第715話、フルーフ島とノルテ海防衛計画


 軽空母『アルコ・イリス』とトロヴァオン中隊が、ノルテ海に到着した。艦載偵察機ドラゴンアイが索敵し、海賊などを発見すれば、トロヴァオン戦闘攻撃機がこれを攻撃する。


 一方で、俺とベルさん、そしてディーシーを加え、ヴェルガー伯爵とその部下たちと探索隊を編成。クラーケンが巣にしていたと思われるフルーフ島に上陸した。


 この島はヴェリラルド王国領であり、ノルト・ハーウェンの一部である。隣国と過去何度も領有権を巡って争った地だと聞く。


 最近まで、ここにはヴェルガー伯爵の海軍の母港のひとつが置かれていて、中型戦闘帆船4隻、小型船4隻が駐留していた。

 だがクラーケンによる襲撃により、港と艦隊は壊滅。生存者がいないか、その確認に俺たちは来たのだが……残念ながら、人の姿はどこにもなかった。


 ディーシーのテリトリースキャンを用いた結果でも、生命反応は小動物以外、見つからなかった。どうやら家畜も含めて、島民たちはクラーケンの餌食になってしまったようだ。


 ヴェルガー伯爵たちは、沈痛な表情を浮かべ、犠牲になった仲間や島の住民のために黙祷を捧げた。


 その後は、島の防衛戦力をフルスシュタットから割り振る。このまま島を空っぽのままにしておいて、隣国や大帝国が上陸してきたりすると厄介なのだ。


 なお、テリトリースキャンでわかったが、フルーフ島の地下には空洞があり、海に通じている大穴があった。クラーケンが巣穴にでもしていたんだろうか。それにしては小さいのだが、秘密基地を作るのに打ってつけかもしれない。

 このあたりも、伯爵に話をするべきかもしれない。王国領であるフルーフ島を防衛するなら、なおのことだ。


 島から撤退後、再度ヴェルガー伯爵と話し合い、俺はウィリディスに帰還。エマン王に、クラーケン討伐とノルト・ハーウェンの防衛策について、ヴェルガー伯爵との会談結果と共に報告した。


「また、お前の輝かしい戦果が増えたな」


 エマン王は皮肉げに言った。


「勲章は辞退しますよ」

「そう言うと思った」


 王に苦笑された。俺は、現地戦力として、新型艦艇の配備を進めたいと上申した。


「これまでの帆船とは異なる艦艇です」


 魔力機関とスクリュープロペラ推進の船である。

 武装は、テラ・フィデリティアが使用するプラズマカノンを標準装備し、大砲を積んだことで、世界でも革新的な軍艦を持つ大帝国海軍を火力で圧倒する。


「数では圧倒的に大帝国が優勢ですが、速力に勝り、プラズマカノンを搭載したこちらの艦なら敵を一方的に撃破、圧倒できます」


 落書きの延長である水上艦のスケッチを俺は提出する。そのそばに帆船――ガレオンっぽい画を描いて、見た目の違いがわかりやすいようになっている。


「テラ・フィデリティアの船のようなシルエットであるな」


 帆がない、とかそういうツッコミは入らなかった。航空艦を見たことがあるから、エマン王にもその程度は理解できるのだろう。

 予定の水上艦は、俺の世界の第二次世界大戦頃の巡洋艦っぽい形になっている。阿賀野型とかそういうあたりの。


「アンバルより強いのかね?」

「いえ、こちらは空を飛べませんし、火力もアンバル級の半分程度です。相手が大帝国海軍であるなら、それでも十分過ぎます」


 あと、短期で建造しないといけないから、結構中身はシンプルにするつもりである。このあたりは、大帝国から鹵獲した艦の自動化などで実績を積んでいる。

 また主砲は、シャドウ・フリート用に用意している15.2センチ砲や7.6センチ砲を流用して、設計にもあまり時間をかけないようにする予定だ。


 ただ海中の敵に対応する対潜――対潜水生物対応武装や、魚雷などについては、ディアマンテの協力を大いに仰ぐつもりである。


「そして、こちらは潜水艦です」


 次のスケッチを手渡す。水上艦同様、第二次世界大戦の頃の潜水艦に似ているシルエットである。


「水中を進む艦艇です。海中から敵艦を攻撃したり、偵察などを行います」

「海の中を潜る、船とな……?」


 さすがにエマン王も開いた口がふさがらないようだった。少々呆れているようにも見えるが、笑い飛ばさなかったのは、俺の言うことが本当だとわかっているからだろう。


「古代機械文明には、そんな技術があったのか……」

「ええ。……実は、連合国でも、個人で潜水艇を製作していた者がいました」


 なので、遅かれ早かれ、潜水艦技術はいずれ世界に広がっただろう。


「連合国で?」

「あくまで個人で。国は関与していませんでしたが」


 いわゆる発明の類だ。ただ、その潜水艇に俺とベルさんは乗ったことがある。それどころか、それを使って水の大竜討伐を行ったことがあった。……あの時は、マジ生きた心地がしなかった。


 しかし、今回、ウィリディス軍で建造する潜水艦は、それよりも大きく、かつ武装もテラ・フィデリティア式にする。アリエスドックに潜水機能もある万能艦があったという話だし、それも参考になるかもしれない。


 有人で動かせる潜水艦の他、ゴーレムコアのみで動かす、水中版ゴーレムともいうべき小型潜水艦も作る。時間もないし、資材の節約も兼ねての小型艦である。


「ふむ、これらを建造すれば、ノルテ海の防備は万全となるか」

「海に棲む魔物などについてはわかりませんが、大帝国相手には問題ないかと」


 率直に告げる。正直、万全なんて言葉は使いたくない。安請け合いしているみたいで。


「問題は、今から作り始めて、いつ完成するか、だが……」

「ヴェルガー伯爵より全面的な協力を取り付けてあります。王国からの少々の支援もいただければ、4の月の開戦頃には、一通り戦力が揃います」

「わずか一ヶ月しかないが……。いや、お前に対しては愚問だな」

「魔力生成を用いれば可能です。ただ、消費するだろう魔力、魔石の量がかなりのものになりますが」

「……例の大空洞の魔石鉱山の魔石をそちらに回す。それで足りるか?」

「充分です」


 現在、王国の管理となっているダンジョン『大空洞』。その最下層にはコピーコアを用いた魔石鉱山がある。魔力が溜まりやすいダンジョンを利用して魔石に変換、魔獣の数を制御し、スタンピードを阻止する。できた魔石は王国に納められているが、そちらからノルテ海防衛用の資源をこちらに回してくれるという。……計画どおり。


 あとはノルト・ハーウェンで、新型艦を受け入れられるような港湾設備や、航空機運用の秘密施設も計画中だ。整地や建物作りは、ダンジョンコアのディーシーや、ノイ・アーベントの魔術建築団が得意としているけどね。


 フルスシュタットもだが、フルーフ島にも潜水艦用の秘密基地を作れたら……と思う。


「では、ジン。よろしく頼む」

「お任せください、陛下」


 報告ついでに、出すものを出してもらえたので、期待には応えないとね。

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