第813話、三悪魔


 トリアム城一階フロアの奥、二階へと上がる階段が続く通路から、三人の美女悪魔がこちらを見下ろしていた。


 何故、悪魔と断言できるか? 頭に二本の角を生やして、背中に翼とか尻尾があったからだ。


 中央に立つのは金髪美女。たっぷり豪奢な髪に、どこかSMクイーンじみた格好。サキリスとはまた違った気の強そうな高飛車お嬢様っぽい。そんな彼女が仁王立ちになる姿は、そのたっぷりある胸の大きさと相まって迫力満点だ。


 向かって右のは赤い髪をショートカットにした女悪魔。胸元が開いていて、一応左右で大事な部分を覆ってはいるが、腹出し露出が強めの衣装。翼――いや、マントだろうか。炎を模した形をしている。武器は魔法の杖。


 最後、向かって左は青い髪を真っ直ぐ滝のように背中へ伸ばした美女。その服装は完全ビキニアーマーといってよく、背中には竜の翼と尻尾を持つ。角もまた、他の二人がカーブを描いているのに、彼女だけは二本とも真っ直ぐに伸びていた。武器は槍のような長い柄に、大剣のような刃のついた重量武器だ。それを涼しい顔で持っているところからして、かなりのパワーファイターと言える。


 三人ともモデル顔負けの細身ながら豊かな胸の持ち主たちで、その贅沢ボディはまさに悪魔的だった。いい女だな、まったく。俺は眉間にしわが寄るのを感じた。


「人間風情が、よくぞここまで来たと褒めて差し上げましょうか――!」


 金髪悪魔が喋っている中、SS兵が問答無用で銃弾の嵐を叩き込む。しかし銃弾と魔弾は、彼女たちの手前ですべて弾かれる。


「おいおい、人の話は最後まで聞きなって。セッカチどもが」


 赤髪悪魔が、左手を前に出して、どうやら魔法障壁を張っているようだ。


「それでは、そんな礼儀知らずたちには――」


 青髪悪魔が愛用の武器を槍のように振り回した。


「少し折檻してやりましょう!」


 次の瞬間、青髪悪魔が跳んだ。まばたきの間に、一階フロアのSS兵の元へ踏み込むと、重槍を叩きつけ、吹き飛ばした。


「あらあらフェブリス、あなたも充分せっかちさんですわ」


 金髪悪魔が、青髪悪魔だろう、その名前を呼んだ。赤髪悪魔は杖を構えた。


「モルブス、やるよ!」


 肉薄するはソニックセイバーズのリアナ。モルブスと呼ばれた金髪悪魔は唇の端を吊り上げた。


「プラーガ、その黒い奴は炎に弱いですわ!」

「いや、知ってるって――燃えろぉぉ!」


 杖から吹き出す炎。それは踏み込んできたリアナを包み込み、しかし通り抜けた。


「うそっ!? 効かないぃ!?」


 リアナの右腕に電光が弾け、赤髪悪魔――プラーガに襲いかかる。とっさに後方へ飛びのくプラーガ。リアナはそれを追うことなく、狙いをモルブスへと向けた。

 猟犬のごとく飛びかかりは不意をつくが、刹那、金髪悪魔はニコリと笑った。


 ガキン、と金属音が木霊する。見ればどこからともなく現れた鎖が、リアナの拳とモルブスの間を通り、盾となっていた。


「あら、狙いはよかったですが……悪魔の視力を舐めないでくださる? 下等な人間が!」


 素早く飛び退くリアナ。数秒まで彼女がいた場所を囲むように鎖が五本、意志を持った生き物のように動き、通過した。


「よく避けましたわわね。褒めて……ってちょっと!?」


 モルブスに、無数の弾丸が浴びせられる。セイバー3、リサが両手にサブマシンガンを持って弾幕を放ったのだ。


「プラーガ、わたくしを援護なさいな!」

「いま、忙しいのっ!」


 赤髪悪魔が通路から下へ飛び降りる。セイバー2、ライザがバトルナイフ二本を振り回し、プラーガに攻撃の余裕を与えなかったのだ。


 だが、そのプラーガは危機から逃れられなかった。

 サキリスが魔法槍を前に突き出し、果敢に肉薄していたからだ。サキリスの突きを、杖で逸らすプラーガ。


「おい、人間の小娘ごときが、あたしと張り合えるって思ってるのか?」

「あまり人間を舐めないほうがよろしいですわ!」


 次の瞬間、強い衝撃がプラーガを襲い、彼女を弾き飛ばすと近くの壁に打ちつけた。


「ってぇー! いてぇぇ!」

「トドメですわ!」


 エアブーツの加速で肉薄。


「神聖なる光、我が槍に宿りて、悪魔を穿て!」

「あめぇよ! ファイアストームぅ!!」


 吹き出すは紅蓮の炎。吹き荒れる炎がサキリスを包み込む。


「障壁でぶっとばしてくるたぁ、やるなぁ。だけど、ここで炭にしてやんよ!」

「甘いですわ!」


 炎から飛び出すサキリス。シェイプシフター装備が燃えやすい欠点ゆえ、火属性無効の魔法具を装備済みだ。


「ライトニング、十二連撃! ――流星撃!」


 ライトニングの魔法の連続攻撃。サキリスの手元から放たれたものもあれば、突然、空間から放たれたものもあり、不規則かつタイミングをずらした電撃弾が四方からプラーガを襲う!


「障壁!」


 しかしプラーガも魔法障壁でガード。ギリギリで魔弾の連続攻撃を防ぐ。だがそこへサキリスが魔法槍を突き出す。息もつかせぬ連続攻撃。その先端はプラーガに迫り、だが障壁が阻止。


「ばぁかめ! 防御魔法が見えなかったか!?」

「貫く! 輝け、スターライト!」


 魔法槍の先端が光り、魔法障壁を切り裂き、貫通した。魔法槍スターライト――魔法を貫き、一筋の光となって敵を穿つ。

 プラーガの腹部に、魔法槍が突き刺さる。魔法防御を抜けてきた一撃に、赤髪の悪魔は驚愕する。


「んだと……ォ!」



  ・  ・  ・



 青髪悪魔、フェブリスは岩竜刀という名の武器をシェイプシフター兵に叩きつけた。人骨粉砕、内臓破裂――喰らえば人間をミンチにする一撃は、SS兵には致命傷とはならなかった。しかし武器を砕き、吹き飛ばす程度の効果はあった。


「でも、知っています。お前たちは炎に弱いことを!」


 フェブリスが蒼い炎の玉を具現化させ、SS兵に放つ。回避できず炎上、消滅するSS兵。その間をぬって進むフェブリスの視界に、暗黒騎士がよぎった。


 見事な魔剣――フェブリスはひと目見て、その剣に宿る力の膨大ぼうだいさに気づいた。その魔剣の持ち主は、当然、強い!


 横手からのSS兵の銃撃を跳躍してかわし、そのまま暗黒騎士めがけて、ジャンピングキックで突撃。

 ひらりと、暗黒騎士は蹴りを避ける。だがフェブリスのパワーは凄まじく、床がめり込み、割れ、飛散させた。


「強い、奴……!」


 風を切る速度で岩竜刀を振るうと、強烈な激突音がフロアに響いた。暗黒騎士が魔剣で岩竜刀を防ぎ止めたのだ。


「私の力を受けきる……そんな奴は初めて、です!」

「そうかい?」


 暗黒騎士が軽く岩竜刀を弾くと、魔剣を振るった。バックステップで後退するフェブリスは、追い打ちとばかりに放たれたカマイタチを防いで、距離をとった。

 暗黒騎士は言った。


「ジン、こいつはオレ様の獲物だ。お前さんは、さっさと先に行け!」


 リーダーだろうか。魔術師らしき男にそう告げると、暗黒騎士は両手で魔剣を構えた。


「さあこい、小娘。手加減してやる」

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