第810話、領主町の異常事態
クレニエール東領クエストは順調に進捗していた。東領の街道沿いの集落跡を三つ制圧。西側の砦二つも安全を確保。目下、冒険者たちは東領西部の魔獣討伐をどんどん進めていた。
やはり、装甲車や浮遊バイクの機動力が、その勢力圏拡大に大いに活躍しているようだった。
次はかつての領主町フェンガルを目指す。ここは東領のほぼ中央に位置し、領主町だけあって一番規模が大きかった。もっとも、アンバンサー戦役で破壊され、住人は死亡ないし捕虜となり、改造兵士かエネルギーにされてやはり殺された。
さて、ここで大問題が発生した。
領主町フェンガルを目指したクレニエール軍と、冒険者グループが音信不通となったのだ。
フェンガルにもっとも近い場所にあるプロン村は、現在、東領クエストの最前線拠点となっていた。トキトモ建設が、トール村でやったような拠点化を図り、クレニエール軍の後続部隊と冒険者第二グループが待機している。
プロン村駐屯司令部に俺とベルさんが訪れると、冒険者第二グループ・リーダー、ヴォルケ君がさっそく状況を説明してくれた。
三十台半ば、屈強な体付きの、いかにも強面冒険者といった風貌のヴォルケ君だが、実はシェイプシフター兵である。
「状況はよろしくありません」
顔ありのシェイプシフターは、兜を被っていないので、普通の声で話す。
「クレニエール軍と冒険者で、どちらが先にフェンガルを落とすかで争い、双方、連絡が途絶えました」
「先を争った?」
ベルさんが聞けば、ヴォルケ君は「はい」と頷いた。
「大きな町ですから、無人とはいえ、それなりに金目のものなどが残っているのでは、とヴォードさんは言っていました」
「あー、なるほど。冒険者ルールな」
拾った者は俺の物。冒険者たちは掘り出し物を求めて領主町を目指し、一応東領もクレニエール侯爵の領地なのだから、それらの前領主の遺産を冒険者に渡してなるものか、と軍も制圧を急いだということだろう。
「そのヴォード氏は?」
「冒険者グループが音信不通になったと聞き、救出に向かったのですが、町に入った後、連絡が途絶えました」
「やられたってことか?」
ベルさんは鼻をならす。
「その領主町に、何かいるってことだろう」
「正体は掴めたか?」
冒険者に扮しているシェイプシフターとか、装甲車のSS運転手もいただろうから、そこから伝令の分身体が戻ってきているだろうと思って聞く。
「はい。……アンバンサーの小型多脚戦車が数台、都市内で確認されています」
「アンバンサーだと!?」
残党がいたのか!? 俺とベルさんは顔を見合わせた。
「またくそ面倒なことになってきやがったな」
「それと町では、未確認の敵の存在がいるようです」
ヴォルケ君が表情をしかめる。未確認、とは……。何とも歯切れが悪い。
「どういうことだ?」
「それが、SSたちもほとんどがやられてしまったのです。唯一戻ってこれたのが、虫サイズにまで小型だった分身体のみで」
司令部にいる他の人間を気にして、『シェイプシフター』という単語を控えたヴォルケ君。
これは深刻な事態だ。潜伏、変身に長けるシェイプシフターでさえ、見つけられやられてしまう。その未確認の敵は、隠れているシェイプシフターすら発見できる能力を持っているのか。
『シェイプシフターがやられるとなると、敵は炎の武器を持っているってことだろうか』
『だろうな。しかもシェイプシフターを感知できるって、相当だぞ』
念話でやり取りをする俺とベルさん。
『どうしたものか』
『いっそ町を焼き払うか?』
『いや、先に言った冒険者や兵士がいるかもしれない。それはできない』
『もう死んでるかもしれないぜ?』
『生きているかもしれない』
全滅した、という確証がないのに、迂闊なことはできない。生きていると見て行動だ。
「とりあえず、さっさと行動しよう。情報収集以外に時間を潰したところで事態がよくなるとは思えない」
声に出して、周囲にもこちらの意思を表明しておく。ベルさんも切り替えた。
「しかし、またぞろ厄介なことになったな。呪われてんじゃねえかね」
「言うなよ、ベルさん」
司令部にいたクレニエール軍の騎士や冒険者たちは、俺たちを見守っていたが、どうしたものかと顔を見合わせている。おそらく全体を指揮する立場の人間がフェンガルへ遠征し、そして未帰還となったからだろう。
冒険者たちはヴォード氏を、クレニエール軍はシャルールと、俺との接点持ちがいないから、侯爵である俺に声をかけづらいのだろう。
ヴォルケ君と現地情報の確認。監視ポッドでフェンガルの様子を撮影させたが、確かに多脚戦車の姿が町中に見かけられた。だが未確認の敵らしき姿については捉えられなかった。屋内で活動しているのようだ。
「旧領主の城。冒険者とクレニエール軍の部隊は、ここに入ってからの行動は不明です。他の場所を探していた者たちは、アンバンサー戦車によって捕まったようで、そこから城へと運ばれたのが撮影されました」
「探すべきはこの城だな」
目標は決まった。あとは、どう事態にケリをつけるか、だ。救援に行ったヴォード氏らも二次遭難状態。俺とベルさんといえ、ちょっと解決してやろう気分で行くと、よくない予感。
俺は通信機を使い、クレニエール侯爵に直接連絡を入れた。フェンガルでの異常事態を報告。まだクレニエール軍から連絡が来ていなかったらしく、侯爵は驚いていたが、一等魔術師のシャルールも消息不明と聞き、深刻さを理解したようだった。
「事態解決のために、ウィリディス軍の投入の許可をいただきたく思います。状況によっては東領クエストの完遂も危ぶまれます」
『うむ。やむを得ないが、ここは経験豊富なトキトモ侯にお任せするしかあるまい。正式にクレニエール領からウィリディス軍への援軍要請を出そう』
「ありがとうございます」
軍の移動の許可はいただいた。これでこちらの兵器を自由に東領へ持ち込める。
『トキトモ侯、今回の敵はアンバンサーの残党か?』
「可能性は高いですが、もしかしたら大帝国が裏に関与している可能性もあります」
アンバンサーだけでは、シェイプシフター兵を気取られずに始末するのはできないと思う。もちろん、これは推測に過ぎず、もしかしたらアンバンサーにシェイプシフター兵にも対処できる兵器や能力を持つ者がいたかもしれないが。
『大帝国……ノベルシオン国を焚き付けるだけでなく、直接乗り込んできたというのか?』
「先遣隊や特殊部隊の可能性はあります」
連中の魔法軍は、化け物兵器を生み出し、平然と戦場に放り込んでくるからな。本格攻撃前に現地でひと騒動を起こす。混乱を巻き起こすのは大帝国の常套手段でもある。
ノベルシオン国が侵攻の準備をしている今は、まさにそのタイミングといってもよい。
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