第797話、南から北へ
デゼルト型装甲車を使った冒険者パーティーの魔獣討伐に同行した俺。これまで冒険者ギルドで買い取っていた魔獣の部位の他に、大量の肉が確保できた。
近場ならともかく、本来なら捨てていた肉である。
ただ、現場での血抜きは不完全で、解体できる場所もない。解体した肉にも賞味期限があるから、拠点で肉を吊したり、流したりと処理をしないと、せっかくの肉も臭くて食えたものではなくなる。
そういった作業のための解体場所や施設を充実させれば、冷凍なりして保存し、食用肉として供給できるようになる。
せっかく確保した大量の肉。腐らせずに活用したいものだ。ウィリディスでは魔法式冷凍庫があるから、これらを作れば冬の間の食料事情も……。
とりあえず、ポイント・エーデでの冒険者ギルドにある解体施設の拡充と、保管庫の充実が追加要素だな。これまでの討伐の証拠兼買い取り対象の主だった、角や牙、毛皮とかの他に、肉類が増える。
いや、待てよ。それはデゼルト型装甲車を利用して異空間収納庫があれば、の話だ。普通のパーティーでは、これまで通りだから肉類は捨てられるか……。
ただ、装甲車に異空間収納があると知れば、冒険者たちも現場の移動も含めて、使いたいと思うんだ……。実際に運べる分、一回あたりで得られる金も増えるわけだし。
パーティー用に運転手込みのレンタル。ソロ冒険者は……うーん。浮遊バイクを買った冒険者はいいけど、これもレンタルやるか? キャリアーをつけるか、異空間収納ボックス載せれば、ソロでもある程度、獲物のお持ち帰りできるし。
しかし、やっぱり盗難がなぁ……。監視ポッドで見張るにしても、な……。罰則を強めて対処するしかないか――うーん。
ということで、ヴォードさん。次回、討伐に出かけるとして、デゼルト型装甲車は利用されますか?
「もちろん利用する」
即答だった。ただのタクシーのつもりだったが、たぶん、冒険者たちの答えは概ねこれだろう。
であるなら、ヴォード氏。冒険者ギルドによる装甲車利用について、あなたも共犯者として一緒に考えてくれ。
ラスィアと冒険者ギルドの運用について相談。パルツィ氏には、冒険者ギルドが引き取った魔獣素材の買い取りをする商人たちのへの根回しと、今後増えるだろう魔獣肉の需要について相談した。
パルツィ氏は、肉の長期冷凍保存について関心を持っていた。……ウィリディスの技術に触れて冷蔵庫や冷凍庫は知っていたよね?
彼はこれら冷蔵関連設備をより普及させたいと言った。じゃんじゃん肉が確保できるようなら、これを機会に、ということらしい。いくら冷蔵庫や冷凍庫があっても、肝心の保存するものがなければ意味がない。……いや、今までだって保存すべきものはあったぞ? ただ使ってこなかっただけで。
そういえば、魔力コンロを一般販売して、また一段と儲けてくれちゃったよね、君。
昔から俺が使っていた携帯コンロモデルも、冒険者や行商中心に売れていると聞いた。……ようやく時代が追いついたか。
そんなこんなやりながら、冒険者ギルドによるクレニエール東領の魔獣討伐と調査に向けて、準備が加速する。
だが、こちらの都合などお構いなしに戦争は続いている。
危惧されていた王国北方の大帝国軍が、再びズィーゲン平原に侵入。ジャルジー公率いる北方防衛軍と交戦状態に突入したのだ。
・ ・ ・
ズィーゲン平原に砲声が木霊する。
防衛陣地が作られ、75ミリ野砲を配置した王国北方軍は、平原を突き進む敵――四足歩行の虫のような異形集団一万に砲撃を浴びせていた。
わらわらと迫る巨大虫を思わせる敵集団。その足並みは騎兵の突撃速度と変わらず、ひしめきあいながら、津波のように押し寄せる。
「……これはまずいぞ」
野砲部隊指揮官のケルンは、ただでさえ厳めしいその顔をさらに歪めた。
敵が一カ所に集中する。ある程度の距離をとって分散配置されている野砲部隊だが、火線を集中して攻撃できる。だが、敵の勢いが早過ぎる。どこを狙っても数体を吹き飛ばせるのだが、それで止められない。
「騎士長! 戦車部隊が……!」
部下の報告。見ればVT-1戦車が横陣を組んで、敵集団に突撃を開始した。
「おいおい、お前たちは騎兵じゃないんだぞ……!」
戦車大隊を率いるバルバス隊長は、血の気が多く、非常に好戦的だ。VT-1は野砲と同じ75ミリ戦車砲を振りかざし、砲撃しながら前進した。本来は止まって撃つものだが、適当に撃っても当たるほど敵が密集しているので、ドンドンぶっ放しているのだろう。
「戦車で踏み潰す気なんでしょうか……?」
部下の言葉に、ケルンはあのバルバスならやりかねないと思った。だが敵はあまりに多い。数体はともかく、押し寄せる敵を踏み潰し続けられるのか?
「くそっ。各砲に連絡! 味方戦車にぶち当てないように、射撃に注意を払え」
というかむしろ、こっちがやりにくくなったのでは――ケルンが見守る中、VT-1戦車群は、砲撃で魔獣を吹き飛ばしながら、敵集団へ突入した。
予想通りというべきか、波に飲まれる石のように、周りがあっという間に敵魔獣で埋まる。やはり敵集団は止まらなかった。
VT-1戦車は前から来る魔獣を踏み潰し、なおも前進し――次々に停止していった。魔獣が戦車の上面に乗り、よってたかって尖った足を突き立てる。
「……ダメだ」
殺人アリの集団に飲まれた虫のように、戦車が潰れ、破壊されていく。中の人間も、おそらくミンチより酷いことになっているだろう。おぞましくて吐き気がこみ上げた。
だが、危機はすぐそこまで迫っていた。魔獣の群れが、今度はケルンたち野砲陣地に向かってくる。あんなものが押し寄せたら、ひとたまりもない。
砲撃を続行するも、敵はまったく怯まない。虫のようなシルエットの化け物。こいつらに恐怖という感情はないのか――むしろ、王国軍兵士たちが恐怖にかられる。
逃げ出す兵士。一人が逃げ出せば、連鎖的に兵たちに伝染する。
「待て! 貴様ら、持ち場を放棄するつもりかっ!? 戻ってこい!」
「騎士長! 無理です、やられますよッ!」
絶叫する部下。その時、ケルンの右手から別の兵の声が響いた。
「騎士長! 魔人機部隊です! ソードマン!」
王国軍魔人機、全高六メートルほどの人型歩行兵器が戦場に到着したのだ。
魔人機ソードマンの中隊がマギアライフルやロケットランチャーを武器に敵集団へと攻撃を図る。
だがケルンの表情は晴れない。その程度の火力では焼け石に水だ。
航空隊は? 航空隊はどうしたというのか? エクスプロード爆弾は?
この時、北方軍の航空隊は、大帝国の空中艦戦隊の迎撃に出ていて、地上支援に戦力を振り向けることができなかった。
空中からの一方的な爆撃を許容できないジャルジーは、航空隊を艦隊に差し向けたのだ。その結果、想像以上の進撃速度を持つ帝国魔獣群が、地上部隊を食い破ろうとしていた。
だが、その時、平原を進む巨大な物体が戦場に現れた。
それを見た王国軍兵士たちは言葉を無くし呆然となる。のちに生き残った兵士の言葉を借りるならこうだ。
『城壁が動いている』
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