第814話、鎖の壁
ここは任せて、先に行け、ってか? 俺はベルさんの言葉に苦笑する。
正直、俺だけ出遅れたんだよな。シェイプシフター兵たちは、例えるならヒーローやヒロインの変身バンク中だろうがお構いなしに攻撃するような連中で、敵と見たらさっさと仕掛けてしまう。
それはリアナも同様で、戦いを敵を倒す手段として特化、突き詰めた結果、彼女も問答無用を地でいく。それに鍛えられたソニックセイバーズのSS特殊兵も同じだ。
そのまま戦いとなった結果、リアナとセイバーズがモルブス。サキリスがプラーガ、SS兵から引き継ぐ形でベルさんがフェブリスと交戦していた。
……大丈夫かな。相手は『悪魔』。正直、ベルさん以外のメンツで何とかなるとは思えないんだが。
戦いは一進一退。互角以上にやっているように見えるが……。三分くらいは、保つだろうか?
サキリスやリアナたちが元気に押しているうちは、下手に手を出すと邪魔になるかもしれない。オーケー、こっちはさっさと目的を果たしてしまおう。
捕虜は城の上層と地下の二カ所。どちらを先に助けるか? ……愚問だな、女性優先。
「ディーシー、転移魔法陣。上層の人質近辺、いけるか?」
『任せろ。テリトリー化している場所なら……ほれ』
俺の間近にダンジョントラップのひとつでもある転移魔法陣が現れる。ダンジョンコア側の操作で、ダンジョン内ならどこでも自由に飛ばせる代物だ。
それでは、ドロンでござるよ。俺はDCロッドを手に、魔法陣に飛び込んだ。
・ ・ ・
猛り狂う鎖は、まるで風のようだった。
金髪悪魔モルブスの鎖は、生き物のように彼女の周りを飛び回り、リアナやライザの接近を許さない。
「ヒュドラって知ってますぅ?」
モルブスは嘲笑する。
「この鎖たちを、蛇にたとえる者もいますわ」
薙ぎ払い、噛みつきのように直進、または稲妻のように頭上から、と複数の鎖が、それぞれ不規則に攻撃を仕掛ける。周りの壁や床は、鎖がこすり、削った跡でボロボロだ。高速で移動する鎖は、かすれば皮膚は裂け、直撃すれば人体を破壊する。
まるで鎖のバリアだ。モルブスは余裕そのもので、鎖を魔法で制御し、自らを守りながらセイバーズを寄せ付けない。
ライトニングバレットの魔弾もハンドガンやサブマシンガン程度もすべて防がれてしまった。このままでは手も足も出ず、追い詰められるのは明白だった。
『リアナ』
ライザが通信機で呼びかけた。シェイプシフター特殊兵の考えは、リアナにもわかった。
通常攻撃ではすでに敵に届かない。ゆえに損害覚悟の攻撃でなければ倒せない。
『プラン111』
『『『了解』』』
リアナの命令に、セイバーズの三人は即答した。まずライザがハンドガンを連射しながら片手にナイフを持って、モルブスの正面から突撃した。
「ふ、馬鹿な子」
たちまち、鎖の射程内に入ったライザは、全身に無数の鎖が当たり、ライトスーツの装甲が砕け、腕や足を貫き絡め取られた。
『3』
冷静に呟くリアナ。モルブスの背後に、リサが階下より通路へ上がると、音もなく這うように急襲を仕掛ける。
「それで気配を消したつもりぃ?」
モルブスはかすかに首を傾け、左目で、後ろから迫るリサに、やはり鎖を差し向ける。両手のナイフが砕け、胴体を貫く鎖にリサの動きが止まる。
『4』
一番外、一階フロアの端にいるリリーが狙撃銃をセミオートに切り替え、矢継ぎ早に銃弾を撃った。モルブスの頭、胴、足を狙った弾は、間に割って入った鎖の自動防御によって防がれるが、ひとつの鎖で全てを防ぐことができず、三本の鎖が迎撃した。
『0』
その瞬間、リアナはエアブーツの加速で、一気に飛び込んだ。先陣切ったライザの突進から、四秒と経たず。両手にナイフを持ち、リサ同様、消音機能で音を消して肉薄した。
モルブスの表情が曇る。彼女は悟ったのだ。いま、この瞬間、四人目の攻撃を防ぐ鎖がないことに!
ナイフが二本、挟み込むようにすり抜けた。モルブスの目と喉を、それぞれのナイフが通過したのだ。
プラン111。トドメ役を除き、自殺覚悟の攻撃を仕掛けて敵を誘導。時間差攻撃で敵の迎撃の手を潰したところで、最後のメンバーが必殺の一撃で倒す。
仲間の犠牲を前提にした作戦。まさに、敵を殺すために命をも道具としてしまった作戦である。
が、これはあくまで人間がやれば、である。リーダーであるリアナさえ生き残れば、他のメンバーは貫かれようが裂かれようが死なないシェイプシフター。仮に消滅するようなことがあっても、代わりはすぐに用意できる。
ゆえに突撃役のライザやリサは、この作戦の決行で自分たちが傷つき、消滅してしまうようなことがあっても、微塵も恐れていない。
もっとも強化人間であり、殺人兵器として育ったリアナもまた、自分の命について淡泊であり、周りがどう言おうとも、命じられれば自殺攻撃も辞さない精神の持ち主だったが。
・ ・ ・
転送魔法陣で、一階フロアから上層へ。廊下に出た時、見張りと思しきトカゲ頭の低級悪魔が数体、斧や槍を持って向かってきた。
さすがに低級とはいえ、魔力感知に敏感なようだ。俺はストレージから聖剣ヒルドを抜剣。近づく奴から、一刀のもとに切り裂いた。
悪魔族といえば、高い魔力と強靱な防御力を持つが、天使らの使う聖剣は、それら魔の生き物を容易く両断する。まさに、悪魔にとっては天敵にも等しい。
簡単に味方が切られれば、後続の悪魔どもも、その威力に怯んだ。足が止まっているぞ、お前たち! 手近な奴から、一人、二人、三人! 流れるように切り捨てご免。
最後に背中の羽根で逃げようとしたグレムリンを、ライトニングで撃ち抜いて終わり!
「ディーシー?」
『すぐそこの扉の部屋に、女たちがいるぞ』
DCロッドが答える。では、早くお助けしてさしあげねば。扉を開ければ、石造りの質素な部屋と、壁に鎖で繋がれた女冒険者や女騎士、魔術師たちがいた。
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