第823話、シャドウ・フリート、壊滅
速度が低下した『キアルヴァル』に従うように、シャドウ・フリート艦が付き従う。コルベットが12.7センチ単装プラズマカノンを撃ち、敵アンバル級の接近を阻もうとする。だがお返しとばかりにアンバル級の主砲が光の束を放つ。爆発する艦艇。
『「卯月」、艦尾脱落、墜落!』
『敵艦、接近!』
シェイプシフター見張り員たちが立て続けに叫ぶ。全長八十メートルのコルベットが爆炎に包まれながら大地に激突し、荒野を黒から赤に染め上げる。
次に犠牲になったのは、軽空母『アヴェンジャー』だった。四基のプラズマカノンの光が、箱形の艦体、そして格納庫を貫き、焼き払った。
元帝国輸送艦改装空母は、後付けされた防御シールドもあっさり突破され爆沈した。
……こっちへ来る!
「ベルさん、シールドを張るぞ!」
艦の防御シールドは消失し、回復待ち。そこを狙われてはひとたまりもない! 人力! 人力の障壁展開だ!
俺も魔力障壁で『キアルヴァル』を防御する。敵アンバル級の主砲が瞬く。だが俺とベルさんの張った障壁が、かろうじてプラズマカノンを防いだ。……あぶねぇ、ドラゴンブレスを防いだ時みたいだ。
「というか、一枚抜かれたな!」
「二枚張ってよかったな、障壁」
ベルさんも唸った。
「で、オレとお前、どっちのシールドが駄目だった?」
「知るか!」
敵アンバル級が、艦隊を追い越し離脱。『キアルヴァル』の15.2センチプラズマカノンが追い掛けるように火を噴いたが、射撃装置にエラーが出ているのか全弾が外れた。
しかし敵艦はまた戻って、
残存するは旗艦の他、軽空母1、Ⅱ型改航空巡1、コルベット4の七隻。……もう四隻食われた。
『航空隊、敵艦に接近!』
アーリィーの第二航空戦隊か? それにしては早すぎる気が……。
そうではなかった。こちらの艦隊がオルドーグ研究所の攻撃に放った航空隊だった。艦艇以上に高速のゴーストやタロンが敵アンバル級に牙を剥く。
航空機は軍艦より強い――そう無条件に信じられればよかったのだが。
あいにくと俺は、高性能な対空装備の前では、航空機が絶対的優位でないことを知っている。
実際、敵アンバル級の備えた光線対空砲が弾幕を展開すると、接近する航空機が網に絡め取られるように撃破されていった。……航空隊は対地攻撃装備で、対艦用兵装がプラズマカノンしかなかったのだ。必然的に、敵艦の防空圏に飛び込んでしまう。
「時間稼ぎにしかならないな」
ベルさんが呟く。
「いや、時間稼ぎにもならねえか」
対空砲で航空機の接近を阻みつつ、敵艦はシャドウ・フリートに迫る。くそ、せめて『キアルヴァル』が全速を出せれば!
自慢の高速クルーザーも、三基あるインフィニーエンジンのうち、一基を喪失し速度が落ちている。ポータルのある空域までたどり着けるか?
コルベットの砲が敵アンバル級の防御シールドに弾かれる。もっと火力を集めれば、敵のシールドも消失させられるだろう。
だが残存艦の全火力を叩きつけても、おそらくシールドを破る前に、こっちが先にやられる。八方ふさがり、か。
『「ヴァンジャンス」被弾! 飛行甲板大破、艦隊より脱落……!』
Ⅱ型改航空クルーザーが、速度を落とした。被弾で機関にダメージを受けたか、
その傍らを、敵アンバル級が通過した。後部の主砲が発砲し、『ヴァンジャンス』に新たな爆炎が起きるのが見えた。
敵艦は、なおも艦隊を猟犬のごとく追い立てる。
『「デバステーター」回頭!』
「!?」
旗艦の後方についていた軽空母が、突如向きを変えた。箱形の艦が、『キアルヴァル』から見えていた敵艦の姿を遮る。
「まさか……!」
『デバステーター』は退却を中止。対空兼用の12.7センチプラズマカノンを猛烈な勢いで撃ちはじめた。
「エスメラルダ! スレーブサーキットは!?」
「いえ、修理しなくては復旧できません!」
つまり、『デバステーター』搭載コアが、独自に彼我の状況を判断、行動しているのだ。逃げ切れないから、せめて他艦を逃がす生け贄になるべく……!
高速で追い上げていた敵アンバル級は、突然、遮るように速度を落とした軽空母と衝突を回避する機動を取った。百四十メートルもの巨体ともなれば、いかにアンバル級ともいえぶつかればただでは済まない。上昇、右舷への転舵。だが艦体下部の砲二基四門による反撃を忘れない。
光弾は『デバステーター』のシールドを貫通、機関部を破壊し大火球を生み出した。
『「デバステーター」、爆沈!』
見張り員の声が、俺の耳に届いた。くそ……。
『「如月」、「皐月」が転舵。敵艦へ突撃を敢行!』
こいつらゴーレムなのに。シェイプシフターなのに。
人は乗っていない。命令に忠実なゴーレムコアやシェイプシフター乗員が、退避命令の中、敵わないまでも時間を稼ごうとしている。
双方の距離は近い。敵アンバル級は、さらに回避機動をとらされ、離脱する艦隊より離れされる。
二隻のコルベットの砲が敵艦のシールドを削る。だが敵軽巡の主砲の砲口が光を放つたびに、真っ赤な火の玉が夜空に輝いた。
『如月』がプラズマ弾に艦体を串刺しの如く貫かれ、轟沈。『皐月』も機関部を一撃で撃ち抜かれ四散した。
迫る敵アンバル級。一隻も逃さないとばかりに追いすがるは、さながら漆黒の死神だ。
『敵艦、発砲!』
すっと、『キアルヴァル』を遮るようにコルベットが機動し、光弾がその艦に吸い込まれた。
『「弥生」沈没!』
「盾になりやがった!」
ベルさんが呻く。これで残るは『キアルヴァル』とコルベット『睦月』のみ。
エスメラルダが振り返った。
「閣下、二航戦から航空隊が接近。さらに艦隊旗艦が、ポータルより出現!」
艦隊旗艦――巡洋戦艦『ディアマンテ』が、帝国本国の空へと現れた。
・ ・ ・
巡洋戦艦『ディアマンテ』艦橋。
旗艦コア、ディアマンテは、シャドウ・フリートの残存艦を確認し、旗艦『キアルヴァル』が残存していたことに安堵した。……機械なのに安堵した。この一種不思議な感覚を、しかし彼女が意識することはなかった。
駆けつけはしたが、まだ戦場ではない。到着寸前に、一歩及ばずという可能性もあるのだ。
『ディアマンテ』のセンサーが、敵艦を捉える。ウィリディスの識別コードには反応しないが、テラ・フィデリティアの敵味方識別装置は生きていて、かつ当時の識別コードで情報を読み取る
――アンバル第66番艦。所属、第二艦隊……。
かつて自分の艦隊に所属し、アンバンサーと戦った友軍艦。それが敵国によって甦り、使われているとは。
人間であれば、運命の皮肉を呪ったり、あるいは笑ったかもしれない。だがディアマンテは合理的に次の行動を選択した。
「発、第二艦隊旗艦。
彼女こそ、テラ・フィデリティア第二艦隊を統べる旗艦。その艦隊に所属した艦艇は、全て従属するのだ。
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