第827話、謎の地下構造物
「イヤだ」
ディーシーが、俺の要請に難色を示した。ダスカ氏から話のあった、エルフの里地下の謎金属の範囲を調べるため、ダンジョンコアの助力を得ようと思ったのだが。
「
魔力を消費する。わかる。それはよくわかるのだが。……なら仕方ない。
「ウィリディスからサフィロを呼んで、やってもらうか」
ぴくり、とディーシーの耳が動く。こういうところまで人間を再現しているのだから芸が細かい。
「何もやらないとは言っていない」
嫌だ、とか言ったじゃないか。俺は黙っていた。
「人工コアにやらせるくらいなら、我がやってやる。……ああ、面倒くさい、本当に面倒くさいがな」
お前はどこかのわがままお姫様か。ただ、ディーシーは人工コアに仕事を取られるのを嫌うところがある。そのあたりがわかれば、実にチョロかったりする。
ということで、ポータルでエルフの里に移動。俺が着くと、何故か女王陛下のもとへ顔を見せることになっているらしく、エルフの騎士たちにそちらに誘導された。
「エルフでも調査したのですが、未知の魔法金属です」
カレン女王は、エルフ側の調査結果を教えてくれた。
「研究室に持ち込めれば、もう少し精密な調査もできるのですが、切り取れないので、試せることが限られています。ジン様は、何か心当たりはございますか?」
「いえ、まだ実物を見ていませんし、何とも」
それを調べにきたわけだし。というわけで、エルフの森の広範囲を魔力的スキャンをかける旨を告げ、許可を仰ぐ。女王陛下のお返事は――。
「よろしくお願いいたします」
とのことだった。精霊宮を離れ、世界樹の根元へ下りる。世界樹は一際高いが、里のまわりの古代樹の森もまた高い。俺の元いた世界の、ジャイアントセコイア
「とりあえず、はじめてくれ」
ディーシーに指示を出し、早速テリトリースキャンを開始。ダスカ氏が事前に調査したとおり、世界樹の地下から巨大な物体がスキャンによって明らかになる。その先がスキャンできないらしく、板状なのか箱状かさえもわからない。
「どう、ジン? 何かわかった?」
アーリィーとダスカ氏、黒猫姿のベルさんがやってきた。
「俺たちが無力だってことだけかな、今のところは」
ダスカ氏が先に調べた以上のことは、まだわかっていない。ベルさんが口を開いた。
「その物体とやらを見てみようぜ」
「そうだな。ディーシー? ちょっとそのあたりの上の土砂を取り除いてくれ」
「うん? あ、うん」
「どうした?」
「いや……この世界樹の下のほうが、どうもその地下の物体に潜り込んでいるようでな」
「え?」
世界樹の根が、その謎物体をぶちぬいているってこと?
それを聞いた時、アーリィーはポンと突然手を叩いた。
「ああ、そうか。違和感はそれだったんだ」
「何の話だ?」
俺が問えば、翡翠色の目のお姫様は小首をかしげてみせた。
「うん。この世界樹には空中都市と言われるヴィルヤと、根元……というより地上部分に城下町があるよね? で、ボクはこの城壁に囲まれた町に違和感があったんだけど、世界樹の根元が地上に出ていないんだよ」
根元が地上に出ていない。確かに、普通の木は土に近い部分から広がるように根を張っているものがほとんどだ。地表に根の一部も見えない、それが意味するのは、木の根がもっと下、地下に伸びているということ。
「つまり……世界樹の根元は、謎物体の下にある、ということか?」
ディーシーを見れば、彼女は首を捻る。
「まあ、そうなるな」
エルフの里の下にある謎の巨大物体。それの上に森があるから、後からこの古代樹の森ができたかと思えば、世界樹の根元は物体の中。
「世界樹が先か、謎物体が先か」
卵が先か鶏が先かみたいな話だが、順番でいえば世界樹のほうが先だろう。それはそれで謎なのだが。
「ひょっとしたらだけど」
ベルさんが言った。
「世界樹に穴を開けていけば、その謎物体の先にいけるんじゃね?」
「エルフがそれを許すでしょうかね」
ダスカ氏が肩をすくめた。世界樹を傷つける行為は厳禁――確か、エルフたちの法ではそうなっていたはず。
「どこまでこの物体があるのか、その大きさを把握しよう。……どうするベルさん? 俺は全体把握に行くけど、先に金属の実物を調べる?」
「ああ、そうしよう。時間の節約になるしな」
ということで、里を探索するグループと、金属解析グループに分かれる。広い範囲を魔力スキャンすることになるディーシーは、ぶつくさ不満を漏らしていた。仕方ない、君にしかできないんだから――と言ったら、少し機嫌を直したようだった。
チョロいね。
・ ・ ・
古代樹の森、やばい……。テリトリースキャンの結果、例の金属の物体は、森の大半の地下にあり、さらに森を抜け、鉄の谷方面、宝物庫を少し行ったところまで伸びていた。ダスカ氏の報告の通りだが、実際に確かめてみると……。
でか過ぎるだろ。何キロじゃなくて、十数キロもあるんですけど! ディーシーが文句を言いたくのも理解できる。世界樹が小さく見える……。
「で、結局、これは何なのだ、主?」
「俺にもわからん」
地下数キロレベルの深さで、箱形の物体だ。艦橋のような構造物は見られないので、中は地下基地とか都市かもしれない。もしかしたら、超巨大な宇宙船だったりして。
ディアマンテに、データを送って聞いてみた。
『不明です。少なくとも、テラ・フィデリティアにこのようなモノはありませんし、アンバンサーのものとも該当データはありません』
「つまり、人工物だとするなら、機械文明ではなく、その後の魔法文明時代のものということか」
彼女がわからないということは、地道に調べるしかない。これに中があるなら、どうやって中に入るか、だが……。
どうアプローチしたものか。スキャンによれば、あからさまな出入り口は確認できなかった。では実力行使で、とベルさんら金属解析グループの元に戻るが。
「ダメだ。お手上げだ」
ベルさんが匙を投げた。グラトニーハンドも駄目だったらしい。まいったな、こりゃ……。
橿原とリーレは別の光点を探しに向かったから、しばし保留。他の場所の状況を見れば、もしかしたら何かヒントがつかめるかもしれないしな。
ちなみに、世界樹に人が通れるくらいの穴を掘っていく案は、案の定、エルフの大臣級幹部から猛烈な反対を受けて却下された。
世界樹と共に生きる彼らからすれば、世界樹に何かあっては困る。掘って調査した結果、世界樹に悪影響が出た場合、こっちも責任とれないからしょうがない。
あ! リーレたち、出かけちまったって!?
大帝国も遺跡探索しているから、鉢合わせした時のために、護衛戦力を割り振るつもりだったんだけどな。
しまったなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます