第801話、大軍備計画と魔力資源
アリエス浮遊島。エマン王との会談の後、俺は皆にぶち上げた。
「連合国に兵器を提供する」
すべては、せめて連合国に大帝国と戦えるレベルに戦力を底上げするため。彼らには大帝国打倒のために動いてもらわねばならない。
先のエマン王の言ではないが、このままこっちが代わりに戦ってやらねば、連合国は大帝国によって滅ぼされるだろう。
だが、こっちも慈善事業をしているわけではない。いざとなれば、連合国戦線から手を引くこともあり得る。
「ぶっちゃけると、こっちが連中を守ってやる義理はないよな」
ベルさんは言うのである。連合国のために――というのは、彼らの裏切りという形で、解消された。だからこっちも連合国を利用してやる。
「しかし、エマンもよく許したよな。連合国への兵器渡すの」
「大事なのは、連合国にやる気を出させることだからな」
別に高性能兵器の技術まで渡すつもりはない。俺は会議室の面々を見回す。
ベルさんの他、ディアマンテ、ダスカ氏、アルトゥル君、エルフのガエア、ドワーフのノーク、シェイプシフターのスフェラがいる。
アーリィーは、
ガエアが手元の資料に目を通す。
「廉価兵器製造計画……。この計画の完成品の主な行き先は連合国だったのですね」
しかし――エルフの技師は、その細い眉をひそめた。
「連合国への初期投資が、重巡洋艦二十隻、航空巡洋艦十隻、護衛艦三十隻、輸送艦十隻――」
「七十隻……」
アルトゥル君も眉間にしわを寄せた。
「多くないですか?」
「健在な連合国の五カ国に分配すると、そう大した数じゃなくなるよ」
各艦種を五で割るといい。重巡四、航空巡二、護衛艦六、輸送艦二の十四隻。大帝国の一個艦隊にも数で劣るから。
「ですが、ジン様。この数をウィリディス軍が用意するのは……」
「ディアマンテ、どうだ?」
「カプリコーン、アリエス浮遊島の両工廠を、フル稼働させれば十日もあれば、全艦艇を揃えられます」
旗艦コアは断言した。古代機械文明――テラ・フィデリティアの魔力生成による建造速度、恐るべし。俺のいた元の世界のアメリカさんだって、数はともかくこのスピードでは無理だろうよ。
「作りが簡素にまとまってますから。複雑なものほど時間がかかりますが」
なお、ディアマンテが作る連合国向け軍備は、艦艇だけではない。航空機三百、簡易魔人機二百、戦車二百。これも五カ国で分配するが、用意してやることになる。しかしこれら数百も、艦艇が全艦揃うより早く生産できてしまう。
まるでPCゲームとかの戦略シミュレーションみたいだ。
だが逆に言えば、アンバンサーとこの星の命運をかけて戦っていたテラ・フィデリティアにとっては、これだけの製造速度でなければ、戦線を維持できなかったのだろう。テラ・フィデリティアが大戦後期、無人艦艇に傾注していったのも、人的資源がどんどん失われていったからだろうな。
「工廠については問題ありませんが、これらの武器を生産する上で、材料となる魔力は必要になります。材料がなくては、いかに浮遊島工廠と言えど、その生産速度は低下します」
ディアマンテの発言に俺は頷いた。
この世界には、魔力が存在する。かつての古代機械文明、魔法文明は、その魔力を使って繁栄し、現代にも魔法という形でそれが残っている。
大気や地面、水、溶岩にだって魔力は含まれ、動植物もまた例外はない。
「カプリコーンにプチ世界樹があるが、魔力や魔石については、他にも手配してある。――スフェラ」
俺が、シェイプシフターの杖こと、黒髪の魔術師を指名すれば、彼女は立ち上がった。
「主様の指示に従い、SS諜報員は、各国の情報収集と並行して、魔力スポットを捜索していました」
「魔力スポット……?」
魔術師ではないアルトゥル君が首を傾げた。ベルさんが口を開く。
「魔力の吹き溜まりだな」
「この世界では、魔力が世界を循環していると言われています」
ダスカ氏が、教師のような調子で優しく告げた。
「魔力スポットとは、魔力が濃く集まっている場所のことで、いわゆるダンジョンや、それに類するものがあることが多いですね。大抵は魔獣の活動が活発であり、やがてダンジョン・スタンピードや、魔獣の大発生などに繋がったりします」
「スタンピード!」
「そこで主様は考えられました。余った魔力が災厄を引き起こすのなら、その前に魔力をこちらで使ってやれば、被害を未然に防ぎ、かつ魔力資源を回収できると」
「慧眼ですね」
褒めても何もでないよ。
「魔力スポットを発見したら、その後の手順はこうだ――」
まず、その魔力スポットの安全確保。そこに複数のコピーコアを設置し、テリトリー化。疑似ダンジョンとし、周辺の魔力を収集。集めた魔力を魔石結晶に変換する。
「あとは一定期間ごとに魔石を回収すればいい」
これにより、魔獣が活性化することに用いられた魔力を魔石にすることで、魔獣やダンジョンの活発化が抑制され、スタンピードなどが起こりにくくなる。
「連合国は大帝国と戦っている最中だからな。そこでダンジョン・スタンピードなんて起きたら目も当てられない。周辺の安全にも密かに貢献しながら、こちらは魔力資源を得られるのだから一石二鳥というわけだ」
「つまりは、何も問題はないわけですね、ジン様」
アルトゥル君が感嘆したように言った。おいおい、ここで実現不可な夢物語を語るつもりなんてないぞ、俺は。
ノークが自身の髭を撫でる。
「しかし、少々もったいなくはありますな。これだけの兵力、王国軍で活用すれば、連合国の連中の手を借りずに済むと思うんですがね」
「それをやるとな、帝国打倒後、今度は世界が強大なるヴェリラルド王国を排除しようと向かってくる。それはさすがによろしくない」
大帝国を単独で撃破してしまう国があるとすれば、それは帝国以上の軍備と戦力を持っているということ。侵略アレルギーを発症した者たちからすれば、そんな強国は存在するだけで脅威となる。侵略される前に滅ぼしてしまえ、と矛を向けてくる。
かつて、連合国で活躍した英雄魔術師がどうなったか、知っているかな?
「大帝国以上の力を持っているなら、勝てないとふんで攻めてこないのでは?」
「そんな連中なら、大帝国の侵略を受けた時点で降伏していただろうよ」
現実は抵抗している。恫喝だけで世界が治まるなら、とっくに世界平和は実現しているだろう、という皮肉。
「ある程度兵器をばらまけば、そういった脅威も和らぐ。人はね、隣人と同じ武器を持っていれば、ひとまずは安心するものさ」
軍事のレベルを引き上げてやる、というのも、そう悪い面ばかりではないということだ。まあ大帝国のように侵略で世界征服を目指すなら、相手が原始人レベルであったほうが楽なのだが。
連合国には、大帝国に対抗できると思わせる程度の軍備を与える。初期戦力は無償。だが追加については、きちんと金や資源をいただく。あげた兵器についても、使えば摩耗もするし壊れもする。それらの補充部品や、武器弾薬ももちろん有償だ。
戦争が続く限り、そして連合国が兵器を求める限り、こちらは初期投資分の資金や資材を回収して充分、おつりがくる。
……繰り返すが、俺は慈善事業をやっているつもりはないのでね。
あとは兵器を使いこなす人員育成だが、これもすでに考えている。ファントム・アンガー、そしてシェイプシフター。彼らを連合国に食い込ませれば、ただ兵器を提供する以上の働きをしてくれるだろう。
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