第780話、リバティ村へ行ってみた
領境に補給拠点を作るということで、候補地を見る前に、多種族都市――まだ村というか集落の段階なんだが、そちらの視察へと赴いた。
ノイ・アーベントから南街道を少し南下。そこから東へと伸びる街道に沿って、
リバティ村――やがては町に発展することを祈りつつ、開拓を進めている場所だ。リバティとは自由を意味する言葉の一つだが、闘いや運動を通じて手に入れた自由という、努力し苦難を乗り越えて獲得したもの、という意があるという。
差別や種族の壁を乗り越え、頑張ってほしいという意味を込めて、俺はそう命名させてもらった。
現在、ここにはキメラウェポン計画の犠牲者たち、外見が異形や魔獣寄りの人間と、違法に奴隷にされ保護された人間や獣人らが三十名ほどいる。
もちろん、ノイ・アーベント、いやウィリディスから派遣された人材がいて、シェイプシフター兵が警護している。またアミナの森からダークエルフの戦士たちが来て、魔獣狩りや警護で、こちらに手を貸してくれている。
「お師匠」
その派遣人材として俺の弟子でもあるユナが、俺たちを出迎えた。建築コアを使っての集落作りを俺の代わりにやってくれている。ダークエルフの集落の時もそうだったが、最近のユナはこうした開拓や復興支援で活躍しまくってくれている。
丸太の壁の内側には、石と木材を使って立てられた小ぶりだがしっかりした洋風家屋が立ち並ぶ。集落中央にはポンプ付きの井戸があり、集落を見渡せば、監視塔や警備隊の詰め所、護衛の戦闘用ゴーレムが駐機されていた。
なお、村の三分の一ほどは森に突っ込んでいてツリーハウスや泉があった。
開拓をはじめてさほど時間が経っていないのだが、これを可能としたのは魔力を触媒に生成する建築コアのおかげである。ダンジョンコア工法ならではの早業である。
実は、この大森林、魔獣なども活発であり、時々、それらが森から出てくるなんてこともある。……そうした魔獣が豊富な場所というのは魔力も多い。
そこで大地の恵みをお裾分け――つまり魔力を少々いただいて開拓に用いたのである。
ちなみに、リバティ村には風力や火力ならぬ魔力発電機が置いてあって、魔力式電灯や家電を利用できるようになっている。
その分、先にも言ったが魔獣が徘徊する土地ゆえ、警備や防備もそれなりに強化しなくてはならなかったが。
「どんな様子だ?」
「特に問題はありません」
淡々と、ユナは報告した。……相変わらず大きな胸。
「元奴隷たちも安住の地が得られたことを喜んでいます。亜人たちとの関係も、良好です」
「それは結構」
キメラ・ウェポンの犠牲者もひっくるめて亜人と言っているが、ここでの定住条件は、ただ一つ。種族差別はしない、である。最初から他の種族が駄目という人間は、ここに来させていない。
そこへ、ゴーゴン型亜人――下半身が蛇、上半身が美しい女性のリラがやってきた。ひと目みてわかるシルエット。キメラ・ウェポンだったので同じような姿の者はいない。
波打つような長い青い髪、眼鏡を着用。上半身には革の軽鎧を身につけている。
「賢者様」
「やあ、リラ。元気かい?」
「お陰様で。ようこそ、おいでくださいました」
穏やかに微笑むリラ。ここに来るまで、大帝国の魔法軍特殊開発団によって人体実験を受け、周囲を避けていた彼女も、ずいぶんと落ち着き、柔らかくなったようだ。ちなみに、眼鏡は、リラの持つ石化の魔眼を封じる魔法具である。
「で、その格好は?」
「はい、私、ここの自警団に入りまして」
魔獣などがテリトリーに入ってきた場合の、集落の守護者、それが自警団である。
「私の魔眼が役に立てるなら、と」
「そうか」
眼鏡を外せば、目を合わせた敵は、石化か麻痺だもんな。状況や使い方によっては非常に役に立つ。ただ――
「誰かにやれ、と言われたわけじゃないな?」
「はい、私の意志です」
なら問題ない。自分で決めたことなら尊重する。能力があるからやらせるのは、彼女を人ではなく、兵器として扱うのと同じだ。せっかく保護したのだ。きちんと人間らしく過ごしてほしい。
ユナが俺を見た。
「リラだけでなく、自警団に入る亜人は多いです」
改造された後に残ったものは異形と化した身体と、戦うための能力。今ある能力で何かしら貢献しようとしたら、自然と戦闘に関わる部門に流れてしまうのは仕方がないことなのか。……やりたければ農業だって、物作りだって全然いいんだよ?
「自分で決めたことなら、俺から言うことはない。皆で幸せになろう」
「はい!」
リラがとびきりの笑顔を向けた。醜い化け物なんて自嘲していた人だけど、この人、美人なんだよなぁ……。
そこで、ふと、ユナとリラが顔を上げた。村で一番高い監視塔に、翼を持った亜人が降り立った。
身体は少女、背中に翼、下半身が魚という人魚――いやセイレーンである。キメラ・ウェポンのひとり、フィーナという名前だ。
「……森でジェラグたちが狼型の魔獣を狩ったと言っています」
ユナが見上げたまま言った。フィーナには声に相手を眠らせる魔力がこもっているため、普通に会話するのが困難という弱点がある。それを回避するための手段として魔力念話があるが……そうか、彼女、使えるようになったのか。しかし、翼があるとはいえ、人魚だと地上は不便だろうなぁ。
「やっぱり、魔獣は多いか?」
「まあ、ほぼ毎日ですね」
リラが肩をすくめた。
「ですが、皆で協力すれば問題ありません。私たちも慣れてきましたし、ダークエルフの方々が森の魔獣の戦い方を教えてくれていますし」
ダークエルフたちか。森での戦いは彼らの得意とするところ。アコニトが大帝国に襲われ、トキトモ領に避難してきたダークエルフたちは、俺たちに何かとよくしてくれる。恩返しというやつだろう。
「私たちには、エリサやユナ様がいらっしゃいますし。心強い限りです」
「ユナ様?」
「そう呼ばれています」
銀髪巨乳の我が弟子が胸を張った。
「とはいえ、わたしはお師匠以上のことはできません」
「ユナ様は
「すべては、お師匠の指導の賜物」
殊勝な心掛けだが、俺が魔法具や魔法を使ったところをしっかり見て、自分なりに昇華していったからできたことだ。何が言いたいかと言うと――。
「優秀な弟子をもって俺は幸せ者だ」
「お師匠……」
珍しく感動したような目になるユナ。実際、大したものだと思うよ。
それにしても賊ね。やはり領境を監視してもそういうのが湧いてくるんだな。リバティ村に何かあった時にすぐに増援が送れるようにしないとな。
ユナとリラに、リバティ村で必要なものがあるかなどの確認をした後、俺たちはデゼルトに乗って、領の南に作る予定の補給拠点候補地へと向かった。
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