第799話、陸上艦隊の勝利
ウィリディス軍からやってきた陸上艦隊が、ズィーゲン平原に現れた。
ジャルジー・ケーニゲン公爵は、事前にその陸上艦隊計画は知らされていた人間だった。だが、初めて目にする城塞艦と城壁、そして陸上駆逐艦を併せた火力とパワーは、何も知らなかった兵たちと同様に圧倒された。
城という防御力に、迎撃用の攻撃力。そして少数ながら航空隊を持ち、さらに城そのものが動くとなれば……これは地上を行くもので最強の存在ではないだろうか?
世界最強。
大帝国の魔人機や戦車が束になろうとも駆逐してしまうに違いない。開戦直後のズィーゲン平原会戦で、大帝国西方方面軍と戦った王国北方軍の将兵の多くがそれを確信した。
まさに、無敵だ。
「我々は、頼もしき力を得たのだ!」
ジャルジーの宣言に、北方軍将兵は拳を突き上げ、力強く歓声を上げた。
貴重な戦車大隊を喪失。砲兵陣地も半分を失ったが、彼らに悲観の色はない。圧倒的な帝国魔獣の攻撃にさらされながらも、それを撃退した。
もはや、大帝国は見えざる超大国ではなく、対抗可能な他国としか思えなかった。
一方、国境上空に現れた大帝国の空中艦戦隊を攻撃に向かった北方軍の航空隊は、手痛い反撃を受けて、敵を取り逃がすことになる。
だが、それを深刻に思っているのは極一部の者たちだけだった。
・ ・ ・
現在、ズィーゲン平原北部で、『ヴィクトリアス』は停船していた。
俺は、セプティモに問うた。
「どうだ?」
「魔力残量は二割といったところですね。巡速での航行でしたら問題はありませんが、戦闘になったら、チャージするまではただの壁に徹するしかありません」
「魔力の消費量がでかい、か」
「テリトリー展開は、あくまで一時的ですし、プラズマカッターの展開、プラズマカノン砲塔の連射は、魔力の消費を増大させます」
「それに加えて、防御シールドだろう?」
「城壁艦はカットさせてありました。敵に射撃武器がないので、展開するだけ魔力の無駄かと」
「いい判断だ。しかし、それでも魔力を喰われたなぁ」
俺は頭をかきながら、ベルさんを見やる。
「連戦しなきゃいいんじゃね?」
「ごもっとも」
防戦に徹して、上手く運用すればこれ以上ないほど、敵地上兵力の駆逐兵器として使えるだろう。
「オイラよりドカ食いだな、このフネは」
「ベルさんに言われちゃ、おしまいだな」
暴食魔王であるベルさんだ。普段食事の量は普通に見えて、食べる時はとことん食い荒らす。
ただ搭載兵装が魔力消費武器ばかりだから、使い方には注意を払わないといけない。実弾兵器も載せれば、という手もあるが、弾薬庫も含めて搭載スペースに余裕がないんだよな。
『ヴィクトリアス』の艦載機運用スペースを潰せば、あるいは……。しかしせっかく航空機を運用できるんだから、それを手放すのは惜しい。
と、そこへノークが戻ってきた。彼は『ヴィクトリアス』艦内、各所を見回りに行っていたのだ。
「どうだった?」
「直接見た範囲では、トラブルはありませんでしたぜ」
身長は低いが、がっちり体型のドワーフ職人が胸を叩いた。
一応、シップコアのセプティモが、魔力スキャンで艦内を確認しているが、実際に目で見るというのは大事だと俺は思っている。そこは職人であるノークも同意見だった。
「そういえば、ディーシーは一緒じゃなかったのか?」
艦内巡検に、ディーシーもノークと出かけたのだが、あのダンジョンコア娘の姿がない。
「あの人は、散歩してますよ。城壁艦の上を歩いて景色を眺めておいでなんでしょう」
ダンジョンコアなのだが、すっかり『人』なんだなあれで。黒髪美少女が城壁散歩とか……画になるな。
「閣下」
セプティモが俺に声をかけてきた。
「ケーニゲン公爵閣下が、本艦への乗艦を希望されておりますが」
「ありゃ、向こうから来てしまったか」
こっちから挨拶するのが筋というものだが……。まあ、どの道、艦を見せることになるのだからいいか。
・ ・ ・
ヴェリラルド王国北方領へ侵入した大帝国西方方面軍の空中艦戦隊は、退避に成功した。
アグラ級高速クルーザー『リギン』の艦橋で、シェード将軍は、ヴェリラルド王国軍との交戦の様子を思い起こしていた。
思考の海に没している将軍の姿を、オノール参謀長は見つめる。沈黙が重苦しく感じている参謀長を見ることなく、シェードは口を開いた。
「言いたいことがあるなら言ってもいいのだぞ、オノール君」
「はっ……いや、まあ、王国軍にまさか、あのような動く要塞とも言うべき兵器があったとは思いもしませんでした」
「ああ、私も想定していなかったよ」
シェードは司令官席の肘掛けに腕をついた。
「
王国軍が移動要塞なる超兵器を保有していたこと。ちょっと考えれば、妄想の類いで実現など不可能だとわかりそうなものを……。
まさか実際に作り上げ、さらに成功させてしまった事には敬服する。……あの地形突破能力にはいったいどんなカラクリがあったのか。俄然興味が湧いたシェードである。
「かの国への本格侵攻を前に、その姿を見れたのは幸いだな。対策を考える時間があるわけだから」
「はぁ……」
オノールは難しい表情だった。
「地上からは無理でしょうな。空中艦隊で空から爆撃すればあるいは……」
「君も見ただろう? あの要塞の砲は古代機械文明時代の武器。こちらの空中艦が砲撃できる範囲に入った頃には、逆に蜂の巣にされるよ」
「で、では、死角はなし、でありますか……!?」
「さて、それはどうかな」
シェードは静かに笑む。
「人が作ったものならば、どこかに穴はあるものだ。……今回、巷で無敵などと言われている航空機を撃退に成功した。それと同じだ」
そうなのだ。今回、国境上空に侵入した空中艦戦隊は、ヴェリラルド王国航空隊の迎撃を受けたが、返り討ちにした。
「頼りになるのは魔器、ということでありますな」
「その通りだな、オノール君。だが、魔器頼りというのは、あまり褒められたものではない。より簡易な量産型を、魔法軍の開発部門に作らせねばなるまい」
今回、ヴェリラルド王国航空隊は、航空機を差し向けたが、艦隊に接近する前に『リギン』から、放たれた無数の光の槍が弾幕となって、その半数以上を撃墜。王国軍は恐れをなして退却した。
「色々、収穫はあったよ」
あの移動要塞がなければ、敵北方軍にさらなる打撃を与えられただろうが、どの道、殲滅されるのはわかっていた。王国軍が色々手の内を見せてくれたのは、試験の時間を惜しんで戦場でテストしたのだろうと思う。
「さて、オノール君。MMB-5のテストも済んだ。次の戦地へと向かおうか」
リヴィエル王国へ。
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