第774話、単機、突撃


 ファントム・アンガー艦隊本隊が、大帝国の飛行魔術師に発見されていた頃、第二航空戦隊を主力とするファントム・アンガー艦隊第二部隊は、航空隊の出撃態勢に入っていた。


 輸送艦隊の窮地に、大帝国スルペルサ軍港に駐留する第二空中艦隊の分遣艦隊が救援に出撃したのだ。

 偵察機からの報告を受けた旗艦、空母『レントゥス』のアーリィーは、ただちに命令を発した。


「攻撃隊、発艦! 目標、軍港を出撃した敵第二艦隊!」


 確認された敵戦力は、戦艦二隻、クルーザー八隻、コルベット二十隻。……正直に言って、カモだ。正規の対空砲が装備される前に沈めてしまおう。


『レントゥス』の駐機甲板には、ドラケンⅡ部隊が駐機されている。武器開発者クロワドゥ作ということになっている廉価版ドラケン――それを模した改良型だ。


 これまでのドラケンと外見上の違いといえば、主翼が三角から四角に変わったことと、カラーリングくらいか。ミサイル装備の搭載量が増え、軽量戦闘機から軽量戦闘攻撃機の扱いになった。

 マルカス、ベルさんは、すでにそれぞれドラケンⅡのコクピットに乗り込んで、出撃の時を待っていた。


『そいつには慣れたか、マルカス坊や』

「おかげさまで。でもベルさんだって、ドラケンⅡは初ですよね?」

『見た目だけはな。中身はスペシャルだ』


 呆れたことに、ベルさんは外観はそのままで、魔改造をしたらしい。そのベルさんは不敵に笑った。


『いい狩りを』

「あなたも」


 GOサインが出て、ドラケンⅡは浮遊によって順次、駐機甲板から離れた。三隻の空母から各戦闘機、艦爆、艦攻が発艦する。


 攻撃目標、大帝国空中艦隊!



  ・  ・  ・



 飛行魔術師のフィガはスティックライダーの速度を上げた。


 そうとも、ここにいるのは敵。ファントム・アンガーとか、どうせそのうち戦う相手だ。早いか遅いか、その程度の違いしかない。


 視力を強化して拡大する。大帝国の空中艦隊で使っているコルベット、クルーザーの姿が見える。そのものにも見えるが、プロペラはないし、船体も赤と灰色で、大帝国軍のそれとは違う。

 大帝国本国を騒がせている反乱軍とやらと同じ装備じゃないか――フィガは唇の渇きを舌で拭う。


 見慣れない箱型の船。クルーザーとほぼ同じ長さだが、一番大きく見える。あの見慣れないやつが、航空機とやらの母艦ではないか。

 フィガは、海軍が作っていた飛竜母艦なるものを思い出し、そう見当をつけた。つまり、あれが一番の大物だ。


 ――あいつをやったら、あたし凄くない!?


 飛行魔術師として戦果を上げられれば、生意気なリーダー気取りのイービスの鼻を明かせる。自分がリーダーになるのも夢ではない。そうなれば美味しいご飯が食べられる――。


 よし、とフィガは、魔力エンジンの出力を上げる。先生の教え通り、何事も早く動け、を実践する。

 と、耳障りな魔力通信が耳にきた。


『エツィオーグ4、何をしている!?』


 やば――フィガは慌てて、魔力通信の音量を下げる。そういえば繋がったままだった。フィガの見ているものは、『連中』も見ている。

 一瞬、視覚を飛ばすのを解除しようと思ったが、思いとどまる。せっかくだ、連中にも見てもらったほうが証拠になる。ちゃんと結果を上げれば、怒られずに済むかもしれない。


「よしよし、ちゃーんと見ててくださいよー!」


 爆槍、誘導用意。スティックライダーが携帯している魔法武器を起動。魔力を注ぎ、持ってきた四本すべてを使う。



  ・  ・  ・



 ファントム・アンガー艦隊本隊。俺は旗艦『リヴェンジ』で、敵輸送艦隊の壊滅と、二航戦が敵増援艦隊に攻撃隊を放った、という報告を受けた。

 すべては想定の範囲で進んでいる。後は、輸送艦隊を襲撃した攻撃隊が空母に戻るのを待ち、戦域を離脱するだけだ。


「司令」


 エメロードが顔を上げた。


「索敵機器に反応です。本艦隊に接近しつつある飛行体を捕捉しました。識別データなし、未確認です」


 未確認の物体が接近!? 


「敵か? 数は?」

「一機。かなり小型です」


 まさかミサイルの類か? こっちも発見されていたか。


「確認急げ! 艦隊、対空戦闘用意!」


 空母『リヴェンジ』の艦内に警報が鳴り響く。搭載されている各種対空砲が、接近する未確認飛行物体へと向けられる。


「エスコート『アキサメ』、飛行体を確認! 映像、出します」


 エメロードが、リンクした護衛のゴーレムエスコートからの映像をホログラフ状に表示した。

 俺は目を凝らす。……ホバーバイクか? 一人乗り、長さ三、四メートル程度の物体が空を飛んでいる。


「!」


 俺の記憶の中に、大帝国の魔法軍魔術師が使っている浮遊棒がよぎった。魔女のほうきのような浮遊する乗り物を、帝国の魔術師が使っていたのを思い出したのだ。

 ただあれは、十数メートル以上の高さを飛べなかったはずだが、それをパワーアップさせたような外観のそれは、明らかに高度四千メートルを飛行している。


 と、その浮遊棒の改良型は、側面につけている槍のようなものをパージ、いや展開した。そいつも見覚えがある。投射武器である浮遊槍だ。


「対空戦闘ー!」


 俺は叫んだ。そいつは未確認じゃない、敵だ!

 エメロードはただちに護衛艦に、接近する帝国機への攻撃命令を発した。


 艦隊左舷を守るコルベット、ゴーレムエスコートの対空・対艦用プラズマカノンの砲身が旋回、敵に指向。さらに警戒中の直掩のストームダガーが翼を翻して迎撃機動をとった。


 だが敵浮遊棒とそのライダーは、グングン速度を上げて艦隊に接近してきた。

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