第766話、女王の視察と、エルフの軍備を考える
俺とエマン王、そしてカレン女王は、ウィリディスからキャスリング基地へとポータルで移動した。
カレン女王とは個人的に交流があるとはいえ、アリエス浮遊島軍港のことは伏せる、ということでエマン王と打ち合わせ済みである。
浮遊島には艦艇建造ドックもあるのだが、幸い、規模は劣るがキャスリング基地にも軍港施設や工廠が揃っている。ウィリディス製兵器の視察なら、ここでも足りるのだ。
キャスリング基地にはアーリィーがいた。カレン女王と久しぶりのご対面で、王族らしい挨拶の後、彼女も同行した。
「エルフの里の防備となると、戦車は向かないですよね?」
魔人機や戦車の工場を視察しながら、アーリィーはルプス戦車を眺めながら言った。女王もまた、自分より大きな鋼鉄の機械を見やり頷いた。
「森の中で、これらの車は確かに動き回れないでしょうね……」
「街道の魔物」
俺は、エルフの里、その森の中を走る街道を思い出した。何だっけ、俺の元いた世界にも、街道の化け物だか巨人だとか言われていた戦車があったような。
「拠点防衛用の重戦車などを要所に、砲台代わりに置くのはありかもしれない」
「なるほど」
アーリィーが小さなノート――メモ帳にさらさらとマジックペンを走らせた。どうやら書記のつもりらしい。気が利くね。
「アーリィーさん、その紙と書くものは……」
どうやら、カレン女王は、マジックペンをご存じなかったようだ。アーリィーが説明したら、ぜひ自分用に欲しいと言った。
俺は、工場内の人型兵器、その素体である魔人機を指し示した。
「話は戻りますが、魔人機などは如何でしょう? 大帝国も魔人機を使っていますから対抗できると思いますが」
「鋼の巨人ですね……」
「そうですね」
俺も自身のメモ帳をストレージから出して、イラストを描く。エルフなら白騎士っぽいかな、っと。
「こんな感じに」
「まあ、勇壮ですね。美しい騎士」
女王陛下もお気に召したようだ。エルフの里の森は、巨大な大木が多く、魔人機ならある程度動き回れると思う。
「ですが、森での戦闘を考えるなら、もう少し小さいほうがよいかもしれません」
カレン女王が注文をつけた。そういえば、バトルゴーレムである青藍をご所望だったな。
「戦闘用ゴーレムですね。検討しましょう」
地上兵力の次は航空兵力である。
巨大な世界樹は、エルフの里の象徴であり、空中都市ヴィルヤという中枢も存在する。世界樹の周りは結界が働いているが、森全体には及ばず、また空からの攻撃に対する防備が弱い。
言うまでもなく、大帝国は空中艦隊を持っている。里には空から侵入する可能性が高い。
「わたくしどもも、結界が完璧なものではないと身に沁みましたから」
自嘲するように言うカレン女王。青色肌のダークエルフに里を滅ぼされかけた記憶は、エルフたちにはさぞ生々しく残っているだろうな。
「浮遊船は有していても、大帝国の空中艦には太刀打ちできません」
「ジン、エルフの里の防衛艦隊にはどれくらい必要と考える?」
エマン王が問うた。俺は、大陸南方に展開している大帝国の第四空中艦隊の編成を思い起こす。
「あのあたりの艦艇が集結して、里に攻めた場合――エルフ単独でなら、プラズマカノン搭載のコルベットクラスが最低六隻。それを補助する小型艇がその倍ほどあれば」
敵がそれ以上なら、配備を進める青の艦隊から増援を出すことになる。今のところ、敵に南方侵攻の動きが見られないので、現状ではそれで十分だと思う。
「あとは、ヴィルヤやその他集落を
「空母か……」
エマン王が複雑な表情を浮かべた。空母もだが、航空機の技術を明らかにするのを渋っているような。……義父殿、エルフたちは、すでに航空機を見ておりますよ。
まだ女王は言っていないが、航空機に関してもこの後言及しただろうね。実際、ワスプヘリに搭乗しているし、言わないほうがむしろおかしい。
「エルフの里の大半は古代樹が占めます。航空基地が作れないですからね」
古代樹を切るなんて、エルフたちが許すはずがない。仮に作るなら、森や里から離れないと作れないだろう。浮遊する航空基地として空母があると便利だと思う。ノルテ海で海賊退治をやっているように、ヘリ型の兵器があれば、兵員輸送や哨戒、連絡に使える。
「コルベット級六、小型艇十二、軽空母だね……」
アーリィーが記録に残した。これが当面のエルフ航空艦隊となろう。そういや、この艦隊の母港はどうするつもりなんだろうか? そっちの場所や工事も必要になってくるが。
「それでジン。
シャドウ・フリート、ファントム・アンガーでやっている手だ。俺は顎に手を当てる。
「女王陛下、エルフには独自の視点があると伺っています。艦艇についてですが、帝国からの鹵獲艦は問題ありませんか?」
聞いては見たが、エルフたちは、たぶんエルフらしさを求めてくるだろうな、と思う。はっきり言うと愚問の類だ。だが向こうがお願いをしてきた立場上、どこまで譲歩できるかは知っておきたい。
「どうしてもそれでなければ、というのなら話は別ですが、ジン様、こちらの要望を言わせてもらえるなら、『エルフらしさ』を求めていきたい……」
カレン女王は、そう仰せになった。
「里の者たちはおそらくそう言うでしょう。失礼を承知で言いますが、エルフの中には、人間のものを奪って、そのまま使うことに抵抗をおぼえる者もいますから」
変にプライドが高いところがあるんだよな、エルフって。
「士気にかかわるのは問題です」
やる気がないせいで負けた、という戦いも例がないわけではない。精神論を持ち出したくはないが、扱う側が感情のある生き物である以上、軽視もできない。
「ご理解いただけて幸いです」
「いえ。その分、お支払いいただけるなら、こちらとしても文句などありません」
クライアントの注文は尊重する。ただしそれに対する正当な対価は要求する。
というわけで、まとめにかかる。
陸上兵力に、エルフ外装の魔人機を二十機ほど。これは世界樹や集落防衛用らしい。街道の防衛用に重戦車を十両、戦闘用ゴーレムを四十から六十機。
なお銃はいらないのかと聞いたら、ウィリディス軍のライトニングバレットを参考に魔法銃を実用化したらしい。やるもんだ、と感心していたら、俺の作ったエアブーツも同様に量産していたと明かした。高い木を登ったり、移動するのに便利なのだそうだ。
……ちゃっかりしているなエルフさんたちは。
とか思っていたら、俺やウィリディス軍で使われているものが、今エルフたちの間で流行っているのだそうだ。ブランドでも立ち上げるかね……?
航空艦隊に、コルベット六隻――エルフには帆船型の浮遊船があるから、あれをモデルにウィリディス艦っぽくすればいいだろう。
小型の戦闘浮遊艇を十二隻、軽空母を一隻。……この軽空母はいつもの帝国からの鹵獲艦を改装するか、あるいは思案中の簡易量産艦計画を流用し、そこにエルフっぽく外観に手を加えようと思う。どちらにするかは要検討。
それでなくてもエルフ艦隊用艦艇の大半が、一からの独自設計と生成になる。流用できる部分はそうして手間を省いていく。
そうそう、そうなるとエルフたちに航空機を選んでもらわないとね。パイロットの訓練についてはまた別の話だが、架空武器開発者、ジョン・クロワドゥの兵器ラインナップから選ぶことになる。
果たして、エルフのお眼鏡にかなう機体はあるかな? 独自設計で一から作る、なんてこともあるか……?
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