第709話、下僕とか来客とか


 遺跡探索隊の編成。前々から古代文明の遺産探しはやりたいとは思っていた。大帝国にばかりそれらを回収されても面白くない。


 せっかくの機会なので、ささっと準備しよう。


 乗り物は、様々な場所へと素早く向かうということを考えたら、空を飛ぶ航空機か飛行型の小型艇しかないだろう。

 あまり大きすぎると、着陸する場所が限定されるだろうから、ポイニクス長距離偵察機やシズネ艇より小さいほうがいい。浮遊石を搭載して、垂直離着陸が可能なようにする。


 武装は自衛装備程度。光線機銃くらいでいいだろう。機体サイズを小さくすれば、武装は積むスペースはそれほどない。そもそも探索任務に、そんなに武器はいらない。


 ある程度の貨物ブロックと……まあ、ポータルで繋げてしまえば、大きくとる必要はないか。浮遊石と魔力回復機能付きのエンジンで、巡航速度でいる限りは航続距離無制限。トイレとか簡易ベッドも装備させて――


 あれこれ盛り込みつつも、これまでウィリディスで作ってきたものの図面やパーツを流用して、図に起こしていく。……昔、SF映画とかでみた、主翼やメインローターのない大型ヘリのような輸送艇があったが、それっぽいデザインになった。


 旗艦コアのディアマンテに、一応確認してもらい、問題ないと太鼓判を押されたので、ウィリディス工房に早速、建造するよう頼んだ。



  ・  ・  ・



「お疲れさまでした、ジン様」

「ラスィアさん?」


 ノイ・アーベントの屋敷、執務室に行けば、ダークエルフの美女にして王都冒険者ギルドの副ギルド長が、俺を出迎えた。都市管理コアのガーネットと共に。


「えーと、どうしてここに?」

「つれないですね、ジン様」


 にこやかに微笑むラスィアさん。妖艶ダークエルフのそれに、ゾクリと胸が躍った。


「貴方様の下僕として、加えていただける約束をしておりましたから、それを果たしに参りました」


 そういえば、ダークエルフたちを大帝国から救い出した時、報酬の話で、下僕、というか人員の提供って話があったな。で、その下僕候補に真っ先に志願したのが、ラスィアさんだったと。


「本気なんですか?」

「私を疑うのですか?」


 心外とばかりに、ダークエルフの美女はその豊かな胸もとに手を当てた。


「ジン様にお仕えする以上、我が身体は、すべて貴方様のもの。いかようにお使いください。何でもいたします」

「何でも……?」

「はい、何でもです」


 意味深。本当に言ったら何でもしてくれそうな表情である。……俺に婚約者がいなかったら、ぜひ夜の供に誘いたいところではあるがね。

 読み書きはもちろん、事務仕事もできて、Aランクの冒険者にしてユナに匹敵する魔術師の加入は、人手不足のウィリディスとしてはありがたい。


「それで、早速ですが、ジン様は少々お疲れのご様子」


 ラスィアさんはすっと目を細めた。


「よろしければ、癒やしのご奉仕を――」


 一体何ですかそれは? 自然に距離を詰めてきたぞラスィアさん。この人、いやに積極的過ぎやしませんかね? あれー、こういう人だったのかな。


 そういえばいつも副ギルド長、としか見ていなかったから、プライベートなラスィアさんって、あまり知らないんだよな。


 その時、ドアが叩かれた。それまでずっと黙っていたガーネットが「どうぞ」と答える。……そういえばいたな、彼女。


 とか思っている間に、ラスィアさんは椅子に座る俺の後ろに回り込んで、何やら首まわりのマッサージをはじめた。手が早い。


「失礼します」


 入ってきたのはメイド服姿のサキリスだった。彼女は、俺とそのすぐそばにいるラスィアさんをみて、心持ち眉をひそめた。


「マッサージでしたら、わたくしが致しましたのに……」

「ああ、うん。そうだね。サキリス、今日からうちで働くラスィアさんだ」


 お互い顔見知りなので、大して説明はいらない。


「ラスィア、と呼び捨てで結構ですよ、ジン様」


 ささやくような甘い声でラスィアさん。サキリスが目を伏せた。


「ご主人様、ではラスィアさんも、夜のお相手に加わるということでしょうか?」


 何いきなりなことぶっこんでくるんだ、サキリスさん!


「もちろん。私は、ジン様の下僕。この体もご随意に……」


 いや、あんたも何さらりと言ってるのラスィアさん!


「下僕……。あ、では、わたくしと同じですね」


 サキリスはにっこりとラスィアさんに微笑んだ。


「では、以後よろしくお願いします。わからないことはわたくしがお答えいたしますわ」

「よろしく、サキリスさん」


 ……もう好きにしてくれ。俺は適当に手を振った。


「それで、サキリス。何か用件があって来たんじゃないか?」

「失礼しました、ご主人様。……実は、ご主人様にお客様が見えられておりまして」

「俺に? 誰だい?」


 ノイ・アーベントで、俺を訪ねてくる人ね……。住民が個人的に、というのはあまりないから、誰だか本当に見当がつかないな。


「アルトゥル・クレニエール子爵閣下でございます」

「は!? アルトゥル子爵が?」


 エクリーンさんの弟くんじゃないか。てか、貴族様がノイ・アーベントに来ていたの? まったく出迎えもしていなかった。さすがにちとマズイだろこれ。


「すぐにお通ししろ」

「はい、ご主人様」


 サキリスはメイドドレスの裾をつまんで一礼した。それと入れ替わるように、ベルさんが黒猫姿でやってきた。


「おう、何かあったのか?」

「アルトゥル君が来てるって」


 俺が答えると、トコトコと歩くベルさんが、ひょいと机に飛び乗った。


「へえ、何しに?」

「それは俺も知りたいね」


 それをこれから話すんだろうけどさ。フレッサー領がうまくいってなくて、支援の要請だろうか。それとも、逆に復興支援のお礼を言いにきたのかな?


 しかし急な来訪と言える。普通は、これこれこうだから『この頃にお話できませんか?』と前もって連絡してくるものではあるけど。


 急な用件か、それとも何か外部に漏れたらマズイ内容か。……ああ、そういえば、アルトゥル君とは別に、ヴェルガー伯爵と会ってお話するってことになっていたな。

 こっちも日取り決めておかないといけないな。

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