第806話、作ってしまおう、浮遊島
エルフ艦隊用の浮遊島を建設することになった。自力で何とかしてもらいたいところではあるが、完成した艦艇をいつまでもこちらで預かっていると、次の計画の邪魔になるので、早々に作ってしまおう。
エルフの里へ、一日か二日、出張する。といっても、ポータルがあるから、いつでも帰れるけどね。
幸い、クレニエール東領クエストは、次の拠点を窺いつつ、冒険者たちが主体になって魔獣掃討の段階だから、俺が常時ついている必要はない。
シャドウ・フリート、ファントム・アンガーも、大規模な作戦行動はなし。大帝国は、こちらにやられた分の再編成中。積極的動きがないので、こちらも休養と整備に充てる。
とはいえ、今SS諜報部や、マッドらにファントム・アンガーの傭兵として、ちまちま連合国に雇われ小規模任務を遂行しつつ、パイプを形成中である。これは二、三日でどうにかなるものでもなく、着実に足固めをしてもらう。
さて、俺は出張前にエマン王に報告――ちょっと艦隊用の浮遊島を作ってきます!
「はぁ?」
かけていた読書用の眼鏡がズレるエマン王。当然ながら、詳しい説明を求められたので、エルフ艦隊の母港を作るために浮遊島を一から作ってみることを話した。
「作れるのか? 浮遊島を?」
「古代文明時代のそれとは違うかもしれませんが、一応、作れそうなので作ってみようかと」
エマン王は眉間にしわを寄せて黙り込んだ。他の種族のために軍事施設、それも浮遊島を作るなど、軽々しく頷けないのはわかる。むしろ、浮遊島が作れるなら『王国のために作ってくれ』というのが先ではないか。
そこで俺は、予め考えていた回答を告げた。
第一、今回の浮遊島建設に関わる費用や資材は、一部例外を除いてすべてエルフが負担する。なお報酬は別途支給。
第二、直接乗り込んで、勝手に俺らがやるので、エルフが見ていても真似はできない。彼らがダンジョンコアを手に入れない限りは。
第三、頭の中ではできるという確信はあるが、どれほどの魔力消費がかかるか正確な予想がつかないため、思っていた通りにできない可能性がある。一連の工事を実際にやってみることで、消費する魔力や資材を図るデータとする。
つまり――
「今後、王国で浮遊島を作成する場合に備えての、実験台ですね」
「……」
しばし、王は黙り考えた結果、GOサインが出た。やってみせよ――ということで、ヴェリラルド王国で一番偉い人の許可はもらった。……義理の父となる人とはいえ、こういう重要案件を大臣らに通さず、直接の問答で結論が出るのは素晴らしい。
浮遊島の存在自体、王国では王族しか知らないことゆえ、重臣らに相談できない、というのもあるのだが。
普通に会議とかあったら、散々待たされた挙げ句に不許可、なんてあり得るからねぇ。
「じぃー……」
俺とエマン王の話を聞いていたのは、フィレイユ姫殿下。
「ぜひ、わたくしも連れていってくださいませんか、ジン様!」
まるで新しい玩具を見つけた子供のようだった。目を輝かせるお姫様に、エマン王はしばし迷う。そもそもこれから行くのが外国――エルフの里になるわけで……。
「お父様! これは見聞を広めるよい機会ですわ!」
今度は、王に詰め寄るフィレイユ姫。
「エルフと我が国は友好国。より深い友好関係を結ぶためにも、こちらから訪問することも重要かと存じ上げます!」
それっぽいことを言っているが、要するに自分が外国へお出かけしたいのだろう。エルフの里など、確かに行けるなら行きたいと思うのも無理はない。何せ外部の人間お断りが基本スタンスのエルフだからな……。
本来は、お姫様が外国に、となるとそれなりに準備が必要なのだが、まあ、今回はエルフ公認の作業だし、俺がついているとなれば護衛についても問題はない……ということで話はまとまった。
前準備にかかる。浮遊島を浮かせるための浮遊石を用意しなくてはならない。
次に人員だが、俺と、ダンジョンコアことディーシー。いざという時のためのベルさん。
浮遊島作るよ、と言ったら、アーリィーとダスカ氏も同行することになった。
「浮遊島を作るなんて、見ないなんてもったいない!」
見世物ではないが、必見の価値はあるかもしれない。古代文明時代の浮遊島の謎が解けるかも、とか云々。
だがこれとは別に、アーリィーは俺に言った。
「ほら、ゲルリャ遺跡で見た映像地図。あれの示す場所に、エルフの里の世界樹があったよね」
その情報をエルフから仕入れられないか、と彼女たちは考えたようだった。なるほど、女王に聞いてみよう。
とかやっていたら、ユナとサキリスも加わった。ユナに至っては――。
「何故、声をかけてくださらないのですか、お師匠」
睨まれてしまった。魔法に高い関心がある彼女である。浮遊島を作るなんて見ないなどあり得ない、ということだろう。
かくて、フィレイユ姫と近衛護衛――という名のシェイプシフターメイドらと合流後、俺はウィリディスの面々を引き連れ、ポータルでエルフの里へ移動した。
……こっそり大仕事のはずが、現地ではカレン女王ほか、十数人のエルフたちがお出迎え。重臣や護衛の騎士に交じり、高名魔術師や学者もいるという。
「浮遊島を作るとあって、ぜひ、ジン様の魔法を見たいと皆がいうもので……」
俺は、そっとユナを見れば、巨乳魔術師は、そっと顔をそらした。……うちにも似たような動機で来ている者がいるから、何も言えない。
女王曰く、これでもかなり数を絞ったのだそうだ。……いやはや、失敗したら恥ずかしいから、あまり注目されても困るんだけどね。
さて、浮遊島を作ろう。
「呼ばれてきたはいいが……」
ディーシーが、考えるような仕草をとった。
「どう島を作るつもりだ、
「一から魔力生成で島を作る、なんて効率の悪いことはしない」
どこか適当な地形を切り出して、それを浮かべるというプランでいこう。
浮遊島とする地形を求めて、エルフの里のある古代樹の森から離れる。エルフの宝物庫のあった鉄の谷近辺なら、森もないので、地形を切り取るのも面倒が少なくて済む。
ワスプヘリ部隊を呼び寄せ、現地まで移動。なお、カレン女王も護衛と共についてきて、アーリィーやフィレイユ姫と歓談していた。高貴な方々の会話だな。
ちなみに、この後、エルフ側から、ワスプヘリの購入希望がきて、エルフの軍備に追加されることになる。対地攻撃はもちろん、移動にもヘリは活躍が見込めるのだ。
閑話休題。
現地に到着した俺たちは、ギャラリーから離れ、さっそく予定地の確保にかかる。
ディーシーが、予定地の中心に立つ。ダンジョン・テリトリー、展開!
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