第812話、トリアム城へ


 領主町フェンガルで、低級悪魔どもを撃破しつつ、俺たちはかつての領主、トレーム伯爵の居城を目指していた。


 崩れかけの民家に陣どったデーモン・ウィザードやグレムリンの炎魔法が飛来するが、俺とサキリスが魔法障壁を展開し、後続をカバー。シェイプシフター兵らのライトニングバレットによる光弾が、逆に低級悪魔を撃ち抜く。


『側面、アンバンサー戦車』


 ガレキを吹き飛ばしての登場は派手だったが、予め偵察機から位置情報を受け取っていたから、出待ちのロケットランチャーに敵戦車は吹き飛ばされた。

 豚頭の人型悪魔を、デスブリンガーでひと裂きしたベルさんは首を傾げた。


「どうも温いな。……なあ、ジン、そうは思わないか?」

「ああ、もっと強力な敵がいるかと思ったが……」


 たとえば上位悪魔とか。第一陣として乗り込んだ冒険者に同行したシェイプシフターが、ほとんど未帰還だった件が気になる。いま戦っているな敵なら、もっと生還してもよさそうなものなのだが……。


「そうなると、誘われているのかね、オレ様たちは」


 ベルさんは視線を領主の城へ向ける。アンバンサー紛争で、破壊された町。城壁も光弾砲によって穴だらけであり、崩れている。城自体も幽霊でも住んでいそうなほど、不気味さを漂わせていた。


「……」

「サキリス、大丈夫か?」


 無言で城を見つめるサキリスに俺は問うた。

 クレニエール東領になる前は、トレーム伯爵領。サキリスの婚約者が住んでいた場所だ。多分、ここには来たことがあるだろうが、果たしてその心中は……。


「平気です、ご主人様」


 サキリスはにこり、と笑みを返した。


「変に気遣わないでくださいませ。愉快な過去ではございませんが、それでも……もう終わったことでございますわ」


 むしろ――と金髪の麗しい戦乙女は憐憫れんびんの目を城へと向ける。


「こうなってしまっては、哀れですわね」


 ふむ。栄華去りし、廃墟かな――


 ではさっさと済ませてしまおう。俺は通常ストレージからDCロッドを取り出す。


『ようやく我の出番だな』


 ディーシーの声が杖から響く。


「じゃ、いつものやつ、頼むよ」

『いいのか? 相手は悪魔だろう? テリトリー化したらバレるぞ』

「ここまでやって、俺たちに気づいていないわけがない。派手なノックを中の奴に聞かせてやれ」


 低級悪魔どもの歓迎委員会は、迎撃しながら逐次、その主に報告していただろうしな。

 早速、ディーシーがテリトリー化を開始。対象範囲を魔力によるスキャンを行い、城内の様子、人員、配置などがホログラフ状に表示された。


『中には、強力な魔力を持った個体が複数。低級悪魔どもと……それより上の個体もあるようだ』

「上位悪魔かな?」


 ホログラフを眺める俺たち。ふと城内の一角にぽっかりと空洞があるのに気づく。嫌な予感がしてきた。


「スキャンできなかったところか?」


 その意味するところ、他のダンジョンコアが存在する、あるいは強力な力を持つ存在がテリトリー化やスキャンを阻止する魔法を使っている、である。

 ベルさんが楽しそうな声を出した。


「つまり、そこに今回の敵の親玉がいるってことだな?」

「ここは……領主の謁見の間ですわね」


 サキリスが説明した。来たことがある人間というのは、こういう時ありがたい。城内の配置を眺め、未確認ゾーンの近くに数名の人の反応と、地下に約三十ほどのこれまた人の反応があった。


「ここと、ここは人質かな?」


 冒険者やクレニエール領の兵士たちが監禁されていると思われる。周りには悪魔と思われる敵の反応もある。見張りだろうが……。


「何で二つに分かれているだろう?」

「何でかな?」


 ベルさん、DCロッドへと向ける。


「何かわかるか?」

『うーむ。我に言われても……いや待て。わかったぞ、男女で分けておるようだ。地下が男、上が女のグループだ』


 男女別々、か。あれかな。男女同じ場所に閉じ込めたら、苛立ちと不安から性的な暴行に走ったりする事案。それを回避する策としてなら、ある意味正しい処置と言える。……ふむ、敵は悪魔だよな?


『あと、あまりよろしくないお知らせだが、捕まっている連中は、どうも魔法をかけられているようだ。夢遊病者のようにフラフラしている』

「あまり時間をかけているとヤバイやつかもしれないな」

「一定時間経ったら、アンデッドの仲間入りーとかな」


 ベルさんが皮肉めいたことを言ったが、それはマジで勘弁だな。


「敵の親玉を倒すのが先か、捕虜救出が先か」

「本気で、アンデッド化とか気にしてる?」

「冗談……で済む可能性は?」

「割と本当にそうなるかもしれんな。何せ相手は悪魔だ。魂を抜いてどうこうって手が使える奴も珍しくない」

「よし、それなら救助を優先しよう。どうせ敵もこちらを迎え撃とうと出てくるわけだし。どんどん返り討ちにしていけば、向こうの親玉も出て来るだろう」

「こっちが攻めているのに、敵さんを迎え撃つってか? ははっ、面白い」


 ベルさんが同意したので、俺たちは崩れかけの城門へ向かう。門は開け放たれ、悪魔どもが出てくる気配はなし。完全に中でお出迎えするつもりだ。

 城門をくぐり、中庭へ。SS兵が左右に広がり、銃を構え先導する。敵の姿はない。城内への入り口は開いている。まるで悪魔が口を開けて待っているような気味の悪さ。


 入ってすぐにダンスフロアのような広間があるが、ディーシーのスキャンで敵がいることは把握済。ライトニングバレット持ちのSS兵が前に出て、使用魔弾を選択。閃光弾――発射!


 入り口フロア内に複数の閃光が瞬く。中から低級悪魔と思われる悲鳴が漏れ聞こえた。暗い室内にまぶしい光、悪魔どもにはさぞ堪えただろう。


「突入!」


 SS兵が先陣切って城内へ入り、すぐに左右へ広く展開する。狭い入り口で固まっていれば、魔法や飛び道具の集中射撃を受けてしまうのだ。

 銃撃戦。SS兵は怯んだ敵悪魔やグレムリンを銃撃し、待ち伏せていた敵の数を減らしていく。立ち直りが早かった悪魔が、火や電撃、氷の魔法を飛ばしてくる。


 そこへ俺たちも突入。ソニックセイバーズの前衛組であるリアナとライザがライトスーツ+エアブーツでの加速。そして飛翔で低級悪魔の至近距離に飛び込んで銃撃すれば、支援組のリサが援護射撃で弾幕を形成、リリーが狙撃銃で、敵悪魔の脳天に風穴を開けていく。


 入り口フロアでの攻防。新手の悪魔どもが駆けつけるが、ベルさんのひと睨みを受けてたちまち萎縮してしまう。魔王の威圧ってやつだな。そこへサキリスが、電撃槍――サンダースピアの魔法を六連射。低級悪魔たちの胴体をぶち抜いた。


 ヒュー、やるもんだ。俺の仕事は残っているのかい? とか思っていたら――


「あらあら、やりますわね」


 フロア内に女の声が響いた。見れば、三人の美女――もとい女型の悪魔が、こちらを睥睨していた。

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