第768話、二つの輸送計画
大帝国軍は、MMB-5なる物資を二つのルートで前線へと運ぶらしい。
第一のルートは空軍の管轄で、空中輸送船団を形成。対空砲の部品と共にプロヴィアへ運び込む。
第二のルートは海軍が主導し、北海から大陸沿岸に沿って東進。現在、身動きできないニーヴァランカへ増援兵力と共に輸送する。あの国は北海に面しているため、海上ルートが使えるのだ。
なお海軍の支援に魔法軍特殊開発団が協力。というより、そもそもMMB-5は、魔法軍特殊開発団の品である。
さらに彼らが改造した飛竜に騎乗するワイバーン・ライダー部隊が、海軍の護衛につくと言う。そのためにわざわざ飛竜空母なるものを海軍は作っていた。
……生ものを空母に乗せて運用できるか、非常に疑わしくはあるのだが、一応、実用化している、ということになっている。
海軍ルートを襲う場合は、このワイバーン・ライダーズへの対策が必要だろうな。まあ、戦闘機がお相手するんだけどね。
第一と第二。部品と増援とセットだから、どちらも叩いておきたいなぁ。
というわけで、さっそく襲撃作戦の立案。
第一の航空ルートは、ファントム・アンガー艦隊。
第二の海上ルートはシャドウ・フリートが担当する。
まあ、航空と海上では、移動速度が全然違うから、別々の艦隊を割り当てなくても対処はできるけど。
どちらも準備中ということだが、航空ルートは、目的地プロヴィア近辺で襲撃。船団が襲われていると知って帝国艦隊主力が救援に出たら、これも叩けるようにするためだ。
そして海上ルートは、準備中で軍港にいる間に叩こうと思っている。内陸にある空中艦隊用軍港より比較的防備が弱いこともあるが、MMB-5の現物を回収できないか、と考えたのだ。
SS諜報部をもってしても、何故か魔法軍の動きや情報が掴みにくい。軍でありながら別個の指揮系統を持っているのか、シェイプシフターたちも中々、その本拠を見つけられずにいる。
……ほんと、こういう探れないルートに乗せられる品とか情報が、もっとも厄介だ。ここでヴェリラルド王国奇襲作戦とか、反乱者殲滅作戦とか罠めいた計画を流されると気づけないからだ。
そして何げに気になっているのが、こうした秘密ルートに時々、ディグラートル皇帝本人が入り込むことだ。
彼はシェイプシフターたちでさえ入ることができない魔法的結界――侵入しようとしたシェイプシフターが焼死した――の中で行動することがあるのだ。果たして結界の中で何をしているのか。
結界はともかく、魔法軍特殊開発団の情報ルートは、少しずつだが開拓しつつあり、時間はかかるがいずれはすべての情報がわかる時もくるだろう。
と、閑話休題。
シャドウ・フリート、出動だ!
魔法軍特殊開発団あるところに、影の艦隊あり。
参加戦力は、改アグラ級高速クルーザー『キアルヴァル』を旗艦に、軽空母『アヴェンジャー』『デバステーター』、クルーザー改二隻、Ⅱ型改造航空クルーザー一隻、コルベット改五隻、強襲揚陸艦『グローリアス』の合計十二隻。
シャドウ・フリートの全艦艇だ。
それとは別に、万能巡洋艦『ヴァンガード』を海中から接近させ、MMB-5を奪取する特殊部隊を送り込む。
・ ・ ・
ポータルゲートを使い、大帝国本国の空へ。ヴァンガードのみ、北海の上空のゲートから出現。その後、海中に入り、マカーンタ軍港へと近づく。
俺は旗艦『キアルヴァル』の艦橋にいた。シップコア『エスメラルダ』が、テキパキと艦隊を制御しているさまを眺める。
艦隊は二つに分かれる。旗艦を含むクルーザー戦隊と軽空母二隻で一群。
マカーンタ軍港への攻撃は第一群が仕掛け、第二群は、近場にて上陸してAS部隊を展開する。コルベット五隻は、『グローリアス』の護衛と、ガンシップよろしく軍港と敵守備隊への対地砲撃を加える。改造コルベットは、ASを四機ずつ搭載しているので、緊急展開が必要な場合は、強行降下をさせることができる。
さて、肝心のマカーンタ軍港は、戦闘帆船五十隻以上を収容できる大軍港だ。大帝国海軍の第一艦隊の母港でもある。
もっとも、現在その第一艦隊の主力は、東方方面軍海上艦隊として、出払ってはいるのだが。
とはいえ、本国艦隊や第二艦隊から派遣された艦艇が、今回の遠征のために集結していた。新鋭の飛竜空母もまた、その一隻である。
「さてさて、真珠湾かタラント奇襲か」
偵察機から転送された映像をスクリーンで確認しながら、俺は命令を発した。
「攻撃隊、発艦」
「攻撃隊、発艦せよ」
エスメラルダの復唱が、二隻の軽空母に伝わり、TF-4ゴースト、TF-5ストームダガーが次々に浮遊発艦を行った。
なお偵察機は、艦隊に随伴する改装航空クルーザーから発進している。こちらのクルーザーは艦体後部に小型の飛行甲板を設置し、六機の艦上偵察機を搭載していた。
「ゴースト二十四機、ストームダガー三十二機、発進完了!」
エスメラルダの報告。うん、改めて思ったが、シャドウ・フリートには対地爆撃に向いた攻撃機がないな。ゴーストは戦闘攻撃機でミサイルも爆弾も積めるが、その搭載スペースは大きくない。ウィリディス軍という縛りがなければ、ワスプⅡ攻撃機が打ってつけではあるのだが。
ともあれ、艦載機隊は先行、マカーンタ軍港を目指す。偵察機は軍港の様子を観測し続けているが、帝国側に特に動きは見られない。
攻撃隊が軍港の姿を判別できるほどに近づいた頃、ようやく地上の動きが慌ただしくなる。どうやら見張りなどが、こちらの航空隊に気づいたようだ。偵察機の集音器も、軍港で警報が鳴り響いているのを捉えた。
『こちら、ゴースト中隊』
魔力通信機から、聞こえたのは、今回ゴースト戦闘攻撃機部隊を率いるマルカスの声。普段はTF-3トロヴァオンに乗る彼も、最近ではドラケン、そしてゴーストにも乗るようになった。
『軍港に在泊する艦艇、およそ三十隻を確認。例の飛竜空母の姿を視認。緊急展開中――』
どうやら、ワイバーンライダーたちは、即時出撃できるようにきっちり待機していたようだ。いつ現れるともわからないシャドウ・フリートを警戒していたのだろう。
『攻撃隊全機、所定目標に攻撃を開始せよ!』
ストームダガーが迎撃のワイバーンに挑み、ゴースト隊は、在泊艦艇ならびに軍港施設を攻撃すべく小隊ごとに降下を開始した。
マカーンタ軍港空襲の始まり。その開始の一撃は、ワイバーンめがけて放ったストームダガーのプラズマ砲だった。
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