の第一陣が完成したのもつかの間、損耗したシャドウ・フリートの艦艇補充を、アリエス浮遊島にて行う。
旗艦である『キアルヴァル』は、修理を必要としているが、これを機に大改装を行う。先日のアンバル級軽巡洋艦との交戦から、これまで以上に強力な敵艦が現れた時のために武装や防御シールドを強化するのだ。
同様に、新造するシャドウ・フリート各艦も火力とシールドを強化。特に火力――主砲のプラズマカノンを、アンバル級と同レベルの威力で撃てる強化型を搭載する。
これまではクルーザーの砲こそアンバル級と同じ口径だったが、威力を抑えた低コスト型を使っていた。シールドのない帝国艦にはそれで充分だったのだが、先日はそれが結果的に損害に繋がったと言える。
さらに武装には、ミサイル兵装を追加。ゴーレムエスコートには単発ながらミサイルランチャーがあるのだが、帝国改装艦には、ミサイルを積んでいなかったのだ。
今回のウィリディス製帝国艦は、外観こそ元と同じだが、内部はウィリディス製艦艇となっている。乗員スペースの小型化と共に、ミサイル兵装を初めから装備できた。
基本となるⅠ型クルーザーの船体を十一隻。このうち三隻をそのままⅠ型クルーザーとして仕上げ、三隻を空母型に、さらに三隻を強襲揚陸艦型、残る二隻をⅡ型への改造キットでⅡ型クルーザーとして作る。艦橋とか格納庫とか、組み上げる段階で部位を選べるのが、ウィリディス製帝国艦の特徴だ。
これに加えてⅠ型コルベットを八隻建造。
『キアルヴァル』を旗艦に、クルーザー五隻、軽空母三隻、強襲揚陸艦三隻、コルベット八隻の二十隻が、新たなシャドウ・フリートとして就役する予定である。
これらがアリエス浮遊島の工廠で魔力生産される。……これが終わったら予備艦を含め、帝国支配下の旧連合国向けにある程度、追加分を作る予定だ。
と、アリエス浮遊島軍港の管理者であるディアマンテに告げたら、彼女からウィリディス艦隊増強案が提案された。
「先のアンバル級軽巡洋艦出現の件。たまたま鹵獲できた上に、閣下がご無事でしたからよかったものの、一歩間違えば大変なことになっていました」
銀髪の女軍人――に擬人化している旗艦コアは強い口調で言った。
「これからも帝国が、かつての文明の兵器を繰り出してくる可能性は少なくありません。こちらも戦力を増強する必要があります」
すでに軽アンバル級ともいうべき駆逐艦の建造計画は立っていたが、ディアマンテは『戦艦』を用意すべきと言ってきた。
「今、ウィリディス艦隊の戦艦は、我が『ディアマンテ』のみ。万が一のことがあれば、それ以上の敵に対抗することが難しくなります」
一理ある。以前、冗談で量産型戦艦の設計やったけど、あれ本気にしてみるのもありかもしれない。あるいは巡洋戦艦であるディアマンテをベースに、純粋な戦艦として設計し直した新造艦も……。
この世界のレベルを見れば、今のままでも充分過剰戦力だ。だが相手が何を持っているのかわからないとなると、そうとも言えなくなる。
「じゃあ、現在の建造計画にねじ込む形で、戦艦案も検討しよう」
前回、帝国が出してきたアンバル級を鹵獲したから、次はもっと凄いのを出してくるかもしれない。そうなると、早め早めにやっていかないと『いざ』という時に間に合わないかもしれないな。
「魔力のほうは問題ないね?」
「はい、閣下。各地の魔力プラントから送られてくる量で、艦艇の建造に支障はありません」
ここで進行中の計画に問題が出てくるようだと困るんだけどね。
・ ・ ・
ダスカ氏が俺を訪ねてきた。アリエス浮遊島軍港から、ウィリディスで昼食を摂った後、屋敷の会議室に場所を移し、俺はダスカ氏からの報告を受ける。
例の古代魔法文明時代の地図が示した光点の謎を追って、エルフの里を調べていたダスカ氏。リーレや
「実は、世界樹の地下には、巨大な何かが埋まっているようなのです」
「巨大な何か?」
マスタークラスの魔術師であるダスカ氏は頷いた。
「何か、としかいいようがありません。建築コアの魔力スキャンを利用して探ったのですが、巨大な床、いや天井かもしれません。とにかくエルフの里から例の宝物庫の周辺も含めた広い範囲に、何かが埋まっている……」
「遺跡ですかね?」
「可能性はあります。建築コアは限定的なので、全容はつかめていません。巨大な何かがあって、それ以上のスキャンを防いでいる」
「地面を掘ってはみましたか?」
建築コアなら、テリトリー化から土砂の撤去も可能だ。
「やりました。そうしたら魔力を弾く金属の床が出てきたのです。かなり分厚いようで、魔法も物理的な攻撃でも歯が立ちませんでした」
「エルフの里から鉄の谷の下に、謎の金属の床……」
「ええ。まるでエルフの里が、その金属の床の上に乗っているような印象を受けました。全部を調べたわけではないですが、ひょっとしたらエルフの里がある古代樹の森の下にそれがあるかもしれません」
「だとすると、古代樹の森が、その謎金属があった場所の上に立っているということですか?」
古代文明時代の巨大な地下都市? やべぇ、ワクワクしてきた。俺の表情に出たか、ダスカ氏もニヤリと笑みをたたえた。
「とても興味深いですね。ですが、今のところ、どこまで金属板……いや、まだ板かどうかもわからないのですが、それに関して、調査は続行しています。ただすぐに結果が出るとは思えないので、リーレたちは別の光点を先に調べようとしています」
ゲルリャ遺跡の謎地図には、八カ所の印があった。なるほど、他の場所を先に探るのもありだ。
「できればディーシーさんに、一度、広範囲をスキャンしてもらいたいのですが……」
つまり、俺にエルフの里にきてほしい、ということだな。DCロッドさんは、俺の言うことしか聞かないからな。
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