第773話、魔法対空戦
MMB-5ならびに、艦艇用対空砲の部品を運ぶ大帝国輸送艦隊に、ファントム・アンガー航空隊は襲いかかる。
帝国航空ポッドによる迎撃もむなしく、イール艦攻から投下された大型ミサイルが、護衛のクルーザーやコルベット、そして輸送艦に迫る。
すると帝国艦から、複数の光の弾が放たれた。帝国魔術師が新式の長射程杖で、光弾魔法を撃ったのだ。しかしながら、高速で飛来するミサイルは、視認した数秒以内に艦に直撃するとあっては、迎撃可能時間があまりに短すぎた。
ASM-3対艦ミサイルが護衛艦に命中、火の玉へと変えていく。イール隊第一波の攻撃で、クルーザー三隻、コルベット七隻、さらに輸送艦六隻が轟沈、もしくは大破した。しかも沈んだ輸送艦の一隻はポッド群を抱えたまま爆発してしまう。
だが、ファントム・アンガーの第一次攻撃隊の攻撃はまだ終わっていない。タロン艦爆隊と、イール攻撃機第二波が、まだそのミサイルを抱えて、残る艦艇に牙を剥くのだ。
航空ポッドは搭載している電撃砲や火炎弾を発射して、ストームダガーを墜とそうとする。だが武器の射程に勝り、圧倒的スピード差のあるストームダガー相手には大苦戦を強いられた。
運よく、すれ違いざまにダメージを与えることができた機体もあったが、破壊されるのはポッドのほうが多数だった。
だが大帝国艦隊も、必死の防空を展開する。ミサイル攻撃の後、マギアカノーネやロケット弾攻撃で接近してきたタロン艦爆に、魔術師らが光弾を放つ。
高速とはいえ、正面から突っ込んでくる航空機に対して、弾道がほぼ真っ直ぐならば、目視での射撃でも命中させやすくなる。そうして放った光弾は確かに、ファントム・アンガー機に命中した。
だが直線で当たるということは、航空機側のマギアカノーネや機関砲もまた、魔術師を正面に捉えていることを意味する。だから直撃を与える前に、銃弾や魔弾が飛来して、よくて相打ち、最悪手遅れという形で魔術師たちの命を奪っていった。
「クソ野郎がっ!」
輸送艦の駐機甲板上。すでに航空ポッドは全機が発進して、広々としたそこに大帝国の魔法騎士が剣を、空へ向ける。
「おらぁ、『フェアラグ』、てめぇの魔力を振り絞れ! 降雨の魔弾ッ!」
黒い刀身が瞬き、黒い無数の針のような魔弾がばらまかれた。接近しつつあったタロン艦爆が三機、魔弾の網に突っ込み爆散する。
「へへ……来いよ、航空機とやら。オレがまとめて吹き飛ばしてやるよぉ」
「危ない!」
近くにいた女魔術師の声。上空をダガーのような形をした戦闘機――ストームダガーがプラズマ砲で駐機甲板を掃射しながらすり抜けた。
魔法騎士は舌打ちしながら、魔術師を見た。
「……今のは魔法障壁か?」
「はい!」
敵機の攻撃を防御魔法で防いだのだ。だがそれは魔術師と騎士の周りだけで、十メートル離れた甲板には光弾が貫通した跡が見て取れた。
「ちっ、次やる時は、船全体をカバーしろよ。オレたちが無事でも船がやられたら、意味ねえだろうが!」
「そんな無茶な……」
女魔術師が抗議の声を上げるので、魔法騎士は睨んだ。
「馬鹿かおめえは。それをやんなきゃ死ぬっつってんだよ!」
また一隻、輸送艦が爆発、轟沈した。輸送艦隊は、もはや壊滅的大損害を受けていた。味方の艦は数えるほどしかなく、唯一の戦艦も艦体から煙を引いて、今にも破壊されそうだった。
「この魔器使いであるオレも、いよいよ年貢の納め時ってかぁ……?」
魔器フェアラグの使い手、魔法騎士アラド・リヒは歪んだ笑みを浮かべる。次の瞬間、艦が激しい振動に見舞われた。大地震もかくやの揺れに、女魔術師は尻もちをつく。
「ほらみろ……艦がやられちまったら――」
光が視界を満たした。吹き荒れた熱風と衝撃がアラドを、そこにいた魔術師たちを駐機甲板ごと焼き払い、飲み込んだ。
・ ・ ・
ドラゴンフライ艦上偵察機からの戦況報告を、俺はファントム・アンガー艦隊の旗艦である軽空母『リヴェンジ』の艦橋で受けていた。
いや、偵察機がよこす中継映像を眺めていた、というのが正しいか。第一次攻撃隊にも撃墜される機体が少なからず出ている。
ストームダガー、タロン。敵輸送艦隊に突撃した機体は、敵艦からの近接防空によって損害を出していた。
意外なのは、航空機としては低性能であるイールが、まだ一機も撃墜されていないことか。まあ、この攻撃機は、その鈍重さゆえ、遠距離からミサイルを放ったらさっさと離脱するので、攻撃にさらされなかっただけか。
長射程の魔法弾、それに魔器。多数の航空ポッド――これらが合わさって、帝国艦隊はファントム・アンガーの航空隊に一矢報いた。
だが艦隊は、壊滅だ。護衛艦隊の旗艦である戦艦は爆沈。残る輸送艦は一隻で、護衛艦も三隻。ミサイル類は撃ち尽くしたようだが、タロン艦爆もストームダガー戦闘機も、まだまだ攻撃手段は残している。
そのまま第一次攻撃隊にやらせるか、それとも第二次攻撃隊を放ってトドメを刺すか。
……このままやらせるか。
・ ・ ・
「みぃつけた~!」
雲の上を進む空中艦隊を見つけたのは、大帝国魔法軍所属の飛行魔術師だった。
エツィオーグのフィガ――それがその飛行魔術師である少女の名前だった。
十五歳。赤毛の少女は、黒いぴっちりした魔法繊維服、赤いラインの入ったそれは、体内に魔晶と呼ばれる魔石を埋め込まれた強化魔術師の正装。
そして彼女が跨がっているのは、魔女の箒ならぬ車輪のないバイクのような形をした浮遊魔法具である。
通称、スティックライダー――正式名称は……フィガは覚えていなかった。
その浮遊魔法具スティックライダーが展開する風のフィールド魔術により、数千メートル程度なら、強化魔術師なら生身で飛行が可能。今、フィガは、航行している赤い艦隊――ファントム・アンガー艦隊を視認していた。
「こんなところにいた。案外、遠いところにいたんだねー」
吹き荒れる風の中、子供らしい無邪気な声が漏れる。
「おっと、お仕事お仕事――『アー、アー』」
フィガはこめかみに指を当て、魔力通信を試みる。
「『こちらエツィオーグ4、帝国艦隊とは別の空中艦隊をはっけーん! 全艦もれなく赤い船。多分、ふぁんとむ・あんがーとかいう艦隊』」
『エツィオーグ4、現在位置を確認した』
耳にキンとくる通信がきて、フィガは思わず目を閉じた。魔力を調整、音量を抑える。
『――視認しているか? それならば、ファントム・アンガー艦隊の映像を送れ』
「『エツィオーグ4、りょーかーい』」
フィガはこめかみをいじる。自身の見ているものを魔力に変換して転送する。
『……確認した。そのまま監視せよ』
「えぇ、監視ー?」
視力を変換していたので、フィガの不満の声は通信には乗らなかった。
「なんだよ。せっかく飛行魔術師であるあたしが出張ったのに。この
スティックライダーに貼り付けてある四発の飛行爆弾。爆弾槍、略して爆槍は、魔術師の魔力によるコントロールにより目標を追尾する画期的飛び道具だ。これを連中の船に叩き込めば、面白いことになるのに――フィガは口をへの字に曲げた。
そうだよ、こいつを叩き込んでやろう――飛行魔術師の少女は呟いた。
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