第790話、青の航空隊
ゲルリャ遺跡の最深部にたどり着いたものの、大帝国の大部隊が迫っている。遺跡奥に待避したと言えば聞こえはいいが、敵が乗り込んでくるという状況では、退路がないに等しい。時間の問題なのだ。
橿原は眼鏡を外している。それは彼女にとって単なる女子高生から戦士に気持ちを切り替えるスイッチのようなものだ。
猪股流格闘術の『突角』ランクの異形狩り。常人を遥かに凌駕する力を持つ橿原は、リーレ同様、大の大人が束になろうと蹴散らせる。世の中にはもっと怖い化け物がうようよしているのだ。……メタなことを言えば、異世界ラノベお約束のトラックも素手で吹き飛ばせる橿原である。
「なあ、トモミ……お前、よく落ち着いていられるな」
リーレが、自分を落ち着かせようと、その場で軽いジャンプを繰り返している。準備運動みたいなものだ。いつ敵がやってくるかわからないが、やってきた時にすぐさま反撃できるように、だろう。
「怖い云々なんて、いまさら言っていられませんからね」
「ほんと、戦う時と普段のギャップ激しいのな、お前」
「そうですか?」
「ああ、頼もしい」
ニヤリと眼帯の女戦士は笑った。
「さすが相棒だ」
「時々自分でも別人じゃないかって思うことはありますよ」
眼鏡をとると、目つきが鋭くなると言われる。伊達眼鏡であまり関係ないはずなのだが、そういう目つきの悪さを緩和することができる気がするアイテムでもあるから、眼鏡は大事にしている。
「わたしは、元の世界に帰りたい。そのためなら、どこまでも生き抜いてやるって決めましたから」
橿原は、リーレを見つめる。
「で、もうパネルは探さないんですか?」
「いやもう、どうしていいかわかんないからさ。頭空っぽにしてよく見るようにした」
腕を組んで、首をかしげるリーレ。橿原は言った。
「ひとつ思ったんですが、あなたの乗っている台。それが何らかの装置だとしたら、制御パネルは台の上ではなく、それが見えるこの部屋のどこかだと思いますよ」
「……なるほど」
ひょい、っとリーレは台座から飛び降りた。
まさにその瞬間だった。激しい轟音とともに震動が襲ってきて、深部の壁、その一面が派手に吹き飛んだ。
台座の陰にとっさに引っ込むリーレ、そして橿原。飛散した岩や砂が降りかかる中、揺れも音もなくなると、場はしんと静まり返った。いや、リーレが咳き込んだ。
「何だってんだ……? あー、部屋が明るくなってね?」
橿原は、すっと台座の陰から頭を出す。壁の一角が綺麗さっぱりなくなり、外からの日差しが入り込んでいた。リーレが声を荒らげる。
「嘘だろ? ここ遺跡の奥だぞ!?」
山を削った、いや吹き飛ばしたのか。先ほどの衝撃の大きさ、そうとしか考えられない。
「こんなことができるのは――」
「大帝国の仕業しかねえってか? ルータ、スーク! 生きてるか!?」
「大丈夫です、姉御!」
二名の男冒険者――に擬態しているシェイプシフターは答えた。その時、すっと外の光が一瞬遮られた。
「どうやら団体さんがお着きのようだな」
リーレが魔法剣を抜き、橿原も戦闘鎧『
・ ・ ・
青の艦隊は、ゲルリャ遺跡上空の大帝国クルーザー戦隊を捕捉した。
俺はドラケンⅡのコクピットにいた。操縦計はトロヴァオンとほぼ同じ。こいつを飛ばすのは初めてだが、搭載している
『本当は、ボクも行きたかったんだけどね』
通信機ごしに、アーリィーが不平をこぼした。俺は苦笑する。
「君は研究所で結構やられただろう? 治癒魔法と魔法具で問題ないって言ったって、完全にダメージが抜けてないかもしれない。大人しく留守番してなよ」
そういう時に戦闘機に乗ろうというのは、死亡フラグってやつだろう。アーリィーには死んでほしくないから、無理はさせない。ここ最近は、色々ケチがついているから、大丈夫だろうという慢心で、後悔したくはない。
「ベルさん、マルカス、行けるな?」
『オレ様はいつでもやれるぜ』
『こちらも問題なしです』
俺がドラケンⅡで出撃するが、ベルさんとマルカスの中隊もまた参加する。ベルさんは心配ないが、マルカスもグアラン研究所襲撃の際の近隣駐屯地攻撃で、連戦である。
「ソーサラー改め、ウィザード1、発進する」
ドラケンⅡの浮遊装置を発動。空母ノードゥスの駐機甲板から、ふわりと浮かぶドラケンⅡ戦闘機。青の艦隊航空隊用に、濃い青で塗装された機体だ。
続いて、ベルさんのウィザード2、マルカスのウィザード3が甲板を離れる。
ドラケンⅡが十二機、ストームダガー戦闘機が二十四機が発進。地上部隊支援用にタロン、イールがそれぞれ十二機ずつ発艦した。
その地上部隊だが、揚陸艦『フォーミダブル』は新型の四脚軽戦車『インセクト』と、廉価兵器製造計画で作り出された簡易AS『ファイター』、その先行型を積んできている。
「まずは艦隊を排除しないとな。全戦闘機、攻撃態勢」
『ウィザード各機、敵艦隊より、航空ポッドが接近中』
空母ノードゥスからの報告。帝国さんも、どこに行くにしてもポッドがお供につくようになったな。自力で戦闘機を作るまでの繋ぎだろうが、非常に作りやすい兵器であるのは、俺も認めている。
だがベルさんの意見は違うようで。
『
「全部で三十機。しかも……改良型か?」
ナビが表示した照合記録によれば、最近、諜報部が報告してきた航空ポッドの改型のようだ。エンジンの出力が上がり、速度が上がっている。
「連中、こっちへ向かってきているな」
待ちではなく、積極的な迎撃の様子。ではこちらも応戦しよう。
「せっかくの新型だが、先制する。AAM、準備」
空対空ミサイルで先制パンチ。格闘戦になる前に数を減らす。何の捻りもない手法。かつて魔法騎士学校で、騎士生徒たちのワンパターンぶりを嘲笑した俺だが、これでは彼らと変わらんな。
まあ、さっさと空中の敵を片付けてやろう。地上部隊が、遺跡の周りにいる敵を攻撃する手筈だが、リーレや橿原を早く助けにいってやりたい。だから、戦闘機に乗ってきたんだけどね。
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