第793話、新たな道標
「いったいこれは何だ……?」
リーレの呟きは、この場にいた皆の言葉だったかもしれない。
遺跡最深部の天井に映し出された世界地図。そこに何らかの印じみた光点が複数……八つ映されている。大陸の東西、連合国の近くにあれば、大帝国に近い場所も。……おや、ひとつはエルフの里にあるな。他には大海の真ん中にも――。
「ブラオ、記録」
『すでに録画中です』
スクワイア・ゴーレムのブラオが答えた。手慣れているのか、仕事が早くて、俺は感心する。
「何かを指し示している、な」
「お宝の地図か?」
ベルさんが冗談めかせば、
「魔法文明時代の遺跡の場所かも……」
「七……八つって少なくねえか?」
リーレが言えば、ダスカ氏も首を捻る。
「何か関連があるとは思います。先ほど、謎の浮遊島が映っていましたが、あれか、それに関係があるものの手掛かりかもしれません」
「まあ、調べてみればわかるだろうな」
俺は、リーレと橿原を見た。
「君たちが次に調べるのは、あの地図上に表示された光点の場所に何かあるか、だな」
「ま、何かあるかわからないが、他に優先するような手掛かりがあるわけじゃねーし」
リーレは端末のような板を見つめた。
「行ってみるっきゃねえな。なあ、トモミ?」
「そうですね」
いつもの眼鏡少女に戻っている橿原は笑みをこぼした。元の世界に帰る方法を見つけるために。
その道が、行く先にあると信じて。
・ ・ ・
その後、ゲルリャ遺跡の台座の映像は途絶えた。長年の劣化、魔力不足……原因は色々あれど、最低限の記録はとれたと思う。
遺跡内をさらに調査。大抵この手の遺跡は墓荒しにやられているものだが、魔力を鍵とする封印がいたる所にあったために、それほど荒らされていなかった。
古代魔法文明の装飾品や魔法具、特に魔法の杖関係が多く回収できた。当時信仰されていたと思われる神様らしき像があったが、隠れ僧院かそれ関係の施設だったのかもしれない。朽ちていないものは保護の魔法がかけられていて、魔力を補充してやればすぐに使えそうなものも多かった。
ひと通りの調査の後、大帝国が戻ってきて遺跡を調査する時に備えて、シェイプシフターを置き土産に配置しておく。連中の動きや情報がつかめれば、と思う。何せ今回動いていたのは、皇帝親衛隊だったからな。
青の艦隊とワンダラー号は、アリエス浮遊島に帰還。グアラン研究所を破壊した後の、ひと合戦。そして調査と、中々ハードな一日だった。
ダスカ氏とリーレ、橿原は、遺跡からの情報をまとめつつ、今後の探索方針などを話し合うようだった。俺としても、あの謎地図の印を見た以上、ウィリディス軍を使って協力する。
しかし、皇帝親衛隊か……。大帝国も古代文明時代の遺産探しに本腰を入れているということか。いや、以前から調査していたのは知っている。
だが、さすがにリーレと橿原のワンダラー号のみでは、今回のような衝突になったらまずい。遺跡調査を補佐、支援する部隊を作る必要がある。
今もシェイプシフター兵が数名ついているが、小規模艦隊くらい待機させるべきだろう。航空戦や艦隊との遭遇に備えて、軽空母と護衛艦艇、揚陸艦を即応できるようにしたい。
とりあえず、修理した『ビンディケーター』を中心に、ゴーレムエスコートを数隻まわそう。強襲揚陸艦はどうしようか。今、改装しているやつをそちらに付けるか。
・ ・ ・
ノイ・アーベントにヴォード氏と、その仲間たちがやってきた。
ヴォード氏の娘さんであるAランク冒険者ルティと、その仲間であるルングとラティーユ、フレシャ。あと知らない魔術師が増えていた。灰色髪に魔女の被る三角帽子の女魔術師でフィアトというらしい。
「は、初めまして、トキトモ侯爵閣下!」
「どうぞよろしく」
いやはや、初対面であるフィアト以外は、随分と懐かしく感じた。彼、彼女らとしばしの歓談。
「おう、ルング。お前Bランクになったのか! Eランクから一年も経たずにBとか、大躍進じゃないか!」
「いや、半年以内でFからSランクに上がった人もいらっしゃるので、オレなんてまだまだです」
「はて、そんな奴がいたのか。そんな異常な奴と比べてはいけない」
その異常な奴というのは俺のことなんだけどね。あの悪ガキじみた冒険者も、それなりにベテラン感が出て、俺は目を細める。
そして彼の幼馴染みのラティーユ。こちらのBランク。だが気のせいか、以前よりさらに美人になったというか。その立派なお胸も少し成長したような。
……そういえば、ルングとラティーユって付き合ってるんだっけか。以前、ルングに恋愛相談されたけど、あれからうまくやったのかね? ……まあ、一緒にいるってことは悪い関係ではないだろうけどな。彼氏なしなら、以前の俺なら口説いてたな。
貸し住居に案内がてら、ノイ・アーベント内をご案内。王都とはまったく異なる店や建物に、ヴォード氏を含め、一同びっくりしていた。ヴォード氏とルティの驚いた顔は、親子だな、と思わせるほどそっくりだった。
そしてフードコートで、初めてのお食事。本日も多くの人で賑わい、やや手狭だが、色々な種類の料理が選べるとあって、ルティたちの目がせわしなく動いた。
「すげぇ、何なんだよこれ! あれも美味そう、いやこっちも……どれを選べばいいんだ! なあ、親父!」
「全部食べればいいんじゃないか?」
「そうか! よし、全部頼もう」
「何言ってるんスか、周りの量を見てくださいよ!」
ルングがすかさず突っ込んだ。
「量も多いですって! 全部なんて食べきれませんよ」
「しかしなぁ、ルング。こんだけ美味そうな匂いが漂ってるんだぞ? いけるって。なあ、ラティーユ?」
「いや、無理ですよ」
苦笑するクレリックのラティーユ。フィアトは……ヨダレヨダレ! フレシャは……ああもう勝手に始めてる。
何だかんだで、初のノイ・アーベント体験をなさっている御一行様。
新しくできた冒険者ギルドの建物の前を通りかかった時、ヴォード氏は俺に言った。
「そういえば実際に装甲車に冒険者を乗せて走らせたことは?」
「翡翠騎士団時代に俺たちがやっていたのと……ああ、そういえばヴォードさんも経験しましたよね」
「そうだったな。だが実際に乗ったことのない奴のほうが多いからな」
ちら、とルティや仲間たちを見るヴォード氏。
「どうだろう? 本格運用の前に、テスト試乗するというのは?」
「……本当はあなたが乗りたいだけでしょ?」
そっと視線をあらぬ方向へ逸らすヴォード氏。すっとぼけていらっしゃる。
しかし、未経験者が多く乗ることになるから、冒険者視点での感想をもらうのは悪くない案だ。
というわけで、採用だ。
明日、ポイント・エーデを経由し、軽く東領の探索へ行く約束をして今日のところは解散となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます