第805話、母港問題
さて、クレニエール東領クエストで冒険者が、順調に魔獣討伐をこなしている頃から、少し時計の針は戻る。
ウィリディスに、エルフの里より、カレン女王とお供の方、数名が来訪した。
エルフから依頼されていた艦艇や兵器は、すでに用意できている。テラ・フィデリティアの魔力生成のスピードは尋常ではないのだ。
ウィリディス屋敷の会議室にて、エルフの面々に、兵器の一覧を披露する。
エルフ航空艦隊。その主力となるフリゲートは、初期案が12.7センチプラズマカノン連装二基四門だったが、船体を十六メートル延長して、もう一基増設して三基六門とした。副砲は単装八基。大帝国のコルベットサイズだが、メイン火器がプラズマカノン砲塔の分、圧倒できる。
フリゲートを支援する小型艇――エルフ・コルベットは前回から特に変更はなし。三十三メートルの小型の船体に、57ミリプラズマカノンを連装一基、単装三基。エルフのアエウ・ボートより高火力でより戦闘的に仕上げてある。
さらに今回、完全新作となるのが飛行型空母。エルフ的優美さとは何か、思案し続けた結果、鳥をモデルにした形でもいいだろうと思い付き、横幅の広い、航空機型の船体を考えた。全長は九十メートル、全幅は飛行推進翼を含めると百メートルを軽く超える。
その鳥のようなシルエットには、カレン女王を始め、エルフたちは驚きの声を上げた。
他、魔人機ホワイトナイト、アーチャーに、ゴーレム、重戦車、そしてエルフたちが所望した戦闘機の写真を見せた。
概ねデザインも含めて好評の様子のエルフたち。エルフ的優美さを出す手伝いをしてくれたアーリィーには感謝である。
一連の紹介は終え、いつでも引き渡しできますと申し上げたが、本日エルフの方々が来られた本題は別にあった。
エルフの軍事担当大臣という、痩身のエルフ男性が告げた。
「実は、恥ずかしながら、まだこちらの受け入れ体制が整っておりません」
三十代半ばの美男に見えて、実年齢三桁の大臣は、申し訳なさそうな顔になる。
「早くにできると伺ってはいたものの、我が方の建設速度がまったく追いついておらず……」
まあ、そうだろうなぁ。うちの生産速度が異常であって、工業化も進んでいない世界で、基地やそれに準ずる軍事施設がホイホイ作れるわけがない。
ヴェリラルド王国のノルテ海に海上艦隊を浮かべるべく、俺たちは軍艦を作ったが、その大半を送ったのは、母港となるクラーケン軍港が完成した後。そのクラーケン軍港も、ダンジョンコア工法による支援があって、初めて短期間で建造が完了したのだ。
「誠に勝手ですが――」
エルフ側の提案はこうだ。現在、青肌エルフの攻撃で廃村となった集落跡に陸上兵器用の拠点を作っているが、それ以上に軍艦の停泊、補修施設の場所が問題となっており、その候補地の選定から難航しているという。
世界樹の空中都市ヴィルヤ周辺に艦艇を収容する空中軍港を用意しようにも、全ての艦艇を収容はできないだろう、という話だった。
そこで、ウィリディス側で艦艇を預かってもらい、有事の際にポータルでエルフの里へエルフの艦艇を送ってもらえないか、と相談された。
もちろん、お借りしている土地の預かってもらっている料金、借地料はエルフが支払い、また必要ならポータル使用料も出す、と言われた。
俺は考える。作ったエルフ艦艇は、ひと目のつかないアリエス浮遊島軍港に浮かべてある。船を預かるはともかく、有事の際に使えないと困るから、エルフの乗組員たちが艦の扱いや訓練などを日常的に行う必要がある。……アリエス浮遊島に、エルフの人員を入れるのは遠慮したいんだが。
まあ、本当に勝手なお願いではある。しかしよくよく考えれば、エルフの里近辺に、艦隊を置ける場所が果たしてあるのか?
古代樹の森を軍港のために多数切り倒すなんて、エルフ的にはナンセンス。では森から離れた、鉄の谷は候補としてはどうか。
とはいえ、実際に施設ができるのは何年後の話になるだろうか。……やはりうちの連中が手を貸してやる必要があるか。大帝国は、近いうちにエルフの里に攻めてくる。カレン女王が、そう未来を見たのだから。
しかし、アリエス浮遊島軍港は使わせたくないな。……ああ、待て。
「それなら、いっそ、人工の浮遊島を作るか」
「……ええっ!?」
ぽつりと呟いたつもりだったが、エルフたちにはバッチリ聞こえていた。基本、大臣たちに軍事を任せていたカレン女王も、俺の言葉に固まっていた。
・ ・ ・
唐突に浮かんだ浮遊島案。どうせ作る必要があるなら、エルフの里の近くに新たに浮遊島を浮かべ、そこに艦隊の母港とする。
「かつての古代文明時代に空に浮遊する島を浮かべた……」
カレン女王は俺をじっと見つめる。
「どういう技術なのか、まったくわからないのですが、ジン様は、その浮遊島を作るとおっしゃった」
「古代文明時代のやり方は知りませんが、一応、今あるもので作れないことはないかな、と思います」
アリエス浮遊島は実際に浮かんでいるのだ。どうして浮かんでいるか、それは浮遊石の力だ。あの形を問わず、モノを浮かせるそれを使えば理屈の上では可能だ。岩だって船だって飛ぶんだから島だって浮かせられないはずがない。
とりあえず浮かんだ浮遊島案は、地面の一定範囲をテリトリー化。浮遊石を仕込んで、テリトリー範囲内の岩盤を地面から切り離せば、空に浮かぶ島の出来上がり。あとはダンジョンコアによるクリエイトで、基地施設を岩盤上に設置するなり、内部に作るなりすればいい。
それなりの大きさとなると、ダンジョンコアないし人工コアの助けがなければ、多分かなり時間がかかるだろう。ぶっちゃけ、浮遊石で浮かせられるなら島といわず、基地だって浮かせられる。
ディアマンテにテラ・フィデリティア時代の浮遊島の仕組みなど、ご教授いただければより完成度が上がるだろう。アリエス浮遊島というモデルがあるのだから。
浮遊島を作ろうなんて言うと、突飛かもしれないが、そのための技術はもうやってるものばかりだから、夢物語や妄想の産物とは言えない。
というわけで、我がウィリディスは、エルフ艦隊のみならず、その母港となる浮遊島の建造も受け持つこととなった。
どうせ、トキトモ建設から作業員を派遣することになっただろうからな。それなら俺とディーシーや人工コアが赴いてさっさと作ってしまおう。
さて、エルフさんには、その報酬を期待しよう。
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