第779話、そもそも冒険者ギルドって
冒険者ギルドを立ち上げるに当たって必要なことは何か?
拠点となるギルドを建てる場所の領主に申請して、許可を得ればいいらしい。
はい、俺、その領主です。そういえば冒険者ギルドに登録して、Sランク冒険者になったはいいけど、実はよく冒険者ギルドのことをよくわかっていなかったりする。
教えて、ラスィアさん。
「冒険者ギルドは、その地域の魔獣討伐や、魔獣絡みの案件を専門とする武装集団ですね」
要するに、魔獣駆除業者みたいなものらしい。掲示板なんかには様々な依頼があるから、魔獣討伐が主だけど、何でも屋みたいなところもあると思っていた。
「領主の許可がいるというのは?」
「魔獣を討伐するのが領主の騎士が担うのか、あるいは魔獣に詳しい者たちにやらせるか、の違いです」
つまり軍備に優れ、自分のところで魔獣の始末がつけられるなら、冒険者ギルドはいらない、ということらしい。
「ですが現実には、貴族にしろ騎士にしろ、裕福な者ばかりではありませんから」
武器や防具の調達、手入れというのも金がかかる。貧乏領主は、魔獣討伐のたびに部下に報酬を出していると財政が火の車。またその部下にしろ、魔獣との戦いで武具の消耗が激しくなれば、買い換えやメンテでやはり金銭に余裕がなくなる。
「だから『魔獣退治は専門家に任せよう』という考えから始まったのが、冒険者ギルドの元となった組織なのです」
魔獣討伐で貴重な騎士の損失を嫌った、という面もあるらしい。
結果、魔獣がいたら困るという人たちにも金を出させて、負担を分担させようとしたわけだ。
最初は傭兵や狩人、はぐれ騎士が魔獣討伐を行ったらしいが、次第に『冒険者』を名乗り、紆余曲折を経て、現在に至る。
この世界では、それが地方領主たちにウケたらしく、魔獣討伐というケモノ狩りを冒険者たちに任せるようになった。
実際、ダンジョン・スタンピードなどの大規模災害は、地方領主はおろか、国が軍隊を派遣しないといけないレベルなのだが、そういう事態に備えて、冒険者の戦力強化や、ギルド間の戦力移動などが行われるようになったという。
もっとも、権力者たちは、実力者が他所に流れるのは好ましく思っていない。移動はあくまで国内に限定され、他国への移動は特別な許可がない場合は認められない場合がほとんどらしい。
まあ、冒険者ギルドといっても、国や地方によって細かなルールで差異がある。たとえば戦争があった時、領主軍に参加するとか、魔法武器を一定数保有する場合、税金をとられるとか、一定ランク以上の者が他所へ移籍する場合は高額な移籍金を払うとか。
ほぼ共通しているのはランク制度。他所から来た助っ人冒険者の強さの目安とするため、このあたりの基準はほぼ共通としましょう、という暗黙のルールがあるらしい。
実は、冒険者ギルドというのは人間関係を除けば、ギルド間の横の繋がりというのは、あまりないらしい。
昨年の隕石がキャスリング領に落ちた時、王都冒険者ギルドが、現地に近いギルドへ支援を送ったことがあったが、あれはヴォード氏と現地ギルドマスターが旧知の間柄だった、という要因が大きかったのだそうだ。同じ会社に見えて、系列会社が違うから直接関係ないってやつに似てるなこれ。
「そういえば、ノイ・アーベントに冒険者たちが来てるけど、あれって問題ない?」
俺も散々、色んなところに移動していたけど、特に何も言われなかったが。……まあ、どこどこへ出かけるなんて、ギルドにいちいち言わなかったんだけど。
「依頼で遠い土地へ行くこともあるでしょう。ジン様はポータルや乗り物をお持ちだから、簡単に遠くへ行きますけど、ほとんどの冒険者は、地元から遠出することはありません」
「いや、現にトキトモ領に来ている連中は?」
「隊商だったり商人の護衛で来ている人たちもいますよ。後は、ノイ・アーベントで売買されている希少な魔法具などを買いにきたとか。でもそういう人たちは、大体は元の所属しているギルドへ帰りますから」
ああ、そうね……。でもそうなると――
「こっちでギルド開いたら、冒険者たちってこっちで仕事できるの?」
所属ギルドから引き抜きだ、とか文句言われない?
「一時的に旅先で仕事するのは問題ありません。長期の滞在などは、冒険者と所属ギルドとの契約上の問題なので当人たちが個々で対応すること。ただ、完全に拠点を移す、つまり移籍となりますと、ギルド間で移籍金が発生したりする場合はありますよ」
ただ、やはりそれぞれのギルドでルールがあるので、話し合いによって解決という形になるらしい。
「つまり、領主である俺が、トキトモ領で冒険者ギルドを開くのは問題なく、またノイ・アーベントに来ている冒険者たちがこちらの出す依頼を受けても問題ない、ということだな?」
「それぞれ冒険者が得られる報酬や権利を守る限り、ですね」
さすが本業のギルドスタッフだったラスィア。答えに一切よどみがない。
「しかしラスィア。ヴォードさんをギルマスにしようって話は難しくないか? あの人、王都冒険者ギルドのマスターではなくなったが、Sランクだ。王都側が移動を許さないんじゃないか?」
「でもジン様は、エマン王陛下と懇意にされていますよね? 陛下が『よし』と言えば、問題ないと思いますよ」
アーリィーの父、エマン王は、将来的に俺の義理の父親となる予定だ。お
なるほどね、この国で、国王陛下が同意する以上に許可が必要なことなどないか。
「あとは、ヴォードさん次第ってことか」
「あの人、しばらく冒険者でいたいみたいですから、ウィリディス料理と面白魔法具があれば、タダでもやってくれますよ」
元パーティーメンバーで、ギルドでも上司部下の関係だけあって、ラスィアはきっぱりと断言した。付き合いが長いからか、割と容赦ないが。
オーケー。じゃ、それはそういうことで。
「次は、補給拠点の場所だな」
俺が机にトキトモ領と周辺の領の地図を広げると、黙って聞いていたパルツィ氏が早速指を指した。
「クレニエール東領と、トキトモ領の境の近くとなると――」
「森があるな」
大森林。さらに東領側に大クレバスが東へと走っているので、陸上からは分断されていると言っていい。パルツィ氏の指がクレバスをなぞり、西へと動く。
「むしろクレニエール本領に近いこのあたりなら、トキトモ領の街道が走っていますから移動には都合がいいですね。拠点を作るならこのあたりがよろしいかと」
そこはクレニエール本領と東領の境目に近い。確かに、うちの舗装された街道を利用すれば移動もかなりスムーズになるだろう。……南の砦からも近いし。
さて、拠点だが、開拓村を作るような感じでいいだろうかな。
村と言えば……そういえばキメラ・ウェポン計画の犠牲者たちが安住できる場所として多種族都市も計画していたのが頭をよぎった。場所を決め、集落作りは始めているのだが……。
視察と、必要なら追加の支援も必要だな。やれやれ、指示を出して放りっぱなしというのはよくないな、本当。
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