第802話、ある休日の俺の行動


 朝、起床。俺はアーリィーとベルさんとで朝食をとった。


 本日は休養日。さて、アーリィーは橿原かしはらたちの遺跡探索ミッションに向けてのリサーチをしていると話してくれた。もともと彼女は古代文明について興味を持っていて、調査が楽しいと言っていた。よきかなよきかな。


 ベルさんは、一日のんびりバカンスするから、適当に放っておいてくれ、と言った。……この人の場合、本当に一日ダラダラ寝て過ごすか、誰かの生活の覗き見のどちらかだろう。いい趣味してるよ、ほんと。


 朝食の後、SS諜報部が仕入れた情報をまとめた報告書を受け取り、熟読する。

 日々、情報のインプットは欠かせない。SS諜報員たちが集めた鮮度の高い情報はとても大事だ。


 その後、ラスィアが俺を訪ねてきた。冒険者ギルドの本格始動の報告だ。クレニエール東領の開拓と魔獣討伐は、早々に始めてしまいたい。北方で大帝国が動いたから、ノベルシオン国も、動きを早める可能性がある。


 冒険者ギルドでは、東領関連の依頼に応じた冒険者たちが集まりつつあった。それらに貸し出す装甲車や浮遊バイクに関して、レンタル料を含めて契約を結ばせている。

 また商人たちも、開拓でひと山当てようと、補給拠点への進出などで冒険者ギルドやノイ・アーベント役所に出入りしているという。


「ヴォード氏は?」

「先陣きって、東領に乗り込むつもりのようですよ」


 苦笑するラスィア。俺も笑った。


「まあ、開拓地で直接引っ張るリーダーは必要だ。Sランク冒険者の言動なら、舐めた態度をとる冒険者もほとんどいないだろうし」


 あの熊のような大男に意見するなんて、普通でもびびるからな。適役適役。


 俺は東領の旧集落の場所に補給拠点を建てるため、トキトモ建設の建設部隊に出動の準備をさせておく。最近、こちらも就職希望者が入って人数が増えていたりする。


 冒険者ギルド絡みの話の後、ラスィアはギルドへ。俺はキャスリング地下基地へ向かった。ノークと会って廉価兵器製造計画にある、新型戦車の試作モデルの様子を見た。

 ヴェリラルド王国で使っているVT-1戦車の設計を流用しつつ、部品数と工程を減らした代物だ。搭載している砲は57ミリ砲と、実は大帝国製品のコピーだったりする。


「戦車砲弾は大帝国と共有だ」

「分捕ったらそのまま使えるやつですな」


 がはは、とドワーフと笑った。後は任せるよ。


 俺は次に、アリエス浮遊島へ向かった。浮遊島関連施設を取り仕切る旗艦コアのディアマンテは呆れ顔になる。


「今日はお休みでは?」

「うん、遊びにきた」


 そのディアマンテと、廉価兵器製造計画の艦艇群について細部を詰める。

 この初心者でも設計できる艦艇建造ソフトはゲームみたいで面白い。共通した部位を、色々な艦で使い回ししつつ、その艦に合った砲などを配置する。


 現在、連合国に提供予定の重巡洋艦、航空巡洋艦、護衛艦は、主砲の口径こそ異なるが、その配置や砲門数は同じ。20.3センチ、12.7センチの二タイプの実弾系砲を搭載する。……連合国には、プラズマカノンを渡さないからね。

 機関も大と小の二タイプで、それを割り当てていく。

 艦のサイズや艦載機運用能力の有無で形は変わるが、似ている部分が多い仕様だ。


「楽しそうですね」

「うん、楽しい」


 設計案を、ディアマンテに検討してもらい、連合国とは別に、いくつか艦艇を考えてみる。

 量産型戦艦案、連合国向け航空巡洋艦をベースに空母に改装する案、大帝国のクルーザーやコルベットを、ウィリディス仕様で組み上げる際の、簡易設計案などなど……。


 久々にテレビゲームした感覚で過ごしたら、昼になっていた。アーリィーは橿原と、ダスカ氏からの魔法文明講義を受けながら食事にする、という連絡がきたので、俺はウィリディスへ移動。


 お昼ー。定例となっているエマン王と会食。本日のランチはカレーライス。今日はフィレイユ姫も一緒。仕事の話ではなく世間話をする予定だったが、話題の中心は戦争や連合国絡みのものになる。……仕方ないね。


 昼食後、お昼寝を少々。ウィリディス屋敷をぶらついていたら、サキリスやクロハらメイド陣が、SS諜報部の各国情報の報告書に目を通しているのを見かけた。もっとも、機密情報の類いは省かれている簡略版だが。戦況ニュースなどは、ウィリディスの人間なら誰でも閲覧する許可を出している。


 ……新聞を作ったら、商売にならないかな、とふと思った。SS諜報部の鮮度の高い情報は、この世界のどの諜報機関より優れていると自負している。そもそも通信技術に関して、大帝国がようやくそれらしいものを構築しているが、それ以外の国はほぼ未発達。大陸の端の情報を得るのに数ヶ月とか平気でかかる世界だ。


 識字率の問題はあるが、たとえば俺が毎日読んでいる報告書なら、エマン王もジャルジーもクレニエール侯爵も読みたがるだろう。


 そういえば、パルツィ氏も、今メイドたちが読んでいる各国情報を毎日熟読していると言っていた。商人たちにもウケるし、冒険者も含めて、色々な仕事の人たちも活用できるのではないか。活字印刷……印刷機が必要だな。作るか。


 そんな午後、グレイブヤード商会より、保護した不正奴隷たちの受け入れ依頼と、その不正奴隷を扱う盗賊まがいの犯罪組織の討伐依頼が来た。


 ふむふむ、保護した者たちと会って、リバティ村で問題なさそうならそちらへ。亜人が駄目なら、ノイ・アーベントだな。


 俺はスフェラに命じて、討伐依頼の犯罪組織の情報収集に諜報員を送るように指示。リアナに連絡を入れ、リーパー中隊から討伐部隊を編成してもらい、出撃に備えさせる。


「すまんね、ゴミ掃除を頼んで」

『始末する敵が、盗賊だろうが軍人だろうが同じです。気になりません』


 ほうきは箒。ゴミならまとめて掃くだけのこと。リアナさんはどこまでもクールだった。シェイプシフターたちの経験値にしてきます、とさらりと言ってのけるあたり、彼女は骨の髄まで特殊部隊員なのだ。リアナにとって、人命は軽い。


 というわけで、今度はリバティ村へ移動。ユナとエリサがいて、彼女らに新たな住人が来るかもと知らせておく。


「ジン、ひとついいかしら?」


 エリサが俺に相談を持ちかけてきた。リバティ村の自警団から、数名を冒険者として出したいという。今、クレニエール東領関係で、ちょうど魔獣討伐依頼があるので、実戦経験を兼ねて。


「兼ねて、とは?」

「ノベルシオンが、亜人を差別しているのは知っているかしら?」

「実際に見てはいないが、アーリィーやエマン王が言うには、よくないらしいね」

「それで、いまあの東領って手薄でしょ? ノベルシオンから亜人が流れているんじゃなかって話があるのよ」


 不正奴隷として保護された亜人からの情報だという。……どういう経緯だ?


「このままだと、もしかしたら東領でトラブルになる可能性がある。クレニエール侯爵の土地という扱いでしょ、あそこは」

「勝手に住み着かれたら、確かに問題になるだろうね」


 東領依頼絡みの冒険者なら入れるので、依頼にかこつけて流れてきた亜人たちを先んじて保護しようというのだ。


「わかった。冒険者ギルドに話を通しておく。だがクレニエール侯爵にも、それとなく難民の話を聞いておく。こちらで保護しても問題ないようなら、積極的に動けるようになるからね」


 クレニエール侯爵に、亜人難民の問題を解決できるならいいのだが、難民お断りとなれば、面倒事になる前に解決してやらないとね。ノベルシオン国が攻めてきた時にゴタゴタを抱えていたら、敵を利することになるからな。戦端が開かれたら、こっちにも必ず飛び火する。他人事ではないのだ。


 夜、ウィリディス屋敷に帰宅。スフェラから、エルフのカレン女王が会談を求めているという報告を受けた。エルフの軍備の件だろう。モノは出来ているから、早々に引き渡そう。会談を快諾し、日程調整を任せる。

 ……もう休んでいるんだか、仕事しているかわからん一日だったな。


 アーリィーと晩ご飯。古代文明時代のロマンを語るアーリィーにほっこりしつつ、お風呂を済ませ、SS諜報部のレポートに目を通す。

 その後、アーリィーと夜のお付き合いの後、睡眠。……おやすみなさい。

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