第794話、陸上艦と偵察ポッド


 ヴェリラルド王国北部に隣接するシェーヴィルの大帝国軍に動きあり――SS諜報部の報告が入った。


 敵は諜報部の把握していない秘密ルートを使ってMMB-5なる魔獣生成装置を獲得した。これを用いれば、突如、万の軍勢が戦場に出現することもあり得る。

 防衛体制が整っていなければ、あっという間に生成された魔獣の大群に蹂躙じゅうりんされてしまうだろう。


 俺はノイ・アーベントから、ウィリディスへ移動。定例となっているエマン王への談話時間――という名の報告と今後についての話し合いで、敵の攻撃の予兆を報せた。なお、北部方面の守備を担うジャルジーも、この時、俺たちの元へきて話に加わった。


「北部の守りは、戦闘機、戦車、砲兵に魔人兵部隊で対応できる」


 ジャルジーは、新作のミントアイスに微妙な表情を浮かべつつ、そう言った。俺はコーヒーを、エマン王はエルフ産の紅茶と、パンケーキをいただいていた。


「しかし、その魔獣生成装置とやらは厄介だな。いかに砲撃を持ってしても、数を頼みにしてきたら防ぎきれないかもしれん」

「たぶん、難しいと思う」


 俺は率直に告げた。アリエス浮遊島を掌握前、魔獣生成された大群と交戦する機会があったが、戦車や機関銃でも、阻止できない予感があった。あの時は、俺の掃射魔法で一掃して事なきを得たが。


「俺が掃射魔法を使うことで大半はやれるだろうが、大帝国の連中の前では使いたくない」

「ジン・アミウールの存在」


 エマン王も頷いた。


「大帝国にそれを知られた場合、連中はいよいよ我が国を集中的に叩きに来るだろう」

「それだけ兄貴の存在が敵にとって厄介ということだな」


 ジャルジーは、やはり首をかしげながらミントアイスを食べている。


「だが兄貴なしではこの国は生き残れん。オレは兄貴と心中する覚悟だ」


 よし、増援を送ってやろう。――とまあ、それはさておき、いざという時、人間というのは何をしでかすかわからない。国のために、もしかしたらジャルジーやエマン王が俺を切り捨てることはあるかもしれない。


 まあ、俺も人を見限ることもあるから、お互い様ではあるが、少なくとも普段から俺の味方であると公言する人間は、大切にしたいと思っている。


「ウィリディス軍を動かせば、現状の戦力でも守り切れると思う」


 開戦時に一度、大帝国西方方面軍を壊滅させているからな。


「しかし兄貴、王国東部の守りがあるだろう? ノベルシオン」

「彼らは戦力を集めてはいるが、いつもの魔獣攻勢もあって、こちらに攻めてくるまでにまだ時間的余裕がある」

「だが、ノベルシオン方面からMMB-5を使われる可能性は?」

「帝国が彼らにそれを渡すことはないと思う。ノベルシオンは捨て駒だからな」


 だが懸念けねんはもっとも。


「ノベルシオンが使わなくても大帝国が使うことは十分に考えられる。帝国の空中艦が運んでこないか動きには注意を払っている」

「そうか。ならいいんだ」


 ホッとしたようなジャルジー。エマン王が口を開いた。


「ジンよ。先日、計画案を見せてくれた陸上艦隊構想だが……その進捗はどうか?」


 ジャルジーも期待の視線を寄越す。

 計画はしたものの、その実現に少々トラブルがあって、存在も危ぶまれた城塞艦案。しかし――。


「課題だった城壁移動の問題は、一応クリアしました。まあ、発動までのタイムラグが発生してしまいますが、計画通り『敵を押し返す』戦法は可能です」


 おおっ、と聞いていた二人は声を上げた。


「ならば、魔獣の大群がこようとも逆に蹂躙してやることも可能か! さすが兄貴だ」

「問題は、北方の大帝国の動きだな。城塞艦が到着前に敵が攻めてきた場合……」


 エマン王の視線が、ジャルジーへ向く。


「困難な防衛戦となろう」



  ・  ・  ・



 トキトモ領キャスリング地下基地。ウィリディスから移動した俺は、エマン王たちと話し合った陸上艦、城塞艦の最終艤装を確認した。


 強襲揚陸艦をコアに、移動する城壁艦を接続した城塞艦が一隻。その護衛と援護を担当する陸上駆逐艦が二隻である。


 なおコアシップである強襲揚陸艦だが、アルトゥル君から『外見がシャドウ・フリートやファントム・アンガーと同じ艦を使うのはまずいのでは』という指摘が入り、大幅に形を変えることになった。


 すでに改装した艦をまた改装をするのもアレなので、捕獲して改装予定だった輸送艦を使って、外観をまったく別モノへと変えてやった。おかげで時間がかかってしまったけどね。


 さて、MMB-5のせいで、就役を早めることになった陸上艦隊とは別に、監視衛星もどきの、偵察ポッドの様子を確かめる。


 俺のいた元の世界では、宇宙まで無人の偵察衛星を打ち上げたが、まだ宇宙開発なんて遠い話で……いやまあ実際、ヴァンガードという万能巡洋艦があり、ディアマンテやアンバル級などの航空艦は宇宙に出ることも可能らしいが。


 宇宙云々はとりあえず後回しであり、今はもどきの偵察ポッドを高度数万メートル付近に浮かせて、地上を監視させている。

 以前から展開していたが、今回のは最新型への更新だ。しかし大帝国や連合国はもちろん、大陸の広い範囲を数でカバーするために、低コストで揃えられるようシンプルな作りのままである。


 当然ながらトキトモ領でもリバティ村やアンノウン・リージョンの監視、クレニエール東領の調査開拓、魔獣討伐にも、この偵察ポッドは使われる。冒険者たちに装甲車を貸すわけで、その動きをトレースして、救援時の対応や、盗難された時の追跡に用いる予定だ。

 新型偵察ポッド作りを任せたドワーフのノークに話を聞く。


「いやまあ、わしは、ジン様の設計図通りに部品をはめ込んだだけですし」


 ポッド型のボディの中には浮遊石、頭脳となるゴーレムコア。大気中の魔力を収集してエネルギーに変換する装置、地上を監視するカメラやセンサーも、他で使ったものをそのまま載せている。

 これまで作ったもので流用可能なものをどんどん使った結果、パーツの寄せ集め感が凄いことになっていたりする。


「作り甲斐がなかったかな?」

「まあ、ジン様はお忙しいですからな。わしらで、そういうところをお手伝いできれば」

「うまい酒を用意しよう」

「ありがとうございます」


 ノークは笑ったが、そこでふと真面目な顔になった。


「わしも、独自に色々考えておるのですが、お時間のある時に聞いてもらっても?」

「もちろん。俺も作る側の人間だから、ぜひ聞きたい」

「……ガエアの奴が、エルフ用魔人機の外装を作っとります」


 ウィリディスで働くエルフの魔法技師の名前が出た。魔法甲冑の生みの親というところだが、彼女はこのノークとも中々因縁があるようで。


「わしも、ドワーフとして負けてはおられんのです」


 なるほど。創作魂に火がついたらしい。その折はお付き合いしましょう。


 新型監視ポッドことRP-2を偵察飛行隊に手分けして運んでもらい、俺はヴォード氏たちとの約束のためノイ・アーベント冒険者ギルドへと向かった。

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