第792話、ゲルリャ遺跡深部の謎
大帝国軍は撤退した。
クルーザーは全艦撃沈。地上兵力も、そのほとんどが撃破され、敗残兵が散り散りとなって逃走した。
俺たち青の艦隊の勝利である。
ゲルリャ遺跡に入り、俺はリーレと
「君らを追い詰めるなんて、どんな相手だったんだ?」
「サフィールって名乗っていました」
魔法武器を扱う魔法騎士のようだった。……そいつなら会ったことはないが知っている。皇帝親衛隊のサフィール将軍。銀髪で、胸が大きくて、絶世の美女という評判だ。
「よく知ってますね」
「大帝国の情報収集はな」
記憶の中にある一度はお目にかかりたい美女目録に入っている、とは言わないでおこう。特に、リーレと橿原が怪我を負わされた相手だから、冗談でも言えない。
手当てをしていると、アーリィーとダスカ氏が増援のシェイプシフター兵と共に到着した。
リーレが指を鳴らした。
「ちょうどいいところに来てくれた先生。この遺跡の謎解きを手伝ってくれよ」
早速、ダスカ氏に壁の古代文字と、何らかの装置と思われる台座を見せるリーレ。アーリィーは橿原のところに来ると「大丈夫だった?」と声をかけて、無事だとわかると二人で遺跡深部を眺めた。
俺はその間に、青の艦隊旗艦『ノードゥス』のイズムルートと交信し、詳細な戦闘報告を受ける。
戦闘機三機、タロン艦爆一機、イール艦攻二機を喪失。……とうとうイールに撃墜された機体が出たか。
陸上部隊は簡易魔人機ファイター一機が全損。四脚戦車『インセクト』と共に損傷機が複数出たが、いずれも修理可能とのことだった。
四脚戦車インセクトは、二十ミリ機関砲とマギアカノーネをメインにする軽戦車であり、装甲物への攻撃はあまり得意ではないが、対歩兵で恐るべき掃討能力を示したと言う。
ファイターは、鉄鬼ゴーレム相手には囲まれない限りは問題ない戦闘力を見せた。だが敵の魔人機を相手にした場合は、武器と操縦士の技能が物を言うことになるのではないか、と言われた。要するに、スペック面は互角ということだろう。
ひと通り報告を受けた後、俺は、遺跡の装置について議論している場へ足を向けた。ちょうど黒猫姿のベルさんが姿を現した。
「どんな様子だ?」
「さて、どうかな」
よっ、と俺の肩にベルさんがよじ登る。リーレの声がした。
「……今までのパターンだと、これは映像を投影する装置なんだよ。だからどこかに制御パネルがあるはずなんだ」
「映像投影装置?」
「魔法文明時代の記録映像を、これまでの調査で見たんです」
橿原がささやくように俺に教えてくれた。
「何か重要な映像は?」
「今までは特に。ホームビデオとかニュース映像みたいなのを見たんですけど、言葉がわからなくて、さっぱりだったんです」
「へぇ……」
俺は肩の上のベルさんを撫でた。
「ベルさんなら何を言ってるかわからないかな?」
「うーん、生きた魔法文明人のひとりでも会えばわかるんだがな」
ちなみに、俺がこの世界の言語に適応できたのは、ベルさんとの契約の副産物だったりする。今でも、ベルさんが交信できる相手なら、俺もその人物の言語を話すことができる。
「ちなみに、ジン。あの壁の一角、魔力が宿っているブロックがあるぞ」
前足で器用に指すベルさん。見た目、何の変哲もない岩壁で目印のようなものがあるわけではない。俺も魔力眼を使えば……ああ、確かに魔力が赤く光って見えた。
探していたパネルの手掛かりかね。それをダスカ氏とリーレに教える。
「罠のスイッチじゃねぇだろうな……?」
これまでの遺跡探索で、魔力付きブロックがトラップのスイッチだったことがしばしばあったらしい。ベルさんは笑った。
「心配ねえよ、そいつは罠じゃない」
「では大丈夫ですね」
ダスカ氏が手を伸ばし、石ブロックに触れて確かめた後、押し込んだ。
すると深部内に何やら仕掛けが動く音がして、台座のそばから小さな柱がせり上がってきた。高さは一メートルと少し。探していた制御パネルのようだ。
「おう、これこれ」
すかさずリーレがパネルに歩み寄り、ぽちぽちとボタンを押す。
「……ちゃんとわかって操作しているんだろうな?」
俺は首をかしげる。あまりに迷いなくやってるみたいだけどさ。
「んなもん、適当だ。まあ、これまで見てきたやつとほぼ同じだから、まったく手探りってわけじゃないけどな」
いいのか適当――まあ、操作パネル自体がトラップなんてことはないだろうけどさ。ただリーレの言葉に嘘はなく、起動音が室内に響いた。
軽い振動、そして台座の上、正確には天井に映像が映し出された。まるで映写機からスクリーンに映像が映されるように。
自然と見上げる格好になる俺たちは、息を呑んで見守る。
巨大な島――浮遊島だろうか。アリエス浮遊島とはまた違った形のものが映し出されている。ファンタジーチックな宮殿があって、機械文明時代とはまた違う雰囲気がある。
そして空中艦らしき姿もあった。こちらも見たことがない型だ。帆船に似た型もある。おそらく魔法文明時代の代物なのだろうが、その文明にも空中艦はあったのか……。
待てよ。あの帆船型は、どことなくエルフが保有していた浮遊船に似ている気がする。
ふと、リーレがいじっていた制御パネルが音を立てて、板状のものが飛び出した。カードのような、モバイル端末のような。
さっそくリーレがそれに触れるが、どうやら抜けないようで。
「うーん……これ、何かの装置っぽいけど、はずせないのかなぁ?」
「魔力を通してみては?」
ダスカ氏が助言した。
「魔法文明時代のロックは、大抵魔力を流すことで解決します」
「なるほど。そういや、そうだった」
覚えがあるようで、リーレは自身の手を通して魔力を板状のそれに流した。外枠の一部が黄色に点滅を繰り返す。
「やべぇ、これ、ごっそり魔力を持っていかれるな」
口調とは裏腹に涼しい顔のリーレ。この異世界から来た不死身の魔獣戦士は、その秘めた魔力もまた莫大だ。アーリィーが進み出る。
「ボクが代わろうか?」
魔力の泉スキル持ちのアーリィーである。リーレは首を横に振った。
「大丈夫だよ、姫さん。でもこの魔力の吸い取りは、どんだけ厳重なロックなんだ?」
「それだけヤバイものってことだろうな」
俺は天井に映し出されたままの浮遊島――これもまたひとつの浮遊要塞を見やり、パネルへと視線を向けた。
「案外、あの島の鍵だったりして」
とか言っている間に、板状のそれの点滅が終わり、ガチャリと制御パネルから抜けた。
「おっと!」
力を入れていたのか、リーレの身体が一瞬泳いだ。そして次の瞬間、天井の映像が世界地図に切り替わった。そして複数の光点が新たに出現した。
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