第796話、キャラバンイーター
ポイント・エーデに到着した俺たちと、クラージュの面々。
外壁に囲まれた拠点、SS兵の警備する門を通過すると、中央に真っ直ぐ道があって、そのまま反対側にある門が見える。
拠点中央には本部となる建物があり、冒険者ギルド、エーデ支部が建っている。その裏手には駐車場や拠点警備隊の兵舎やゴーレム待機所、旅人向けの鍛冶屋などがある。
一方で表は、建物もなく広場となっている。いわゆるキャンプ地で、当面は冒険者たちには野営してもらい、商人らの馬車などの駐車場なども停められるスペースを確保した。
まだ本格スタート前なので、管理するシェイプシフターたちしかいないかと思いきや、ポツポツとキャンプしている冒険者たちがいた。随分と耳の早い奴もいたものだ。
休憩は取る必要はないな。ノイ・アーベントを出て、まだ十数分。そのまま真ん中を突っ切って、ポイント・エーデを通過。街道に沿って、トキトモ領南端へ。そこからクレニエール東領へと入る。
特に検問があるわけでもなく侵入。まあ、仮にクレニエール領の兵士がいても、トキトモ領からの冒険者には通行税などは免除されている。侯爵とはそう話し合っていた。
「東領に入ってから、ずいぶんと道が荒れてますね」
ルングが覗き込むように周りの景色を眺める。ヴォード氏は笑った。
「そりゃあトキトモ領の街道の出来がいいからな。むしろ、東領の道のほうが一般的だろう。……それにしてもジン。この装甲車は揺れが少ないな!」
「足回りで衝撃を吸収してますからね」
「下手な馬車より乗り心地がいい」
一応、揺れてはいるが、ショックアブソーバーとゴムタイヤが働いているからな。そもそも馬車のホイールはタイヤがない。だから舗装された街でもない限り、基本、乗り心地はよろしくない。
さて、東領に入ったということは――。
「一応、うちの領はハイウェイ・パトロールがいて、魔獣とか追い払っていたけど、こっちからはそういうのがないから、皆、警戒はしてくれ」
町や集落を出たら、いつ魔獣と出くわすかわからない。獣がー、盗賊がー、とかいうのは、俺のいた世界でも中世あたりは普通にある話だった。だから城壁で居住場所を囲っていたわけだけど。
クラージュの面々は、デゼルト型装甲車から周囲を見張る。相変わらず装甲車は進んでいるが、路面状況の変化から速度が若干下がっていた。小高い丘がいくつも見えるが、街道を挟んで北側が草原、反対の南側は草木もまばらな平原が広がっている。
では、俺は現地に同行した目的のひとつをこなすことにした。データパッドをストレージから取り出し、通信を開始。データリンク――監視ポッドの観測データを転送してもらう。
……おうおう、上空からだとよく見えるな。デゼルトが点のようだ。……もう少し見やすくするために拡大するか。
「ジン、何をやってるんだ?」
ヴォード氏がデータパッドを覗き込んでくる。顔が近い。身体もでかい。
「魔法具ですよ。このあたりの地形の確認と、魔獣などを探すためのね」
「まーたビックリ魔法具か。……それで魔獣はいたか?」
「ここから南西に一体、そこそこ大きいのがいますね」
街道から外れますが、と一言。ヴォード氏は口元を歪めた。
「なら、さっそく狩りに行こう。魔獣討伐がオレたちの仕事だからな!」
運転手! ――デゼルト型装甲車はターンし、街道から出た。さらに地面でこぼこが増したが大したこともなく、発見された魔獣を目指した。
・ ・ ・
最初に出くわしたのは、サイに似た角を持つ魔獣だった。
キャラバンイーター。隊商の馬車に突っ込んできて暴れるところからそうつけられている。間違いなく、旅人にとって危険な魔獣だ。
この装甲車にも突進をかましてきた時は、その巨体と相まってちょっと耐えられるか不安になった。……SS運転手は、さっさと突進を避けたんだけどな。
俺とベルさんは必要なら援護という形で、ヴォード氏たちに魔獣相手は任せた。事実、Sランク冒険者にとっては朝飯前だった。
ヴォード氏による豪快なる一刀両断。ルティたちパーティーメンバーは呆れ半分、こっちにも回せと不満の声。
車上から見守っていたベルさんも苦笑。
「これじゃ、参考にならんな」
「いや、ベルさんだって、マルカスたちの前で、今のと同じことやってたからね」
大空洞ダンジョンのフロストドラゴンの首と胴を切断してしまった人である。
さっさと片付けてしまった後は、解体作業。俺は監視ポッドの転送画像から、魔獣の索敵をする一方、ドンドン分割されていく魔獣。
ルングが重い息を吐いた。
「これ全部持っていけるんですか?」
「ああ。収納庫に全部入るぞ」
俺が適当に答えれば、車体後部に上がったルティが、ルングを招いた。
「ほら、さっさと部位を持ってくるんだよ!」
「これまでは全部運べないからって、解体する部位は少しだけだったのに……」
「これからは全部持って帰れるぞ」
ルティがルングから魔獣の解体された胴体を受け取ると、異空間収納ボックスへと運ぶ。
「へぇ……手ぇ、突っ込むとこんな感じなんだ。見えないけど、何か物がわかるってすごいな……」
などと感想が聞こえた。なー、不思議だろ? 俺もそう思うよ。
ルティが収納庫に入れ、地面と装甲車で高さが違うので、間に長身のヴォード氏が入り、解体素材をルングが車まで運ぶ。フレシャとフィアトは警戒。
「なんか、オレだけ運ぶ距離長くない!?」
「頑張れー、若いの」
ヴォード氏の棒読み調子。ただ彼が間に入ることで、ルングは荷物を大きく持ち上げる必要がなく、ルティもまた屈む必要がない。双方にとって腰や腕に優しい配置だった。
作業が終わり、再び移動開始。体躯のでかい魔獣は、解体したとはいえ、往復回数も多かったからルングなどは疲れていた。ラティーユが優しく治癒系の疲労回復魔法をかけていた。
ルティが何か言いかけるが、ヴォード氏はそれを制した。たぶん、だらしない、とか言おうとした彼女を、やんわり止めたのだろう。
さっきルングも言っていたが、普段は倒しても全部持ち帰るなんてことはしないから、いつもより余分に動いているのだ。ある意味、疲れて当然である。
「しかし、便利なものだな」
と、ヴォード氏。
「魔獣を全部持ち帰れるってことは、買い取りで冒険者の受け取り分も増える」
「いつもは優先順位を決めて、泣く泣く捨てていた分も、運べるんだからなぁ……」
ルティは、収納庫に視線を向けた。
「結構、肉があるけど、キャラバンイーターの肉ってうまいのかねぇ?」
「ちゃんと血抜きすれば、魔獣の肉は大抵食えるぞ」
俺はデータパッドから目を離した。
「でも、そうだなぁ。丸々一頭持ち帰れるなら、食糧事情も変わるなこりゃ。そのうち、魔獣肉専門の料理屋ができるんじゃないかな」
「それは面白いな」
ヴォード氏が笑みをこぼせば、フレシャとフィアトの獣人コンビもブンブンと頷いた。
「倒した魔獣の肉って、ほとんど捨てられてましたからね……。これが普通に食べれるようになったら……」
一瞬、全員の顔が緩むのを、俺は見逃さなかった。
その後、適当に数時間さまよって、ラプトル型や虎型の魔獣を討伐した後、その魔獣肉を豪快に焼いた昼飯を食べ、ポイント・エーデへと帰還した。
討伐するより、解体と収容に時間がかかったな、というのが、俺の感想である。まあ、いい視察になった。俺としても収穫があった。
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