第745話、塗装問題と、護衛ゴーレム


 俺たちウィリディス軍は、大陸の中で複数の艦隊を運用、配備を進めていた。


 しかし、元はといえば、ヴェリラルド王国とは関係のない軍隊を装って、各国で戦うために用意された戦力である。

 だから配備された兵器は、王国と無関係の組織のもの、と周囲に思わせる必要があった。


 それをわかりやすく見せるひとつの手が、『色』である。


 古今、軍隊を見ても、よほどの貧乏、寄せ集めでない限り、ある程度の共通の装備やカラーが決められている。それは乱戦でも敵味方を識別するために必要であるし、きちっと色や装備が整った軍勢は、それだけで強そうに見えるものだ。


 戦国時代において、赤の装備で固めた武田の赤備えが、最強とか精鋭のイメージがあるのも、一例にあげてもいいだろう。いや、実際に強かったんだけどね、この人たち。


 閑話休題。


 ウィリディス艦隊、シャドウ・フリート、そして今回、連合国周辺で戦う艦隊――便宜的に赤の艦隊と呼ぼう。それぞれ色を割り振っているわけだが、アルトゥル君は、改装中の空母4隻をどこに配備するのか聞いてきた。


「遊撃航空戦隊として、各戦線が必要とする時に増援として使う」


 俺は答えた。


 つまり、シャドウ・フリートで戦うこともあれば、赤の艦隊で戦うこともあるということだ。

 東西に艦隊を配備したが、せっかくポータルで移動ができるのだから、どちらにもすぐに使える戦隊があってもいいだろう。現地に置く常備戦力ではなく、遊撃戦力である。


「すると、また新しい色ですか?」

「……実は、魔力を通すことで色が変化する新塗料を作っている。それをこの4隻に使おうと思っている」

「新塗料!」


 アルトゥル君はビックリした。


 実のところ、擬装ぎそう魔法の応用だ。魔力を使って別のものに見えるようにする魔法なのだが、これを応用し、魔力を使うことで、色を変化させる。

 大帝国なら黒。連合国なら赤に色を変えれば、新たに船体色を塗り直すことなく、すぐに戦線移動ができるというわけだ。


 これは擬装研究の一環で思いついたアイデアではあるんだがね。まさしく魔法の塗料である。


「それって、魔力を消費するんですか?」

「色を変える時だけね。魔力を流した回数で色が変わる仕組みだ。とりあえず、今、七色を予定している。赤、黒、灰、青、白、黄、緑……これで一回り」

「青に、白に黄、緑――また艦隊が増えるんですか……?」


 冷や汗を流すアルトゥル君。俺は皮肉げに口角をつり上げた。


「とりあえず、青は決まっている。これも独自の遊撃部隊なんだが、連合国に近い南方寄りで活動する予定」

「そのあたりは、エルフの里が近いですね」

「そういうこと」


 今しがたディーシーが改装していた軽空母も、そちらの青の艦隊に配備する予定である。さらに言えば、4隻の中型改装空母は、3隻は遊撃戦隊、1隻は青の艦隊にしようと思っている。

 今のところ、青の艦隊が一番小規模になるのかな。


「あ、そうなると――」


 アルトゥル君が思い出したように言った。


「例のエスコートも、新塗料が使われるんですか?」

「ゴーレム・エスコートのことか」


 大帝国から奪った艦や資材を使って、主力艦の改装を進めている俺たちだが、これとは別に独自の護衛艦艇を用意することにした。


 これも各戦線で、使う兵器を変えることで、独自の現地組織に思わせるための一環である。大帝国で活動するシャドウ・フリートは、全部奪った帝国艦で問題ないが、赤や青の艦隊では、大帝国製ではない独自の艦艇があったほうがそれらしくなるはずだ。


 かといって、一から大きな船を作るのは現実的ではない。ノルテ海防衛艦隊用の大型艦も並行して建造していたので、比較的小型の艦を作って、場所や資材、時間を節約することにした。


 それが、艦艇型ゴーレムともいうべき、完全自動制御の無人艦である。

 ゴーレムの護衛艦、すなわち、ゴーレム・エスコートだ。それ自体は、前々から作って初期4隻があるので、それをベースに改良を施して量産する。

 ……とうとう我々は、船をゴーレムにしてしまったわけだ。逆か? ゴーレムを船にしてしまった、か? シップコアだって、考えようによっては高性能ゴーレムだろう、という暴論。


 全長は80メートル。シズネ艇より大きいが、アンバル級軽巡が戦艦に見えるほど小さい。帝国の主力コルベットが80メートルだから、だいたい同じくらいにしてある。


 テラ・フィディリティア式の小口径プラズマカノン、艦首にミサイル発射管をつけ、小型インフィニーエンジン他、機関部を載せる。


 浮遊石、そして魔力タンクに、大気中の魔力を吸収して艦を稼働させるエネルギーに変換する装置を設置。艦橋にはゴーレムコアと索敵装置などを装備。


 あとは、ゴーレムコアの命令を各部に伝える魔力伝達線という名の神経を繋げば完成である。

 これでサイズの割には重武装の護衛艦の出来上がりだ。なお小型ゆえ、プラズマカノンも5インチ以下、ミサイル発射管も予備はなしとなっている。


 役割が、艦隊に随伴ずいはんして護衛をするだけだから、この程度でも問題はあるまい。

 シャドウ・フリートのエスメラルダ・コアがやったように、従属回路による制御が可能だが、さほど複雑なことはしないので、ゴーレムコア単体でも十分だろう。


 空飛ぶ護衛ゴーレム。当然ながら、我がウィリディス製品の中で、一番巨大なゴーレムとなる。

 現在、ゴーレム・エスコートは二タイプが作られていて、タイプⅠを青の艦隊、タイプⅡを赤の艦隊に配備しようと目論んでいる。

 それぞれ、武装の配置と艦橋や装備の形が違っているため、パッと見、似ているが違うものとわかるようになっている。


「……それで形が違うエスコートを作っていたわけですね」


 アルトゥル君が納得したような顔になる。


「わざわざ形を変えなくても、いいんじゃないかって思っていたんですが……納得しました、閣下」


 うん、思ってたのか。なら言ってくれてもよかったんだよ?


 それはともかく、ゴーレム・エスコートには、艦隊とは別に、大帝国の空中輸送ルートを脅かす、通商破壊型フリゲートの案も現在進行中である。こっちは空中擬装について検討してから、となるけど。


 一通り視察が終わったので、俺は控えていたディアマンテに頷く。


「それじゃあ、連合国戦線の話をしようか。赤の艦隊の初陣は、どこがいいだろうか?」

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