第744話、艦艇建造工場


 アリエス浮遊島の本島のほかに五つの浮遊島がある。そのうちE島と付けられている島には、増設した艦艇建造工場がある。


 ここでは、人工コアやディーシーの協力のもと、大帝国から鹵獲した艦艇の改装、戦力化が行われている。


 リーレや橿原と別れた後、俺はディアマンテと話しながらE島工廠へ移動していた。そのうちのひとつ、巨大倉庫にも見える建設施設は、幅800メートル、奥行き250メートルほどの広さがあった。


「いつ来ても、でかい施設だ……」

「現在、先のズィーゲン平原会戦での回収艦の改装作業を行っております」


 ディアマンテが、一番近くで組み上げられている帝国輸送艦へと視線を向ける。


 この輸送艦、全長は120メートルほど。我がウィリディス改装の軽空母の元となっている艦である。横からみると、どことなくリクガメに似ているのが特徴だ。


 艦橋は艦首にあり、亀に例えるなら頭の部分に相当する。胴体があって、甲羅にあたる部分が輸送区画である。左右の四本の足の根元部分に、推進用の補助エンジンを4基、尻尾部分にメインエンジンを搭載している。エンジン数だけ見ると5基と多く感じるが、低出力の安物量産品のため速度は大したことがない。


「来たか、主」


 俺に気づいたらしいディーシーが、改装中の輸送艦の前で手を振っている。俺も手を振り返すと、ダンジョンコアの少女は作業に戻った。


 ウィリディス式軽空母への改装。


 まず、船体を長くするため、艦首部分に魔力生成で作った簡易艦首(およそ20メートル)を取り付ける。ダンジョンコアや人工コアは、この取り付けの際、補強材を通して、接続部分が折れないようにがっちりと補強する。


 次に艦橋の高さを基準に、輸送区画の後ろの部分の高さを上げて、合わせる。また艦首部分にも、あとで部屋や倉庫を置けるよう構造体を艦橋の高さになるよう接続する。ちなみにこの構造体は現時点では空っぽの箱だ。


 高さが水平になったら、全長140メートルの駐機飛行甲板を乗せる。……いや、乗せるというか、コアさんが魔力で生成する。ダンジョンを作る要領で。


 これが平甲板型空母の場合、ほとんど外観は完成だ。ちなみに平甲板型空母とは、艦橋が飛行甲板より下にあって、甲板が真っ平らに見えるタイプだ。一番高い飛行甲板に構造物が何もないため、見通しがよく、スペースが広く使えるのが利点だ。……単に艦橋を上に置けない小さな空母って意味もある。


 我がウィリディス軍だと、シャドウ・フリートで使っている『アヴェンジャー』『デバステーター』がそれだ。


 今回、ディーシーがダンジョンを作るように改装している軽空母は、平甲板型艦橋の空母となっている。エンジン部分は大帝国製レシプロ機関から、テラ・フィディリティア式エンジンに換装。サイズ調整のため船体から張り出しているエンジンの基部も手を加える。


 そして格納庫。これは輸送区画をそのまま当てるのだが、格納庫を広くするために船体を両サイド拡張する。上の飛行甲板もそれに合わせて広くとられているので、格納庫を張り出してもちょうどよい見た目となる。なお張り出しの下は、船体横の補助エンジンがあって、正面や後ろから見た場合、拡張したことで逆にバランスがとれた格好となる。


 ちなみに、元の艦橋のてっぺんの高さに飛行甲板を置いたことで、輸送区画の時より天井が高くなっている。


 さて外観が整ったら本格的な艤装と内部工事である。


 艦橋の位置が変わるので、延長した艦首部分に艦橋を新たに作る。空っぽの箱だった構造物に、艦橋やその他必要な設備を作り、シップコアや、サブコアが自動で艦を制御できるように内部を作り替える。


 次に、格納庫と飛行甲板を往復する艦載機用エレベーターを設置。増設部の補強や艦載機運用に必要な備品、武器、燃料タンクなどを、それまであった居住区や倉庫を潰して作り直す。


 これらの作業は、魔力さえあればダンジョンコアには朝飯前らしい。ディーシーは、どこで覚えたかわからない鼻歌を歌いながら、簡易設計図を眺めながら、作業を行っている。


「だいぶ手慣れたものだな……」


 俺が感心していると、横でディアマンテが柔和な笑みを浮かべた。


「大まかな外観だけなら1時間もかかりません。内部改装や艤装には、さすがに一日、二日はかかりますが」

「俺のいた世界じゃ、それでも速すぎるんだけどね」


 大きさにもよるが、船を作るなんて数ヶ月、数年単位の仕事だ。規模も関係するが、この手の大改装が二、三日で終わるなんて、あり得ない速度だ。


「ま、そうでなければ、とても開戦までに艦を揃えられなかったけどね」


 ダンジョンコア、そして人工コア様々だ。ディアマンテが首を振った。


「改装ですからね。新規で一からとなれば、さすがにもう少し時間はかかります」

「たとえば、ノルテ海用の艦艇とか?」


 ノルト・ハーウェンのヴェルガー伯爵から依頼された、ノルテ海防衛艦隊の建造。巡洋艦以下の小型艦を中心にした艦艇は、概ねでき上がっている。


「そういえば、あちらさんの受け入れ体制ってどうなんだ? あ、フルーフ島のほうじゃなくて」


 ノルテ海のヴェリラルド王国領フルーフ島は、俺たちウィリディス主導で軍港拡張と秘密拠点を、これまたディーシーのダンジョンクリエイトで作ってある。……あの島には、すでに隠し球も、一足先に配備済である。


「クラーケン軍港ですね。閣下が外観を整えた後、ノルト・ハーウェン側で施設の運用と物資の運び込みが整いつつあります。近いうちに、受け入れ準備完了の報せが来るでしょう」


 その時に、こちらから水上艦艇群を送るわけだ。巡洋艦以下と言ったが、それでもこの世界の大型戦闘帆船の二倍以上も大きいから、現状の港だと少々都合が悪い。


 そのため、大型船が不足なく停泊できるように大きな湾港を作ったわけだが、クラーケンなんて巨大な魔獣の名前がつけられたのだろうと思う。


 俺とディアマンテは建設施設を横断していく。書類と睨めっこしていたアルトゥル君がいた。


「あ、閣下」

「どうだい、進捗は?」

「順調です。回収した帝国艦の残骸を利用してクルーザー3隻とコルベット4隻が新たに戦列に加えられる予定です」


 クレニエール侯爵家の跡取り息子殿は、今日も生真面目さを遺憾いかんなく発揮。


「今は空母改装を優先していますから、護衛艦艇のほうは順番に、となりますね。砲とエンジンをディアマンテさんの用意したものに換えるのが中心ですが……。あ、例のⅡ型クルーザーは、閣下の出された改装案に従い、航空機運用型クルーザーになる予定です」


 大帝国では空中艦、テラ・フィディリティアでは航空艦と呼称しているが、航空機運用型クルーザーは、俺の世界でいうところの航空巡洋艦ということになるのかな。……ちと意味が違うというか、ややこしくはあるが。すでに『ディフェンダー』という前例があるけどね。


「空母のほうは?」

「はい。帝国艦の船体と輸送艦を合体させて、4隻を建造中。全長は190メートル級が2隻、200メートル級が2隻となります」

「『ドーントレス』より小さいな」

「輸送艦を2隻連結させるなら別ですが、何分、クルーザーの前半分を取り付けたものですから。7、80メートルの延長では、そんなものかと」

「数字上ではそうなるな」


 俺が頷くと、アルトゥル君が首をひねった。


「閣下、この中型空母の4隻は、どの艦隊に配備されるんでしょうか?」

「ん?」

「所属艦隊で艦体色が違いますよね? シャドウ・フリートは黒系、ウィリディス艦隊は灰色系、連合国で使用するのは赤と灰色――この4隻について、まだ色指定をもらっていないのですが」

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